表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/94

下忍が異世界に残した言葉

区切りの関係で終われませんでした

次で終わりになります

 アスブロ連合とスパルータとの戦いは壮絶な物となった。

 特にスパルータ兵の抵抗は凄まじい物であったと言う。

 もし、アレクレイスが行方不明のままスパルータに帰ったならば待っているのは死罪のみである。それに帰路の道中も決して安全とは言えない。

 退いて惨めに死ぬより一人でも多くのアスブロ兵を道連れにして死ぬ。

 スパルータ兵達は惨めな生より戦士として死を望んだのだ。

 一方の有利に見えていたアスブロ連合だが急拵えの軍である為に、連携に不備が生じていた。

 一進一退、血で血を洗う戦況を崩したのは時間であった。正確には不眠と空腹によりスパルータ兵の気力が潰えてしまったのだ。

 メイトレオフロンはスパルータ兵の動きが鈍ったのを見逃さなかった。


「我らには戦神アテナ様のご加護があります。スパルータの奴等は追い返すのだっ!!」

 姫の大喝がアスブロ連合の兵を奮い立たせる。

 そしてスパルータ兵にはある思いを抱かせた。

 それは誇りを捨てて逃げても良いのでないかと言う思い。

 最初の一人は誰なのか分からなかった。

 先月子供が生まれたばかりの戦士なのか、来月に結婚を控えてる魔法使いなのか、それとも恋人が帰りを待っている神官なのかも知れない。

 一人が逃げたした途端に、それまでの抵抗が嘘の様になくなりスパルータ兵達は我先にと逃げ出したのだ。

 ボロニアス子爵も剣で脅して必死に押し留めたが、逆に無名の兵に切り殺されたと言う。

 逃げた者も敗残兵狩りにあい、無事にスパルータに辿り着いたのは十名に満たなかったと言う。

 しかし、その者達も賠償金と一緒に首にされアスブロに送られたのであった。


―――――――――――――――


 アスブロの国は勝利の喜びに包まれていた。生き残った者は、互いの無事を喜び、アテナに感謝を捧げている。

 国中が笑顔に包まれていた。

 しかし、権蔵の知人は、皆一応に暗い顔をしていた。

 アスブロの勝利が決まったのにも関わらず権蔵が帰って来ないのだ。

 二時間経っても、三時間経っても梨の礫である

 メイトレオフロンは戦いの勝敗が決まって直ぐに権蔵の捜索を命じたが、届くのは悲報ばかりであった。


「姫様、ゴンゾー殿が落ちたと思われる海は波が高く捜索は不可能です…それと申し上げにくいのですが、海岸に多くのスパルータ兵が打ち上げられています」

 どの兵も屈強な者ばかりで、アレクレイスが率いた精鋭だと分かる。

 殆んどの兵が溺死していたが、中には爆風で肉塊となっている兵士もいた。

 権蔵だけが生き延びていると言うのは、都合の良い妄想に思えてくる。

 何よりプリムラ達に衝撃をあたえたのは、柿渋色の布切れであった。

 爆風で焼け焦げているが、間違いなく権蔵の忍び服である。

 皆、口を開かず暗い顔をしていた。

 やがて、メイトレオフロンは意を決したかの様に口を開いた。


「プリムラ様、ミータさん、クレオさん権蔵さんから皆様に手紙を預かっております」


―――――――――――――――


異世界でお世話になった皆様へ、


私はずっと暗い世界で生きてきました。

常に死と飢えが付き纏い 、笑った記憶は殆んどありません。

満足に飯を食べた記憶もありません。

ずっと喜びや笑顔とは無縁の生活を送っておりました。

しかし、違う世界に来て皆様と知り合ってから、初めて生きる喜びを知りました。

私は正義の為には戦いません。

私に生きる喜びを教えてくれた皆さんの為に、戦うのです。

保険は掛けておりますが、生きて戻れる保証はないので皆様に言葉を残したいと思います。


クレオへ

不器用で女の扱いを知らない俺に仕えてくれた事を感謝する。

お前はもう自由だ、金は分けてあるから妹と幸せに生きてくれ。


ミータさんへ

貴方が私を心配して流してくれた涙はとても嬉しかったです。

貴方は美しく優しい女性なので必ず幸せになれると思います。

私が知っている薬の処方箋を書き残しましたので、良かったら使って下さい


プリムラ様へ

義姉さんには感謝しかありません。

貴方は、親にも捨てられた孤独な私に優しさと暖かさをくれました。

最後まで迷惑を掛けた駄目な猿人ですが、どうか貴方の義弟でいさせて下さい


権蔵


 ただ泣き声だけが響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