止まらぬカミングアウトかぶせ
「ここまで推理が外れ倒していたのなら、もうウチも封印していた最終手段を出すしかないっす!」
「最終手段?」
滝井が訝しげに眉をひそめると、ふっふっふと含み笑いをする美和。なんだかこの二人、ちょっとお似合いに見えてきたぞ。
「そうっす。これがミステリなら、今更持ってきたのそれ? みたいなやつっす!」
「なに……今西、双子だったの……?」
「なんでそうなるっすかー!」
ま、まあ瑠璃絵の言う事も分からんではない。よくないミステリのお手本である。
「ちがうっすよ。ミキちゃんっす」
ミキちゃん。はて、なんだったか。
あ、思い出した。
「あー、昔の友達で、コインを一枚ずつ分け合ったって、あのミキちゃん」
「正解っす鳴子クン」
「ってことはなに、この中にミキちゃんがいるってこと?」
「そうなんすよ」
ちっちっと指を振る美和。それって否定の時にやるんじゃないの。
「前にもちょっと推理したっすけど、ウチのコインがなくなったのと、チョコにコインが入ったのは別ってやつっす。で、チョコに入ったコインがミキちゃんのものならば、ウチの持っているのとおんなじやつなんで問題なし、と。しかも、ウチがこうしてコインなくしたって騒いでいるんなら、おいそれと自分のだって言いにくいはずっす」
その流れは非常に良く分かる。
「問題は、誰がミキちゃんってことか、だよね」
僕が口をはさみ、美和が「その通りっす」と受ける。だが、ミキなんて名前の人間、ここにはいないぞ。
若菜、瑠璃絵、恵美を見れば、一様に緊張した面持ちである。え、マジで君たちの誰かがそうなの?
「ミキって名前がいてくれたらいいんすけどね。いないってことは……あなたっす! 三木若菜ちゃん!」
「あ、あたし?」
「ってか、ミキって苗字かよ!」
若菜の困惑と僕のツッコミが同時に入った。
「や、ウチも名前だと思ってたっすけど、まあ苗字でもおかしくはないかなあと。そんで確か小坂サン、前のお父さんがどうとか言ってたんで、苗字変わってるのかなって」
また、そんなちっさい前のやり取りから拾ってくる……
「というかあたし、前のお父さんは婿養子に入ってるから苗字変わったことないんだけど……」
「ぎにゃーっす!」
三秒で推理を打ち砕かれ、へなへなと滝井に寄りかかっていく美和。だからちょくちょくカップルをはさんでくるんじゃあない。バレンタイン滅びよ。
「じゃ、じゃあ」大変見苦しくなってくる。「川端サンっす! きっとそんな感じの過去があるはずっす!」
「今度戸籍謄本の写しでももってきてあげるよ……」
「ふぎゃーっす!」
いや、そうなるだろふつう。
「そ、そしたらあとは一人っす! 白庭台サンっすね! そうだ、よく考えたら転校生じゃないっすか! ミキちゃん、この町に帰ってきてくれたんすね!」
やれやれ。僕が肩をすくめると、若菜と目があった。
……だめだこりゃ。
いま、そんな思いが通じた気がした。
が。
「…………」
恵美の否定の声がない。むしろ黙りこくっている。
え、どういうことよ。
「ほら、反論がないっすよ! ってことはやっぱり……え?」
美和も自分で言っていてその内容の重大さに気づいたようだ。
「……マジでミキちゃんっすか?」
挙動不審レベルマックスの美和の問いに数秒の時間をおいてから、恵美はおもむろに号泣し、
「ごめんなさあああいい」
と、顔を覆いだしてしまった。
「おいおい、マジかよ」
彼女が慌てふためく横で滝井が青ざめる。
これはなんというか……予想外の展開ではあったけれど、爆弾だぞ。
そこからは涙交じりの恵美の弁だったのだが、いかんせんヒアリングに苦労したので僕が翻訳しよう。
いわく、恵美は間違いなくミキちゃんであった。三城さんであったらしい。親の離婚によって姓が変わったというやつのようだ(なんでも、どちらにも引き取られずに白庭台家の養子になったというややこしい事情のようだけど)。
で、美和とのコインは大事に持っていて、このたび故郷への転校が決まり、期待に胸を高ぶらせていたらしい。
ただ、恵美としても「ミワちゃん」という記憶しかなく、今西美和は確かにミワちゃんなのだが学年にはほかにも候補がいたわけで、しかも中学ならともかく高校は地区が関係ないからうまく探し出せずにいたようだ。
そしてこの騒動に巻き込まれ、美和とミワちゃんが一致したのであるが、コインをなくした状態でカミングアウトができなかったのだという。
つまり、美和の推理はおおむね正しかったことになる。思い返せば、さっき恵美が美和に推理を打った際、美和が「そんなコインの行方が不明瞭になるやり方はとらない」と指摘したとき、やたら動揺していた。あれはコインに対する思い入れの表れだったのか。
しかし、である。美和の推理はおおむねあっていたが、違うところもあった。
「私、家庭科室で小坂さんたちとチョコを作る時には、もうコインをなくしてしまっていたんです……なので、混入するはずはないし、そこにあるのは今西さんのコインだと思います」
ようやく落ち着いた様子で、恵美が証言したからだ。
なるほどなあ。なかなかずばっと解決しないねえ。
僕が腕を組んで考え込んでいると、美和が胸をそらすようにして、
「まあ、それはそれでいいっすよ。ほんとにこれがウチのかどうかなんてわかんないっすし。そんなことより、こうしてミキちゃんと再会できたのがうれしいっす。そうだ、なんなら二人でこのコインを大事にするのってどうすか?」
とかいうものだから、恵美がすっかり感極まってしまい、
「ミワちゃあああん」
「ミキちゃん!」
熱い抱擁に至ってくれた。うん、感動のシーンなのはわかるんだけどもなんだか置いてけぼり感がある。
瑠璃絵も滝井も、なんだかなあという表情を浮かべている。
「……ほんとにそうかなあ」
若菜に至っては、なんだか語りたそうだ。ということで聞いてみよう。
美和→若菜




