謁見
診療所から歩いて10分、大きな二枚扉を抜けた先に王の間がある。普段は入ることはできない、兵士には恐れ多い場所。
「王に呼ばれてきました。ロークです」
すでに衛兵には伝わっていたのか、頷くと二人が二枚扉を片方ずつ掴み、王の間が開かれた。
彼の目には赤いじゅうたんと数人の王直属の衛兵。そして、視線がちょうど合うように一直線上にある2つ玉座に座る、王と女王。その光景を見た彼は王の間に入ったことを理解したのか、身体を震わせた。立ち止まっていると衛兵が左右について歩く、それに合わせて彼も歩いて行く。衛兵が立ち止まると彼も立ち止った。
固まった表情の彼はどうすればいいのか分からなかったのか、過敏に頭を下げた。
「頭を上げよ兵士ローク。一体あの場で何があったか報告を」
「ハッ! 了解しました」
彼と王のあいだにボロボロのイスのような物がある。恐らくこれがさっき言われていたイスだろう。
破れかぶれになってはいるが玉座のような立派な形をしている。もしも綺麗であれば彼の前いる王と女王が座っている物と見劣りしないものかもしれない。
「あの日、森の奥ですごい轟音がして向かいました。そこで大きな穴を見つけて、何者かに襲われました。それで足首が掴まれたり、何か言われたり――」
「落ち着きなさい。その襲われた何かはどんなのだったかは覚えているのかね?」
焦りながら喋るロークを隔てるように王が口を挟んだ。彼は落ち着かせるようように一度深呼吸をしてゆっくりと説明し始めた。
「黒い、人の形をしたものでした。でも、人と言うには少し違った感じで亜人だったのかもしれません。捕まった時に『3魔女はどこにいる』と言うことを聞かれました。私は破滅の物は見たことありませんからそれが破滅の者かどうかはわかりませんが、3魔女とはなにか関係があるかもしれません」
周りがどよめく。
その騒がしい声に「3魔女」や「破滅の者」という単語が多く飛び交っていた。
世界中を滅ぼしかけた破滅の者。3魔女とはその同時期に現れた破滅の者を率いた者たち。幸い彼は一度も遭遇したことはない。しかし、その脅威や傷跡は知っている。その証拠に彼の顔にも不安の色が見える。
「あの、ロークさん。少しよろしいですか?」
女性の声、その声は王の隣に座っていた女王様の言葉だ。彼は焦りながら頷き、そちらに視線を移した。それに合わせて周りがさらにどよめいた。それは女王が立ち上がりロークの元へと近づいているからだ。王が立ち上がり止めようとしたが、それを制すように手にひらを見せた。諦めたように王は座り、黙って彼を見ている。
手を伸ばせば届きそうなほどの距離の所でロークの様子が変わった。力なくすようにガクンと頭を下ろす。それに合わせて女王は持っていた杖を彼に向ける。
「あなた、やはり」
再び顔を上げた彼が女王を見ると別人の表情だった。今にも殺しそうな鋭い眼光、その表情には彼女に対しての殺意を表している様にしか見えないほど歪んでいた。
「見つけたぜ、レイド!」
彼らしくない口調で叫ぶと同時に女王の杖先が光る。彼は腰につけていた剣を抜き、杖を切り裂いた。その光は暴発し、彼らを囲むように炎が舞い上がる。
炎の中で彼らは話し始めた。
「あの場所から良く逃げれましたねカウラ様。でも、ハネを持たないのに勝てるとお思いですか?」
「ハネなんて無くてもレイドごときに負けるかよ。あの時は3体1だろうが、さらに不意打ちだぜ」
周りの誰も反応できていなかった。王も状況が理解できていないのか口を開閉させているだけで喋れていない、衛兵も武器こそ構えているが炎の前に立ちふさがっているだけ。
そんな中、彼と女王様が1対1で戦い始めた。女王の手から彼の何倍もある巨大な氷塊が飛び出て襲いかかる。それに合わせて彼の手からは炎が飛び出し、相殺すると同時に爆発。爆音とともに周囲は白い煙で覆われる。
何も見えないその向こうで女王の声が響いた。
「さすが、ではこれで」
白い視界が晴れると彼らの周りの炎が消え、ロークの周りに光る文字に覆われた。剣で斬り裂こうとしたが弾かれ、次に手からの炎を出すが文字は消えることはない。白い煙が消えると王女の肩のあたりに拳くらいの大きさの玉が浮いているのが見えた。そこから光る文字が出続け、ロークを覆い続けている。
「ちっ、なんのためのお目付け役だ! レイド、どこへ送るつもりだ!」
「さあ、どこでしょう。この子が作ったのものだし? 正直殺すのめんどいし、私じゃ殺せ切れそうにないから。まあ元気にのたれ死ぬでねー」
さっきまでは、女王らしい冷静で落ち着いた雰囲気を出していたが、いきなりニコやかに明るい子で言い放つと、彼を覆う文字がまばゆく光る。
光は一瞬で収まった。一緒に彼の姿は消えた。
はじめからそこに何もいなかったように。
「それでは皆様、先ほどは何も見なかったことにしてくださいね」
女王の手から光が溢れでて部屋全体を覆い尽くした。かと思えばすぐに光は収まる。彼女のそばに浮いていた光の玉は消えていて、残ったのは燃え焦げたじゅうたんと、爆発で散り散りになった椅子の残骸。
「な、なんだこの部屋は! 今すぐ部屋を直せ!」
いきなり王が頬を赤く染め、怒声を上げた。
さっきまであったことが何もなかったように王は「アイカ、部屋に戻るぞ」と、不満気に言いながらと立ち上がる。女王もさっきのことははじめからなかったように微笑みながら「はい」と答えるだけ。
どうしてこうなっていたのか、誰も問おうとはしなかった。




