6話 再び森へ
3日後、予定通り家にロイがやってきた。
今回は中級魔法薬の材料と俺が手に入れたい素材の両方の調達が目標なのでやって来たロイを部屋に引きずり込んで服を引ん剥いた。
魔力を扱えない者に魔力を扱えるようにするには扱える者が魔力を流し体内の魔力の流れを感じる事から始めるのだが…
悠長に身体を慣らす事などしない。
床に横たわり涙目でプルプル震えているロイ。例えるなら子犬だろうか?俺にはガキ、しかも男に欲情する趣味はないがここにシルディアがいれば即効でお持ち帰りされて大事なものを奪われただろうな、と昔いた弟子の一人のことを思い出していた。
「と、いかんいかん」
フルフルと首を振って思考を戻しロイの背中側に立つと心臓のある場所めがけて大量の魔力を一気に流す。
「あがぁぁぁぁぁぁぁ……」
悲鳴を上げながらごろごろと床の上をのた打ち回る。
うん、うまくいった。体中を流れる血管と同じように魔力回路が活性化して目視できる。
問題はないようだ。
「ぎもぢわるい。遠くの物がくっきりと見えるし、小さな音まではっきり聞こえてすごくうるさい」
「魔力の活性化で無意識に身体強化がかかっている状態だな。心配しなくても暫くすればじき収まる」
「ぞんな」
それから20分、収まるまで結構長かった。
平民の割にはロイは魔力量が多いのかもしれない。
「あ、あの。これ、着けて行くんですか?」
「今日採りに行く所は魔獣の巣の近くだったりするからな、防具に関してはこれぐらいのほうがいい」
「で、でも…」
なおも言い募るロイに笑顔でこの前みたいに死にたく無かったらグダグダ言うなと切り捨てた。
ロイに着せているのはいわゆる虫装備だ。
人食い蟷螂の甲殻を削った胸当て、肘当て、膝当てを着けて調整していく。
虫装備の利点はその軽さと調節できる幅の広さだろう。ある程度引っ張ったり捻っても壊れない柔軟性と高い耐衝撃性を兼ね備えているのだ。
防水性も優れているので変わりやすい山の突然の雨も心配ない。だが逆に耐火性はないし、防刃性は何もしなければ無いに等しい。
そこで登場するのが裏側に施された衝撃硬化の魔方陣だ。これには装着者が魔力を流し込まなければいけないのだがロイは平民、魔力など扱った事などないので家に来た時点では無意味な装飾同然だったが魔力が扱えるようになった今では十分な防御力を持っている。
だがいくら口で説明するよりも一度体験したほうが分かりやすいだろう。いつもは木の実や種を粉砕するために使っているハンマーを持ち出し大きく振りかぶる。
「それじゃあ一丁思いっきり行くから避けるなよ」
そういって振るわれた俺のハンマーの一撃をロイは あっさりと避けやがった。
「避けんなよ…」
「いや、避けるよ。怖いし、怪我するよ」
「怪我しないことを確かめるための実験だろ?男なら覚悟決めてほら万歳」
そして振るわれた2度目のハンマーはきれいにロイのお腹に吸い込まれていき、カーンと甲高い金属を叩いたような音を響かせた。
そいて叩かれた方のロイはというと「えっ?こんなもん?」と防具の性能に呆然としていた。
一方の俺は武器は前回と同じ6本のナイフで使用した火と風のナイフはきちんとメンテ済み。着ているのはキングボアの厚革鎧。フギャータに引き千切られた物よりも革が厚く丈夫なのだが、いかんせん通気性が最悪で簡単に蒸れるのが唯一の欠点だ。
新しい身体を作る際身体の外見を後5歳ほど大きくしておけばよかったと、こういう何気ないところで痛感する。
そうすれば生前の服もお直しなどなくそのまま着る事が出来、魔方陣の刺繍がびっしりと施されたえげつない服があり鎧が必要ないのだ。
そして残念だがその服は縮小の魔方陣で縮小させることができない。いや、縮小させることは出来るのだがこの場合、出来ないではなく意味が無いと言う方が適切か。縮小すれば当然刺繍されている魔方陣も等尺で縮み、本来想定される威力や効果が得られなくなるのだ。そのため魔方陣が描かれた防具は一点物で驚くほど高価だ。
その高価な鎧一式をロイに着せ、自分は厚革の鎧。だがそこは魔術具で補えば良いだけで…
俺は両腕に守りのブレスレット、両足首に身体補助のアンクレットを装着する事で簡単に性能差が逆転した。
着替えが終わった俺たち二人は採集に向けて森へと出発する。