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俺は研究がしたいんだ!  作者: N・T
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9話 中級魔法薬の完成

 俺はロメルディアの死骸を抱いて森の中を進んでいた。だが血の匂いに誘われて肉食の獣たちがお構い無しに寄ってくる。

 フギャは殺すのも面倒なので身体強化した蹴りで蹴散らし、ブラッディブラックウルフは土のナイフの土槍で地面から串刺しで仕留めた。

 荷物が多くなるのでブラックウルフの毛皮と牙と魔石を回収したら肉は捨てた。狼の肉だから不味くて食えないし、またルコの実があったので回収した。

この前のは乾燥させて粉末にして砂糖もどきにしたので今度は本物の砂糖と煮詰めてジャムにしようか、いっそ果実酒?悩むところだな。


 まぁそんな風に血の匂いに誘われた獣を蹴散らし、通り道にあった木の実を採集してロイが待つ集合場所に着いたがロイが子供たちに囲まれて身動きが取れなくなっていた。

 あの中に入っていくのは嫌だ。ロイには尊い犠牲になってもらおう。

 だがそんな俺の願いは叶わなかった。



 あ、やばい、ロイと目が合った。


「ベスターく~ん!」


 やめろ、手を振って大声で俺を呼ぶな。

 囲んでいた子達が揃ったようにこっちを見てロイを通す道が自然と出来た。その道を通ってロイが急いでこちらにやってきた。


「お願い。みんなに説明して!」

「は?」


 いまいち状況が分からなかったのでこれまでの経緯を聴くことにした。

 …そして分かったことは。


「つまりロイが何でこの鎧を着ているかが知りたいのか」


 俺と別れた後、ロイは近くの果実園に行ったらそこに知り合いのお兄さんがいた。で、そのお兄さんがオオの実とツイの実を分けてくれたから時間が余ったので害虫駆除をしてからここに来るようにしたらお兄さんが引率として付いてくる事になり、集合場所に着いてもまだ俺は着ていなかった。

 時間潰しにお兄さんがロイが着ている鎧のことを質問してロイが答えたがロイの家の経済状況を知っているお兄さんからしたら。まぁ、信じられないわな。

で、言い争いになってそこにワラワラと他の子も寄って来て仲裁しようとする者やロイの鎧を見て羨望の眼差しを向ける者がいたりと混沌とした状態になっていてそこに運悪く俺が来たと。


「ロイが言ったことは本当だ。その鎧は俺が貸したものだ。分かったら散れ、散れ」

 俺は手を振って子供たちを解散させる。

 それで大部分は帰っていったがそれでは納得しない者もいて。


「ロイは親父さんに憧れて木工職人になるんじゃなかったのかよ!」

「やっぱり命の危険はあるけど職人よりお金が稼げる冒険者がいいのかな?かっこいいもんね、憧れるよね!」

「一緒の工房に行こうねって約束してたのに、ロイの嘘つき。バーカ。もう一緒に遊んでやんない!」


 うわー、話がこじれて子供たちと亀裂が出来ちまった。ロイは……泣くな、こりゃ。俯いて何も言い返せなくなってるし。

 ここは黙って帰るしかないな。


「行くぞ、ロイ」

「………」


 手を引き、黙って家路を歩く。途中でギルドの立ち寄り収集した魔物の素材を納品し大銅貨3枚を手にし、収集では手に入らない材料を買ったり晩飯のための食材などを買い求めた。

 だがその間、二人の間に会話はなく、ただただ重い空気だけが流れていた。




「泣いてもいいぞ?」


 家に着き荷物を降ろし、着替えを終えた俺はロイに声を掛けた。荷物を置いたまま未だ着替えていないロイは帰ってからずっと俺を睨んでいた。だが暫くすると涙が滲み、堰を切った様に涙が頬を伝って流れ落ちた。


「ペイジの兄ちゃんのアホ、何で信じてくんねぇんだよ。ニコルもソニアもだ。冒険者は憧れるけどなんないよ、僕は父さんと同じ木工職人になるんだ。今日は…あれだったけど、薬さえ作れば元に戻れるもん」


