その先は
周りは平原。他に見えるのは青空と点々と生えている木。他は黄土色の地面が広がるだけ。その地面にロークは横たわっている。
「どこだここ?」
彼の居た城の周辺は森で囲まれていた。しかし、その面影は一切見えない。ずっと不思議そうに見回しているが、彼もここがどこかは分からない。
「変な夢だったな。しっかし、なんだよここ」
寝不足そうにあくびをしながら立ち上がり見回す。その動きは止まった。何かを見つけたからだ。
遠くに見える五人ほどの人影。
「おーい! 助けてく――っ?!」
人影が声に気づき、こちらを向くと叫ぶのを止めた。口に手を当て、信じられないものを見るように目を大きくし、呼吸が荒くなる。
犬のような上にピンと立った耳。体中に覆われた体毛。彼らは亜人である。
気づいた時には遅かった。それは人じゃなかったことを。槍を持った五人の亜人。逃げようとしたがすでに向こうは走ってきていて、あっさりと追いつかれて囲まれてしまった。
足を止めたロークは両手を上げて降参のポーズを取る。
『なぜここに人がいる』
「え、え?」
赤褐色の刃先を突き立てながら一人の亜人が彼に問いかけるが何も理解できず、ずっと首を振り続けている。
亜人と人では言葉が違う。そのため、彼には亜人たちは唸っているようにしか聞こえていない。そんなことを知ってか知らずか、警戒心むき出しの亜人たちは指示を出していく。
『まあいい連れて行け。王がすべて判断してくれるだろう』
○
亜人たちの町。人と同様に集落を作り、多くの亜人が住み着いている。町は彼を囲む亜人の持つ槍と似た赤褐色だった。町の建物の形状はドーム状、その壁が同じ赤褐色で他にも生活している亜人たちが持つ農具と思われる物や、服装にも細かく見れば色合いが違うが同じものが使われているようにみえる。
亜人の町を白い目で見られながら一番大きなドーム上の建物の中へと連れて行かれた。入ってすぐそばにあった階段を降りて行き、ランタンが壁にところどころ備え付けられている薄暗い地下へと連れて行かれる。牢屋のように赤褐色の格子の部屋に入口に番人付きで入れられていた。
押し込まれる形で牢屋に入れられたロークはすぐに格子を掴みながら抗議を始めた。
「どうして閉じ込められるんだよ! うっ」
黙れと言わんばかりに彼を連れてきた一人が喉もとに槍を突きつける。
『うるさいぞ、明日には処遇が決まるから大人しくしていろ』
何を言っているか理解していなかったが、彼なりに大人しくしろと言うことが分かったのか部屋の隅っこで丸くなった。
(なんだなんだ? つまんねえ所に来たな)
声が響いた。亜人の言葉ではない、彼にもわかる声。彼は「誰だ?」と、言いながらキョロキョロしている。番人は彼の声に一瞬反応はしたが、さっきの言葉には反応しているようには見えなかった。
(お前の中にいるカウラ様だぜ)
また聞こえる声。番人にはやはり聞こえていないらしく、なんの素振りも見せない。彼はと言うと「頭がおかしくなったのか」と、溜息をつきながら幻聴として処理。そんな様子に苛ついたのか、幻聴は舌打ちをする。
(何も覚えてないお前にいいことを教えてやろう。お前はあそこにいた王女さまに向けて剣を向けた、そしてここへ飛ばされた)
「はあ?!」
『うるさいぞ!』
番人が持っていた槍を牢の柱に打ち付けて叫ぶ。(うるさいぞ、だとよ)と、亜人の言葉を嘲笑しながら伝えた。
「言葉が分かるのか?」
(ほらほら、喋ると今度はどうなるか分からんぞ)
「っ!」
亜人を見ると鼻をぴくぴくさせて怒るのがすぐに分かるほど顔を歪ませている。聞こえないように小声で「……さっきのどういう意味だよ」と、自分の体に問いかける。
(少しくらい覚えるだろう、見ていた記憶くらいはあるはずだぜ)
そう言われて考えこむ。すごく嫌そうな顔を一瞬して「夢じゃないのか?」と、問いかけたが答えは「夢じゃない」と、一蹴された。その答えに絶望しながら声を漏らすが、また牢屋を叩かれ黙りこむ。
「おい、お前。言葉が分かるんだろ、何とか説得できないのか?」
今度は気をつけるように小声で語りかけた。
(無理だ、レイドと戦ってすっからかんだぜ。やはりハネが無いと殺すまではいけないか。あとお前じゃない、カウラだ)
「えっとカウラ? じゃあ助からないのか」
(さあ、死ぬつもりはないけどな)
大きくため息を付き、舌打ちをすると何も喋らなくなった。ロークはキョロキョロしながら何か出る手段を探しているが何も見つからなかったのかすぐに止めて座り込む。
「なあ、さっき言ってたレイドとか、ハネってなんなんだ?」
(あ? ああ、レイドは3魔女だ。あの女の中にオレと同じように入っていやがる。ハネは俺の力の源。アレさえこんなヘマしなかったってのに。うまいこと身体を奪えたのに戦うどころか制御する力すら無いとか、クソッ)
カウラの「身体を奪えた」という言葉にロークは思い当たるフシがあったのか記憶を振り返る。森の中でのことを、彼の脳裏に浮かぶのは黒い影。それが言った魔女を探していると言うこと、身体を借りると言われたことを。
「お前があの時の奴か!」
『いい加減にしろ!』
思いっきり牢の柱を叩かれた。大きな音は徐々に小さく鳴りながら響き続けている。
(いい加減にしろ、だとよ。今さら分かったのか、鈍い奴だな。まあこれからはじっくり利用させてもらうからな、楽しみにしてな)
それだけ言って語りかけ無くなった。ロークは気分のよろしくない番人を見て居心地の悪さを感じてさらに壁の端へと丸まった。




