探偵もどきどもの集結
「どどどどどゆこと?」
改めてちゃんと洗い直した硬貨を眺めながら、若菜が首をかしげた。
「こっちが知りたいっすよ。なんでっすかね?」
美和もわけが分からないとの表情である。そりゃそうだ。
「えーっと」僕が整理を試みる。「このコインは、昨日今西が失くしたやつ」
「そうっす」
「で、このチョコは……小坂がつくったやつ?」
「そうだよ! 昨日!」
おおう。心なしか元気が戻っているな。
「それ、どこで?」
「家庭科室だよ! 放課後!」
なるほど。確か、放課後のそういう目的での使用は許可されていたなあ。もっとも、そんなに利用者はいないらしいけど。ということは。
「昨日なくなったコインが何らかの手段で小坂のもとに渡って、それがチョコに混入してしまった、ってことか……」
自分で言ってみて思う。
そんなことあるかあ?
僕と美和は同じクラスだが若菜は違うし、そうそうあり得ないと思うんだけど。
「美和ちゃん、どこで落としたの? コイン」
「それがわっかんないんすよ。昨日の午後の体育が終わってからないなーって記憶はあるんすけどね。普段は財布に入れてるからそれだけで落とすとも思えないっす」
「逆に小坂がそれを拾ったりはしてないんだよな?」
「してないよっ。してたらこんなに驚かないもん! ねえ、ルリちゃん!」
言うや否や、若菜は教室の中を移動して、一人の少女を連れてきた。
「うう……なに……」
やる気がなさそうに言う彼女は、川端瑠璃絵。いつでも面倒くさそうな顔でいる、サボりの常習犯だ。化粧も嫌いでいつもすっぴん、ヘアスタイル整えるのも嫌いでストレート、将来はニートになりたいと言ってはばからない、テストも赤点スレスレの残念な子である。よく考えれば、すっぴんなのかこいつ。素材いいな。
「ルリちゃんと、昨日は一緒にチョコつくってたんだもん。あとね」
言うや否や、今度は教室を飛び出す若菜。ほどなくして、目を白黒させているお嬢様風の女子を連れてきた。
「エミちゃんも一緒だったの! 三人!」
エミちゃんとは白庭台恵美、今年転校してきた子で、豪邸そうな名前負けしないお嬢様である。若菜とは同じクラスで、転校したての緊張をほぐしてくれた若菜によく懐いているとか。
「ど、どうしたんです、小坂さん」
事態がよく呑み込めていない瑠璃絵と恵美に、若菜が説明をする。
すらすらと、かなりわかりやすい。意外だ、こいつこんな才能あるんだな。
「……ふーん……ま、なんかの弾みなんじゃない……」
「それは不思議ですわね。どういうことでしょう……」
まったく動じない瑠璃絵と、オロオロしだした恵美。対照的だが、こういう状況にお嬢様はあまり慣れていないのだろう。
「とにかく、三人ともコインの件は身に覚えがないってことだよな」
僕が問いかけると、揃って肯定された。
ふむ。
まあ、美和もドル硬貨が戻って一件落着だし、なにか深刻な事態が発生しているわけではない。
しかしこの事態をこれで終わらせてしまうのは、なんだか引っかかりが悪い。
それは僕以外も同様のようで。
見渡せば、一様に不思議がる面々がいた。瑠璃絵ですらも、「変な話……」と呟いている。
普通に考えれば、なくなったコインが若菜の手に渡る可能性は考えにくい。僕という共通の友人がいるものの、この二人は特別仲がいいとかそういうものもない。美和は基本的に活動的でないタイプだし、謎は深まる……
……ん?
ふと、思うものがでてきた。
「鳴子クン、どうしたっすか? 顔つき変わったっすよ」
「いや……」
ちょっと発想を逆にしてみたのである。偶然で説明がつかないのだから、故意で説明してみるか……おっ。
「ちょっと、思いついたことがあるんだけど」
僕の提案に、美和・若菜・瑠璃絵・恵美がそろってこっちを向いた。
あ。今、探偵ドラマの探偵の気持ちわかったかも。結構気持ちいいぞこれ。
えへん、と咳払いをしてみる僕は、まだ分かっていなかった。
これを発端として始まる推理が、これからうんざりするほど目まぐるしい応酬になっていくっていうことを。