表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 卯月奏
2/3

春の日

目をさました私はいろいろな物に興味をもつ。


弟の(りょう)くんに持ってきてもらった本を読んだり、

母が持ってきてくれた私の荷物、

父が買ってきてくれた楽譜。

私はどうやら芸術系の大学の音楽を専攻しているらしくピアノがひけるみたいだ。


どうなんだろう?記憶がなくても

体にしみついたりしてるものなのかな?

家に帰ったら試してみよう。


私の病室のお見舞いだと思われる花や果物は

一体誰が持ってきているんだろう。

花束はとても沢山の種類の花がはいっていてきれいだ。あとでこれが何色なのか聞こう。


私の友達なのだろうか。

それとも彼氏とか…(笑)それはないか(笑)


こんな事を考えていても思い出せないし

外に散歩でも行ってみよう。


空を見上げる。

雲一つない空。

今日は快晴のようだ。

そして満開の桜。

病院のすぐ横に桜並木があり、川がある。


色がみえない私にもこの景色がきれいだと言うことは分かる。


春の風、春の匂いこれだけで十分すぎるほどに春を感じる。

なんだ、色がなくてもこれだけの事を感じられるのか。


私の視界に1人の男性がはいった。

どうやらこの風景を描いているらしい。


…人と会うのが久しぶりだからなのだろうか。

私はその人をみて、胸がドキドキするのを感じた。


その人がこちらを向く。

目があう。

彼は一瞬驚いたような顔をして

「え…」

と声をもらす。


もしかすると私の知り合いだったりするのだろうか


「あの…違ったらすみません。

私の知り合いの方ですか?」


「いや、知ってるというほどではないんだけど

大学でみたことがあるような気がして…(笑)

というか…もしかして記憶喪失とか?」


大学が同じ人なのか…

なら、さっきの胸の高鳴りは記憶からくるものなのかな?


「はい、そうなんですよね(笑)

えっと…あなたは絵を描きに?」


「…実は知り合いがそこの病院に入院しててね(笑)

大学の課題もでてたし、ついでにね(笑)

あ、自己紹介をしようか、

僕の名前は水戸羚(みとれい)って言うんだ。

羚って呼んで!

大学2年で絵を専攻してる。

というか、敬語やめてよ(笑)僕ら学年一緒じゃん(笑)」

言われてみれば羚の横には

花束がおいてある。


「絵か…今の私には1番縁が無い物だなぁ」


気づいたら口にだしてしまっていたらしい。

羚は不思議そうな顔をして聞く。


「なんで?絵はさ、誰にとっても身近なものだよ?ほら」


羚は描いた絵は私に絵をみせた。

胸が高鳴った。

その絵はモノクロの世界からでも分かるほどの上手さでこの桜並木、流れる川、雲一つない空、描かれてなくても届いてくる春の風。

全てが表現されている。


色のある世界でこの絵をみたかった。

ただそう思った。


「実は記憶喪失もそうなんだけど

色がみえなくてさ(笑)

でも、それでも羚の絵、私は好きだな(笑)」


羚はほんの一瞬ものすごくつらそうな顔をしたような気がしたが

気づくとほほえんで私をみて言った。


「そっか…大変だね…

あのさ、もしよかったらなんだけど

僕と友達になってくれませんか?」


びっくりした。

だけどそれと同時に心があったまるような気がした。


「うん!もちろん」


私はそう答える。


「じゃあ、これ、僕の連絡先ね」


そういって私に紙切れを渡す。


「ありがと!連絡するね!またね!」


私はそういって桜並木を通って病院へ帰る。

今、なんだろう、とても心があたたかい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