 その後も暫くロイの癇癪は続いた。


「ほらよ」

「ぶっ…」

 俺が投げた濡れタオルはロイの頭を覆った。ロイは頬を膨らませて抗議したが泣き腫らして目が赤くなっているし、鼻水が汚いので馬耳東風として受け流した。


 ロイが落ち着き、着替えも終わったところで中級魔法薬の作成に取り掛かる。


 用意する道具は大鍋、包丁とまな板、鍋を掻き混ぜる混ぜ棒、素材をきちんと量る秤、出来た薬を濾すための布と専用の鍋、薬を保管するための薬ビン等々。

 中に入れる材料はロメルディアの魔石1個、オオの実5個、ツイの実3個、ライフリーフの葉が3枚、聖水3L、魔石を魔力飽和状態にすると出来る虹の粉。

あとは作成者の魔力たっぷり。


 まずはオオの実とツイの実の皮むきから、井戸の水できれいに洗ったらオオの実は底の部分から指を入れてベリベリとはがし、ツイの実は包丁、またはナイフで実を回しながらゆっくりとむいていく。そしてそれぞれ1口サイズに切りそろえる。

 次にライフリーフの葉は約1センチの幅で短冊のように切っていく。


 材料の下処理が終われば次は計量だ。この作業をサボると薬関係の錬金はほぼ100%失敗するといってもいい。出来上がっても本来の効果を発揮しなかったり、著しく品質が落ちてしまうのだ。


 失敗しないためにその基準となるのが核となる魔石の重さ。これを10としてオオとツイの実は5、リーフが1になるように調整する。

 計量が終わればいよいよ魔法薬作りの開始だ。

 鍋に聖水を入れ、火にかけて沸騰すれば最初の材料である魔石を入れて混ぜ棒で混ぜる。混ぜるのはもちろんロイだ。

 この混ぜ棒は柄の部分に魔術が掘り込まれており、自動で体内から魔力を吸出し先から一定量の魔力を放出する。これによって長時間魔力の調整に悩むことなく均一に魔力を流し続けることが可能になっている。



 グルグル、グルグルグル………

 何も変化が無いまま1時間が経過した。


「ベスター君、腕がつらいです」

「もう少ししたら代わるからそれまでがんばれ」


 そう激励して鍋の様子を見守り続ける。するとようやく中の魔石が崩壊していき聖水に解けていく。俺はそれを確認するとそこにオオの実とツイの実を投下し、ロイと交代する。

 ロメルディアの魔石が溶けた水の色は鮮やかな青色で、オオの実とツイの実を入れるとその部分だけ黄色になり、しばらくすると色が混ざり合い緑色に変わってくる。

 完全に色が変わったら今度はライフリーフを入れてさらに混ぜる。

 ライフリーフを入れて煮込むことで色は濃くなり、どす黒い緑になっていく。その頃には嵩も半分ほどに減っていた。


「仕上げだ。虹の粉を取ってくれ」


 作業は順調に進み仕上げの段階に移った。ロイに取ってもらった虹の粉を指で摘んで少しずつ慎重に入れていき、ある一定の量を入れた瞬間、鍋の中身が光った。

 それを合図に虹の粉を入れるのを止める。これで魔法薬は安定して劣化が遅くなるのだ。

 ロイに濾すための鍋と濾し布をセットしてもらい鍋を傾け、湯気と共に薬特有のツンとした匂いを上げながら流れていく。火傷をしないように布を絞り、濾し布には萎れて縮んだライフリーフの葉だけが残った。


 薬が冷めないと保存用の容器に移せないので鍋の上に布をかぶせ、俺たちは今度は夕食作りに精を出した。しかし、腹が膨れると疲れが出たのか片付けもそこそこにロイが眠りに落ち、つられる様に俺も眠りに着いた。


 翌日、魔法薬は完全に冷えており、サクサクっと鍋から持ち運びに便利な薬ビンに移し変え、しっかり蓋を閉めて合計4本の中級魔法薬が完成し、同時に俺とロイとの契約は終わり、赤の他人の関係に戻った。

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