浦部くん
次の日からは、授業が始まった。中学が中高一貫だった私は、高校の内容をかじっていたので今日は楽勝。しかし、油断は禁物、この学校の生徒はポテンシャルが高いからな。今の内に預金しとかないと…。
休み時間、私は積極的にクラスメイトに話しかけた。オタクである私だが、母譲りのドジと父譲りのコミュ力で話のネタには事欠かない。すぐに友達ができた。ふふん、ノルマ達成。
その中でも、特に旨が合った奴が2人いた。松野ひかりと小山楓。お昼はこの2人ととるようになった。
勉強やら入部やらドタバタして、気づけば6月。ようやく授業のスピードやクラスの雰囲気に慣れた頃、その話は突然やってきた。
いつもとように、松野と小山とお昼をとっていた時のこと、不意に松野が言った。
「浦部って、柳のこと好きらしいよ。」
私は、あまりの驚きで目の前に座っていた小山に向かって盛大にお茶を吹いた。
私の事が好き…だと…?
私は、小山にティッシュを渡しながら頭の中で反芻していた。私に春が来たのか…?普通なら喜ばしい事だが、残念な事に私は浦部くんがどこのどいつなのか分からなかった。男子を覚えることを放棄していたのだ。ごめんな浦部、お前より女子の影が濃かっただけなんだ。気にするな。元気出せ。
私は、松野に恐る恐る聞いてみた。
「浦部くんって…どの人?」
松野は、残念なものを見るような顔をして、1人の男子を指差して言った。
「あの人だよ…。お前の隣の席の人だよ。入学して何日経ってんだよ…。」
なんと、浦部くんは私の隣の席だった。入学してから約3ヶ月間、私は隣の席の男子の名前すら覚えていなかったのだ。私の大馬鹿野郎、浦部くんはすぐそばで私を想ってくれていたのだ。そういや、ペアワークのとき、やたらはにかんでたな。授業が楽しいんだとてっきり…。
松野と小山は溜め息をついた。
「告られたらどうすんの?」
「えっ、もちろん振るけど。」
だって今まで知らなかったんだ。恋愛感情を絞り出せそうにもない。それに、私は勉強するために二口に入ったんだ。恋愛ごっこなら他でしてくれ。
私の即答に、2人はまた、盛大な溜め息をついた。すまん、浦部。
私は、これから起こる問題事に頭を抱えながら弁当を食べた。