研究所と魔女との邂逅
エルドの研究所。
以前と違い、慌ただしさがある。魔女の入っている部屋の隣の掃除をしている掃除をしていた。綺麗に整備された透明な籠の中には魔女部屋と同じように壁に鎖で繋がれた輪が付けられている。
「おーい、いい話があるぞ」
隣の透明の籠には魔女が相も変わらず座り込んで動いていない。白衣の男は再び彼女に絡んでいた。魔女は顔を上げるが何も話そうとはせず男をずっと見つめている。
「お前の知り合いが来たそうだ。イエロアっていうらしいな、名前」
ピクリと反応した。しかし、何も喋ろうとはしない。
「無言ですかぁ、まあいい。ここに来た時のお前並に活きが良いらしいからな、ほら来た」
入口の扉が音を立てて開きロークと3人の兵士の合計4人の姿。彼を囲む3人の兵士は黒い剣を向けて行動を制限している。魔女と白衣の男の視線も自然とその方へと向けられた。
「さあ、彼のことは知っているかな?」
嬉しそうに魔女に問いかけり。それに対して「知らない、初めて見た」無機質な言葉で言葉を返す。その言葉だけでは嘘か本当かは分かりずらい、それほどまでに魔女の言葉には感情というものが存在しない。
「そんなことはないだろう、君と同じ破滅の者らしいし。なあ、本当は動揺してそう答えるしかないんだろう」
「そう思うなら、そう思っておけ。私はそいつは知らない」
(そうだな、コイツは知らないはずだ。だが俺は分かるはずだぜ、イエロア)
何の反応を示さないイエロア。逆にロークは急に喋り出したことに驚いたのか、少し身体を震わせた。
「私はイエロアではない」
無機質に答える魔女。
「そう答えていればいい、別にお前から聞かなくても彼に聞けばいいからね。彼にはこっちへ入ってもらうから早く連れてきてくれ」
白衣の男は嬉しそうに述べながらロークを兵士とともに隣の籠へと案内していく。
(……なんだそのしゃべり方は。生まれたての時に似ている気が――そういうことか。本当のイエロアはどうした、イエロアのような者)
「私はお前を知らない」
(……そうかそうか、ならそこで待ってな。お前は間違いなくイエロアだ、すぐに洗いざらい履いてもらうからな)
彼女はカウラと会話しているが、それを知らない白衣の男は「何を言って、おい! 貴様ら話し合っているのか!」感づいた彼の手には兵士から奪い取った黒い剣。
問答無用で振り下ろされる。
「あがぁぁあっ?!」
剣は彼の左腕へと叩きつけられた。
振り上げられ勢い止まること振り落とされた剣、剣は刃物としての役割は無いにしても鉄の棒で叩かれるようなもの。苦痛に悶え苦しんでいる。
その光景に男性の表情は怒り狂い、その怒りは彼を連れてきた兵士に向けられた。
「どういうことだ! こいつは人じゃないか! コレのどこが破滅と言うんだ?! おいっ、てめえら、アメルを呼び戻せ! ただの人は必要ないんだよ! お前らだ! ボーッと突っ立つな、早くいけ!」
連れてきた兵士たちが急ぎ足で外へと出て行った。男はロークに向き直り「大丈夫か! 本当に済まない、まさか破滅のものとは違うとは。待ってろ、応急処置をしてやるから」と、心配そうに語ると籠を出て部屋にいる研究員達に「包帯や添え木になりそうな物を探せ!」と、声を荒立てる。
再び籠に戻ってきた男性の手には包帯と添え木代わりなのか黒い剣が。そうして彼の叩かれた腕に包帯が巻かれていく。
「何なんだ。どうして助けて」
「済まない、痛いだろう? すべて私が悪い、何なら殴ってもいい、だが殺さないでおくれ。まだ私は生きてやることがあるから」
そう言って両手を広げて安らかな顔で彼の前に座り込む。他の研究員は「何をしているんですか!」「そうです! 早く拘束してください! 危険です!」と、焦る声を響かせて止めろと野次を飛ばすが全く聞く耳持たず座り込む。その状況に立たされているロークはというと男性の行動を目を白黒させていた。
(殴っておけ、殴らないなら――)
カウラに交代したのだろう、ためらいの無い右手が男性の顔に当たる。避ける素振りを見せない彼はそのまま綺麗に倒れ、さらに男性の身体を蹴飛ばし透明な壁に身体をぶつけてそのまま動かなくなった。
「クククッ、バカで助かったな」
(おい、そこまでしなくても)
「あ? こっちは殺されかけてたんだぜ。これくらいはいいだろう。さて――」
彼は立ち上がる。
包帯に巻かれた腕は動かないのか、ブラリと揺らしながら研究員達を見た。視線が合うと怯えた声を上げて部屋の端へ。手には黒い剣は持たれているが戦うという気はなく、守りに徹して震えている。彼にとって怯える彼らには興味はない。すぐに隣の透明な籠へと向かった。
入口は厳重に鍵を掛けられていたが、蹴りつけて無理やり壊して中へ。中に居た拘束された魔女は顔を上げて座ったまま何かが来た程度に驚きもなく彼を見た。
「早く立て。出るぞ」
「だけど――」
壁に付けられた腕輪で動けないのを示すように腕を震わせてガチャリと音を鳴らす。彼は付けられたその壁を殴り、壁ごとえぐるように腕輪を外していく。
腕輪は真っ黒、恐らく黒い剣と同じものなのだろう。
「でも、コレのせいで動けない」
黒い腕輪で力が出ないのか、動けないようでへたり込むでいるばかり。
「あぁめんどくせえ!」
