正解探してまた今度!
「あたし、そのコインが恵美ちゃんのじゃないのかなーって思うんだよねー」
若菜の弁に、僕と滝井と瑠璃絵は頷いた。残る二人は別世界に旅立ってしまっている。
「確かに恵美ちゃんは早くにコインをなくしたんだと思うけど。それをあんたが拾ってたら話は別だもんね」
「そうだよねえ……って僕?」
またこのパターンか!
「そう。それで前の推理にもどるけど、チョコを食べるときに入っていた振りをしたと」
「や、だから僕、今西からは毒見用のチョコをもらってるんだって言ったじゃん。その時に返せばいいよねって」
「うーん、そこもなんだけど、毒見用のチョコをもらってから昼休みまでの間に拾ったって可能性を考えてなかったねーって」
うわ、そんな細かいところまで言われたら反論できないぞ。拾ってないけど証明はできない。
「……ってか、それだと美和のコインだろうと白庭台のコインだろうとどっちでも同じなんじゃないのか?」
滝井が口を挟み、若菜は手をポンと叩いて「あっそうか」と言う。
「まあそこはそこでいいのよ。要は、あんたがコインを拾ったって可能性だけが消えてないのよねえ」
なんだよ若菜。えらくつっかかるなあ。さてどうしたもんか。
僕が反論を考えていると、
「ま、いいよ。もうすぐ昼休みも終わるし、あの二人あんなんだし、とりあえずお開きにしよう」
若菜から終了の提案だ。もちろん、今の僕からしたら願ってもない。
「……そだね……疲れた……」
「お、それもそうか」
瑠璃絵と滝井も同調する。そうか、滝井としても彼女の存在をカミングアウトできてすっきりということだな。
「てなわけで……さ、残りのチョコ食べちゃって」
「は?」
ええ? 若菜さん、何を言いますのん?
「もったいないでしょ。はよくえくえ」
えー……そりゃあまあ、さっきは同情もあったし食べたけど、今はなあ……まあ、失恋進行中なのは一緒か……
僕はしぶしぶ決意して、何口かかじっただけのでっかいチョコに再びかじりつく。
かりっ。
「……ん?」
なんか、前にも同じ体験をしたような、この感触……あ!
数十分前のように口からそれを取り出して、ティッシュでふく。
案の定、それは出てきた。
「……二枚目のコインだあああああ」
「なんですって?」
「マジっすか?」
僕の叫びに、自分の世界に入っていた美和と恵美もこっちを見る。
「……おおう、新たな謎」
滝井が呻いてコインをまじまじと見る。それはさっきまでさんざん議論していたものと瓜二つのコインだった。
「……だるー」
瑠璃絵がため息をつき、若菜も肩を落とした。
どういうことだ、チョコに二枚のコインが入っていた。これは……美和のも恵美のも入っていたことになるが……
沈黙。六人がお互いを見合い、ほのかな牽制状態に陥る。
そして。
「と、とりあえず放課後に!」
美和の一声で場の空気が決まった。確かにここで終わるのは気持ち悪い。かといって昼休みの残り少ない時間で議論するのも疲れる。
推理に次ぐ推理のあとは、新たな謎を迎えての推理になりそうだ。
いったんの小休止は、必要だろう。
「じゃ、またな。次の推理、鳴子からだぞ」
滝井が調子よくクラスを出る。あ、早速女子数人につかまってる。頑張れ。
その横では恵美が美和とぎゅっと手を握ってから名残惜しそうに離れた。うん、末永くお幸せに。
同じクラスの瑠璃絵の姿が見えないと思えば早くも席について寝ている。お前は廊下に立たされろ。
そして若菜はというと、こっちをじろっと見ている。
……なんとなく察したぞ。
目線をチョコに落としてから若菜を見ると、鼻息荒くうなずかれた。
「……こだわるねえ」
つい口にすると、ずずいっと寄ってくる若菜。
そして一発、頭突きをくらう。
「いてっ」
と僕が呻いたと同時に、
「気付けっ」
と、小さく叫んでから、足早に教室を出て行ってしまった。
……気づけ?
その三文字が頭をリフレインする。
まさか。
僕は急に全身から冷や汗が出てくるのを感じた。まさか。いやそんなはずはない。
けど……思い当たるところもある。誰とは書いていない「好きだー!」のメッセージカード。滝井の彼女暴露にも動じない姿。
いや、それにしても回りくどいやり方だろ……そりゃ、滝井に行って成功する確率なんてないだろうけども。
……否定できないぞこれ。ほんとなのかこれ。
「……鳴子クン?」
怪訝そうに問いかける美和の傍ら、僕は無意識のうちに残りのチョコレートをほおばっていた。
糖分がすごい勢いで供給され、心拍数があがる。
いや、いや、いや……
とりあえず、バレンタインは滅びなくてもいいかもしれない。
昼休みの終わりと授業の始まりをつなげるチャイムが鳴り、僕の脳内でループした。
若菜→鳴子 and more...




