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ガルム洞窟

 エルドの街中、そこに子を背負う父親の姿。彼らは街中の人通りの少ないところを目指していく。空は暗くなり、街に明かりが灯っていく。その中でも明かりの通らない暗い道に親子はようやく落ち着いていく。


「交代だ」


 父親がそう呟くと子供を背負いながら座り込んだ。何も喋らない親子。手枷が付けられた子供は背中を降りて横に座った。


「行かないのか」


 子供は抑揚無い不気味な声で問いかけた。だが、何も答えようとはしない。

 

「お前は、魔女なのか」


 父親が問いかけた。子は首を左右に振って否定をする。


「違う。状況で言えばお前と似ている」

「似ている?」

「お前の中にいるだろう。私の中にも似たようなそれが居る。そっちのように意志を持って話しかけることはしてこないが」

「その人は、どうしてるんだ」

「ずっと泣いている。私は彼女を守るために私が生まれた。恐らくそうだと思われる。私が私と気づいた時には、色々とあった」


 そのいろいろには様々な含みがあるのだろう。しかし、彼女の感情を明らかにしない声や表情ではそれがどれほどだったかは推測しきれない。


「その子とは会えるのか?」

「分からない。今は出たがらない。泣いているだけ。お前も泣いているな、声を出してないが」

「えっ」


 彼の目からは涙が。気付かなかったのだろう、焦るようにぬぐっている。


「ローク様、すみません」

 

 胸ポケットに隠れたままのグレイは申し訳なさそうに話しかけた。彼は「いや、大丈夫」と、逆に心配するような優しい声で答えていく。


「これから、どこに行くんだったっけ」

「エルドの北にあるガルム洞窟と呼ばれるところです。本当に大丈夫なのですか、もう少し休んでもよろしいのでは」

「いや、行くよ。このままうじうじしていたらカウラにまた色々言われるしね」

 

 立ち上がり行こうとするが、魔女が着いてきていないことに気付き立ち止まる。


「すまない、これのせいで動けないんだ」


 彼の視線に気づいた魔女尾は手足につけられた枷をガタガタと音を立てながら揺らして言った。立ち上がることもままならないのか、地面にへたり込んだまま動こうとしない。

 ロークは枷に触れて外そうと試みるが、枷には継ぎ目が無く、えぐれた壁に埋め込まれるような形で付けられていた。


「グレイ、どうにかして出来ないか? 壁の部分を除ければとれるとおもうんだけど」

「さて、どうでしょうか」


 胸ポケットから出てきたグレイは壁の部分を切り裂こうと刃をとばし、慎重に削っていく。それぞれ黒い枷が埋まっている深さが違うのか、たまにグレイの刃が消えながらも、試行錯誤しながら枷だけに。


「なんとかできましたね。すごく力が奪われました」

「お疲れさま」


 どちらも輪っかではなく壁に埋まっていたところに隙間があり、そこからは彼女の枷を外すことに成功した。


「助かった、あらっ」


 枷のはずれた魔女は立ち上がるとその拍子にロークに向かって倒れた。抱きつくような体勢、顔が近くなった所で恥ずかしくなったのか顔を逸らすと魔女の頭は彼の真横へ。


「すまない、どうやらもう少し動けるようには時間がかかりそうだ。しばらくこのままで良いか?」


 魔女は彼の耳元へささやくように問いかけた。


「はっ、はい」


 緊張しているのか、抱きつかれたまま固まっている。そんな彼に向けて「変態」という、さげすんだ声が彼の近くで響いた。胸ポケットから顔を出したルビィの目は明らかに蔑まれている。


「ど、どういう意味だよ!」

「うるさい、黙れ変態」

「すまない、力が回復するまで」

「いや、大丈夫だから」


 二人の対応に追われている彼に対して助け船のように現れた球体、それは人形になって胸ポケットへと突撃していく。



「そんなに怒らないんだよ、ルビィ。代わりに私が!」

「いやー! 止めろー! へんたーい!」


 急に騒ぎ出す胸ポケット。その様子にとまどいながら「騒がしいが放って置いていいのか」と、魔女が声を漏らす。


「いつものことだから、多分大丈夫」

「そう、なのか」


 それから胸ポケットの騒動が鎮まる頃には魔女は自力で歩ける程度にはなり、ようやくがガルム洞窟へと向かい始めた。

 

 ○

 

 地平線の続くエルドから北の平野。そこを歩いていくと地下に続く穴のような所があった。

 

「あれか」


 魔女と共に歩くローク。ようやく見えてきたのにカウラは一切言葉を発しない。


「カウラ、着くぞー」

(分かっている、さっさとは入れ)


