3話 採集に行こう
俺は町のトワイライト亭に来ていた。
「はい、おまちどお」
そういってテーブルに置かれていく黒パンにイモとニンジンのスープ、野菜を千切っただけのサラダ。
それらを残さず平らげ一息つく。
「ごちそうさま」
「はいはい、今日のお代は420ウェンね」
そう言われ俺は財布から銅貨を5枚出した。
「500ウェンね、それじゃ、お釣りの80ウェンね」
俺はお釣りとして大鉄銭を8枚受け取った。
この国で一番小さい硬貨は鉄銭で十枚で大鉄銭となり次いで10枚ごとに銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と桁が大きくなっていく。
国ごとにデザインが違ったり形も千差万別だが重さと硬貨に含まれる含有量が世界中の国々で共通されているので国を跨いで商いをする商人などはその国のお金と手持ちの金を交換するような感じだとか。
ただ他の国では鉄銭は信用できない、とされ銅貨からが基準の国も多々ある。そのため物価も高いがそういった国はすべからく大国なので同時に身入りも多いので問題にはなっていない。
「それにしても毎日朝昼晩と来て食事をしてくれるのはいいけどお金は大丈夫なのかい?」
手が空いたマーサさんが俺に話しかけてくる。
孫ということで俺は生前貯めていた資産を相続することができた。
相続税として白金貨十数枚が飛んでいったがまだ家の金庫にはまだ白金貨が十枚以上残っている。
それを周りの人は知らないので葬儀から1月が経ち、家にこもって節約することなくお金を使っている俺はかなりの浪費家扱いされていた。
別に教えることでもないのでこのままでいい。教えたら教えたで別の者がわくので陰口を叩かれている方がましと言うものだ。
「問題ないよ?それに今日はこれから久しぶりにダバム山の森に行くんだ」
「珍しいね、採集かい?気を付けて行くんだよ」
マーサさんに見送られて店を出た俺は一度家へと戻り採集に行くための準備に取り掛かった。
服は動きやすさ優先、背中にはリュックを背負い水と携帯食、救急セットが入っており、腰には武器であるナイフがぶら下がっていた。
森には普通の動物もいるが魔獣もいる。魔木も生息しているので武器選びは重要なのだが、その点で言うと今俺が身に付けているナイフは周りと比べると反則に近いだろう。
左右に3本ずつ、計6本のナイフにはそれぞれ刃の根元に各属性の魔石をはめ込んだ特別製。魔木、魔獣にはそれぞれ属性があり属性には相関関係が存在し、弱点となる属性が必ず存在する。それを踏まえて作ったのがこのナイフだ。
「は~、久しぶりの採集だ~」
森に生い茂る草の匂い、むき出しの土。
年を取って森にいけなくなり研究に使う材料や素材はすべて購入するようになっていた。若かりし頃は気の会う仲間と連れ立って川や森、岩山に行き、競うように高品質の素材を手に入れようと奮戦したものだ。
そして同時に肩を寄せ合い知恵を絞り多額の資金をつぎ込んでようやく晩年に完成したのが腰のナイフだ。だが自分がこれを使っていられたのは7、8年ぐらいか。
なので童心に戻ったようにウキウキとした気分で俺は森の奥へと進んでいく。
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この1ヶ月、おれはただ家にこもっていた訳ではない。
まったく動かなかった身体を鍛えこうして日常生活が送れるようにし、同時にこの身体を徹底的に調べた。
身体に目立った傷がないのは確認済み、しかし記憶がなくなっていたときは驚いた。
葬儀が終わり落ち着いてからゆっくりと記憶の整理をしたのだ。
解ったのは十代、二十代のころの記憶がごっそりと抜け落ちその後も虫食いのような記憶の欠落が発覚した。知識に関しても虫食いのように穴があるのだが知識に関してはその穴を埋めれば普通に記憶できることが判明したのは朗報だった。
身体に関しては筋力アップの軽めの運動、ストレッチからすることにして少しずつ身体を動かしていった。
うれしい誤算というかこの身体での長々と筋力アップの日々が続くと覚悟していたがわずか1週間と経たずに日常生活ができるぐらいの筋力がついた。
しかしその後がだめだった。力加減がうまくいかない。0と50と100の3段階ぐらいしか力の調整ができず、家の中が悲惨な状況になっていくのに時間はかからなかった。
俺は知恵を絞りに絞って『身体強化』の反対『身体劣化』の魔方陣を完成させそれを服と手袋に刻むことで0から50までの力加減は問題なくなった。
しかし50から上の力加減はどうしようもなく根本からの解決しかないとの結論に達した。
つまりこの身体を弄ると言う事。そしてこの問題解決に必要になるであろう素材を集めに森に行く。そして癪に障るがここは専門家に頭を下げて何とかしてもらうつもりだ。身体の内部から身体の組織ごと組み替えるから自分では手が出せないし専門の知識にも欠ける。
手に余るのだ。
俺は大きくため息を吐き出し気分を入れ替えて俺は採集を開始した。