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俺は研究がしたいんだ!  作者: N・T
3/10

2話 葬儀

新しい体を手にすることができたエルディット・シルベスター

彼の家に一人の男が訪れた

晴れ渡った空の下、町の教会で老人の葬儀が行われていた。


「闇の神よ 此度一人の老人がその生を全うし、今あなたの元へと帰っていきました。

どうかその御身に彼の御霊を抱いて天の園へとお導きください」


教会の神父が聖典を片手に葬儀の言葉を述べていく中、一人、また一人と献花台に花を捧げて行く。


「火の神が授けた聖火よ 彼の者の汚れを払い御霊を縛る鎖を溶かせ 闇の神が通りし天の園への道を照らせ」


 葬儀は進んでいき火葬のために死体に火が付けられた。死体を彩る花と死体を焼くための木材がパチパチと音を立てながら火の勢いは大きくなっていく。俺は涙を流すことなく自分の死体が炎に包まれ灰になるのをただじっと見つめていた。

 人を灰にするのは時間がかかる。火葬が行われた後は親しい者を残して解散となるのが普通である。そのため、首都で働くかつての知り合いや元弟子たち苦楽を共にした者、いがみ合い喧々諤々の大喧嘩をした奴も葬儀には律儀に参加し、涙を流して帰っていった。


「お前の方が先にくたばったか」


 そう言って帰路に発つ親友の姿はひどく寂しげだった。遠方で参列できない人には死亡した事を伝える手紙を何十枚と書いて送った。体力のない子供にとんでもない仕打ちである。

 近所の大人たちは甲斐甲斐しく俺を手伝ってくれはしたが手紙に関しては“親族”が書くのがマナーだと言って譲らなかった。


 最後まで葬儀に参列しているのは俺の他に家に食材を運んでくれていた商人のフランツと町の薬師であるミーレさん、宿屋兼食事処の女将さんのマーサさんと町長と国の役人が数人だった。


「終わったな。ベスター、家にはお前一人だが町にはお前を助けてくれる大人がたくさんいる。安心して頼って来なさい」

「はい、ありがとうございます」


 笑顔で挨拶を返したがこれからもベスターと呼ばれると思うとがっくりとくる。

この新しい体の名前はもっとマシなものをつけたかった。

 俺は一週間前のあの日のことを痛烈に後悔した。



____________________


「エルディットさん居ますか~?おかしいな、返事がない。あ、あれ?鍵が空いてる」


 そんな声を聞きながら俺はパニックに陥っていた。

『まずい、まずい、ここはどうすればいいんだ?』

 ぐるぐると思考が空回りするだけで体は全く動かなかった。そうしている間にフランツが部屋に入ってきてしまった。


「だ、誰だ。って、子供?エルディットさんは…」


 そこまで言って彼の目に仰向けに横たわる人物が視界に入ったのだろう。


「エルディットさん!」


彼は大声を上げすぐさま駆け寄り死体を確認する。


「死んで、いる…」


 そう呟いてすぐさま俺に視線を向けてくる。


「見かけない顔だけど君は誰だい?名前は?」

 名前を聞かれたのですぐに「エルディット・シ……」

 シルベスターと名乗ろうとしましたがそれは死んでしまった自分の名前であってこの体に名前はまだない。こまった!


「エルディット?お孫さんかな?うん。で、下の名前は?」


 下の名はと聞かれてもそうそう思いつくものではなく、結局答えに窮して咄嗟に自分の名前から取りました。

「べ、ベスターです」

『ベスターってなんだよ!あぁぁぁ』

穴があったら入りたい。


「ベスターか、いい名前だね」

「はい、お祖父さまのお名前から貰ったんです」


 そういう風習もあるし咄嗟についた嘘にしては上出来だ。だが恥ずかしいからこれ以上はやめてほしい。誰も居なかったら恥ずかしさのあまり床を転げ回っていただろう。

 フランツさんは眉を寄せ一言もしゃべらなかったが一度頷いた後、俺の手を引っ張って家を出た。けれど体力のない俺はすぐにヘロヘロになってフランツさんに背負われたて町まで運ばれた。


__________


「あら、フランツ。早かったじゃない。あら?背中の子はどうしたの?」


 町に入って暫くすると一軒の薬屋の前で一人の女性がこちらに気づいて声を掛けてきた。


「ミーレか、ちょうど良かった。エルディットさんが家で亡くなっていた」

「ええっ、本当!?」

「ああ、この目で確認したから間違いない。この子はエルディットさんの孫、でいいんだよな?ベスターっていう。とりあえず葬儀をするにしても色々あるからトワイライト亭のマーサさんに頭を下げてくる」

「……私も行くわ、そのほうが確実だもの」

「悪い、助かる」


 そして連れて行かれたトワイライト亭のマーサさんの前で事情を説明しあれよ、あれよと葬儀の段取りが進んでいった。

 お役所仕事として遺産の相続の事で町長や役人が宿に訪ねて来たり、交友関係が広かったため訃報を伝える手紙を何十枚と書いているうちにあっと言う間に月日が過ぎ葬儀の日が訪れた。


「疲れた」


 1週間ぶりに帰ってきた家はきれいに掃除されていてテーブルの上は錬金術で使う道具が並べられており床に書かれていた魔法陣は跡形もなく消されていた。寝室の布団は外で干され気持ちよく、疲れた体を横にするとすぐに眠りにつくことができた。

新しい名前はエルディット・ベスターになり葬儀は無事に終わりました。

これでベスターとしての物語が始まります。


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