 やる気なさそうに答えるカウラ。

 入り口は作業中なのか、馬車が待ちかまえている。常に作業をしているのか易々と入れそうにはない。ただ、作業に必死なのか向こうから彼らが十分に見える位置であるはずだが気にする様子はない。


「どうするか」


 馬車は通り過ぎる、誰もいなくなったがこのまま入っていけば見つかってしまうだろう。


「あそこ、嫌な感じがする」


 魔女が彼の手をつかんだまましゃべりかける。


「確かに、あそこにはいるのは危険な気がします。カウラ様の力を打ち消す物体がありますから私たちがいくのは非情に危ないかと」

「しょうが無い、置いていくか。ここから動いたらダメだからな」


 ロークは子供に教える様に魔女に向けて諭すと「分かった」と、頷いて答えているが、彼にはそれが不安でしょうが無いのか気にかかっている。


「一応私達も見ておりますので」

「そうですよ、私がちゃんと見張っておきますよ」

「あたしは不安でしょうが無いけどね」


 魔女と一緒にいる破滅3人はそれぞれの返事を、それを聞いたロークは「じゃあ、頼んだよ」と、任せる以外には無いと判断したのかそのまま洞窟の方へと向かっていった。

 

(お前1人か、不安だな。俺も交代出来ないかもしれないからな)

「分かってるよ」

 

 こうしてロークは洞窟への侵入を試みることになる。

 洞窟は天井に明かりを付けられ明るい。それでも外よりは薄暗く、金属音が響き渡っている。下へと降りていくと途中途中で押し車で黒い石を運んでいるようで道の脇に隠れてやり過ごした。

 

「長いな、全然先が見えない」

(お前、あっさりとココへ来たな。さっきまで落ち込んでたくせに)

「それは……落ち込んでても何も変わらないし」

(よく分からんな、お前は)

「自分でもよくわかってないよ。今はあまり考えたくないだけ」

(それでいい、お前だって死にたくはないだろう。そうでなきゃここまで一緒にいるわけがないからな)


 突き進んでいくに連れて金属音が近くなる。そして広くなったところへ出てきた。いたるところでカンカンと金属音を響かせている。そこの地面はどこも真っ黒な床。

 たまに起きる爆発音。掘るのだけではうまくいないのか様々な方法で作業を進めている。

 

「着いたけど、どうするんだ」


 着くには着いたが何をしたらいいのかわからないのか、聞こえないように小声でカウラと会話していく。


(何も見つからずに行けるものだな。さて、お前ならこれ以上ここからあの黒い物体を運ばれないようにするためにはどうする)

「えっ、邪魔をするとか? いや待って、あの人達を殺す気か」

(ほう、お前は殺して欲しいかのか)

「そんなわけ無いだろ……」

(俺だって殺すつもりはないぜ。殺したってどうせすぐにまたやり始めるだろ。お前らはいつだってそうだ。だから入らせないようにするってのがてっとり早い方法だ。ここの壁は黒い物体じゃ無さそうだな)


 カウラと交代したのか、彼の表情に笑みが浮かぶ。運び出そうと近づいている人を一人捕まえる。何も言う間もなく、その人の顔に手を当てた。

 

「う、ううううわああ!!」


 叫びながら走りだす作業員。その表情は狂ったような表情。走り回りながら周りの不安をかき立てている。すぐに取り押さえられ、洞窟の外へと連れて行かれた。

 

(おい、何をやって)

「まだまだだな」

 

 作業は変わらず再び通りかかった人を洗脳していくカウラ。二人目のせいか、取り押さえながらも不穏な空気が漂っていく。さらに3人4人と出口付近に一人になった物を捕まえては暴走させて不安を煽っていく。すると段々と不気味に感じた人達が怯えながら出て行き始めている。

 それでも頑なにこの場に残ろうとしている人達が数人。

 

「しつこいな」

(おいっ、どうする気だ)

「ちょっと脅かすだけだぜ」


 天井に向けて手を向けた。手の先に生まれる氷の矢、それををぶつけた。明かりが消えていき、真っ暗になった広間。

 

「ココはヤバイぞ、一旦退避だ!」

 

 残った作業員も出始める。その最後尾の人を捕まえて再び洗脳。後ろから絶叫しながら逃げていく男性に感化されてか全員声を上げて走り去っていく。

 

「さて、仕上げだ」


 入口を下がりながら天井に向けて氷の矢をぶつけて崩していく。

 

「さて、出るか。これなら文句はないだろう」

(ああ、ありがとう)

「別にお前の為じゃない、最初に言っただろう、殺しても意味がないんだよ」

(そう、だったな)

 


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