苛つきながら彼女を背負った。その合間に黒い剣を持った兵士たちが広間に居た男性を連れて現れる。
「脱走しているではないか!」
「えっ、あれ? ムラキ様が?!」
「逃すな! ムラキの生存など気にするな、あそこにいる魔女と男を殺してでも食い止めろ!」
黒い剣をもつ男性、まだ透明な籠に入ったままの買えに向けて走りだす。カウラはというと面倒くさそうに溜息を付きながら彼らを見ているだけ。
「グレイ、やれ」
カウラの声と共に彼の身体から刃が飛ばされる。襲い来る3人の兵士、予想だにしていなかったのか刃はあっさりと彼らの身体を貫いて倒れていく。倒れた兵士たち、その光景にロークは途惑いの声を途切れ途切れに漏らしているが戦いは終わっていない。
「逃すと思うてか!」
倒れた兵士に続く形で広間の男が黒い剣を振り上げ走ってきた。グレイの刃を飛ばすが見切り、切り裂きてながら一気に間合いを詰めていく。
「どうやら終わりのようだな!」
「がら空きなんだよ、雑魚が」
男は剣を振るがいとも簡単に避けて一気に懐へ、そこから頭突きをかました。ひるんだ彼に向けて更に殴り、蹴り飛ばすされ壁にたたきつけられた男性。まだ生きているようで苦しそうな声を上げながら立ち上がろうとするがカウラは手を蹴り、剣を弾き落とさせた。
落ちた剣を拾い、思いっきり地面に叩きつける。割れた剣、その光景に呆然としながら見ていた研究者達は我に返ったのか怯えた声を上げる。
「コレも邪魔だな」
添え木に使っていた剣も無理やり引き抜いて壊した。残りの元気な3人の研究員にカウラの視線は移る。彼らは必死に剣をかざして怯えた声を上げるばかり。
「逃げるなよお前ら。クリアス、見張っておけ」
胸ポケットから光の玉を出し、力を送ったのか人の姿になって現れた。
「ということですので、大人しくしてしてください。男だと手加減が難しいので殺してしまうかも……しれませんね」
研究員達に脅しをかけ、彼らは壁の端でうずくまるばかり。一方カウラは倒れている広間の男にまだ話があるのか彼の前に立ち、見下しながら問いかけた。
「さて、お前にはまだ起きててもらうぜ。この黒い物体をどこで見つけたのか教えて貰う必要があるからな」
「ゴホッゴホッ、知らん」
「ああ、どうせそういうと思ったさ。だが嫌でも喋ってもらう。ルビィ、お前だいぶ前に女を操っていただろう。アレを使え」
「えぇ、私の仕事?」
無理やり胸ポケットから引き釣り出されたルビィはいつものようにあからさまに嫌そうな表情を浮かべて面倒くさそうな声を上げる。
「いいからやれ、そのくらいの力は残っているだろうが」
「もう、分かったわよー」
指で摘まれた彼女は男性の元へと持っていかれる。彼女は男性に向けて手を伸ばした。すると男は頭をゆらゆらと揺らして、ぼーっとしている。
「出来たよー、それじゃあ知っていることを話してねー」
「黒い剣は掘り出した石を削りとったものです。しかし、硬すぎて形状が保てず適当に割れたものを使っていました」
「それが取れる場所てのはどこだ」
「北の採掘場、ガルデ洞窟にあります。地下深くまで掘っていた時に見つかった偶然の産物です。お陰で魔女を捕まえることにも成功したわけですが。彼女を見つけるのは簡単でしたよ。なにせ姿をほとんど変えずに現れるのですから」
「ガルデ洞窟か。また胡散臭そうな所が出てきたな。他に詳しいことは無いのか」
「変わっていることがあります。掘り続けて1ヶ月、全く地層が変わりません。ずっと黒い石の層が続くのです。いくら調べてもこのことに関しての情報は一切国にはない。もしや亜人ならどこかに、それも今の状況では難しい。黒い石は破滅を倒すためのものなのか? それとも守る目的なのか? 教えてくれ、お前たちなら分かるのだろう。教えろ!」
「触るな。コレ以上は無理そうだな、もういいぞ。グレイ」
刃が男に刺さり、血反吐を吐いて倒れた。他の研究員にもその刃が襲いかかろうとする。
(カウラ! そいつらは関係ないだろ)
ロークの声にグレイの刃は止まった。カウラは不満気に舌打ち、声色も低くなっている。
「お前な、分からねえのか。ココは残しておいたら危険なのが。今回も後ろのバカが居なかったら面倒になるところだったはずだぜ」
(それは、そうかもだけど)
「それに、お前の言い方だったらコイツは死んでもよかったみたいな言い方だな。俺からしたらコイツらもそこに居る奴も一緒だ。お前だってこの身体を奪っていなかったらその対象だ。俺は破滅だ、世界を破壊するために居るんだ。そのために余計な脅威は消しておく。分かったな、やれ」
「ですが、あまりこういうのはおすすめしません。彼とはまだ一緒に活動することになります。それなのに、仲違いをするとなれば何かしらの障害がでるかもしれません」
グレイは動きと止めて反論。再び舌打ちを漏らした。
「じゃあ、お前ならこの状況をどうする」
「ルビィさん、彼らの記憶を曖昧にすることは出来ますか」
「えっ?! ええっと、操るのを応用していたのをレイド様がやってたから多分その要領でできると思うけど。ずっとそうなるのは保証出来ないよ? ほら、あのお城の人達だって途中で戻ったじゃん」
「みたいだぞ、グレイ」
「ローク様はこのままでいいのですか」
(お、俺は……)
それ以上の言葉は彼の口からは出てこなかった。




