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下忍が異世界で初めて困惑した事

 権蔵達を乗せた馬車は一路神殿を目指していた。

王族が乗る馬車だけあって、乗り心地も良く内装も豪華である。

しかし権蔵1人だけが居心地の悪さを感じていた。


「ゴン、さっきから落ち着かないみたいだけど、どうしたんだ?」


権蔵の隣に座っているフィラが上目遣いで覗き込んでくる。

フィラは女としては背が高めであったが、権蔵の方が背も座高も高い為に自然と上目遣いになってしまったのだ。


「フィラさん、どうも落ち着かないんですよ。こんな豪華な乗り物は見たのも初めてなんですよ。それに普段はもっぱら徒歩ですから」


権蔵が馬に乗るのを許されているのは敵陣に潜入する時ぐらいであった。

それに豪華な内装と周りと美少女に囲まれており、どうにも落ち着かないのだ。


「情けねーな。それと俺はフィラだ。姫相手ならともかく俺に敬語なんか使うんじゃねえぞ」


「そんな事を言われましても、女性と話すのはどうも苦手でして」


「あら、フィラ貴女を女扱いしてくれる男がいるなんて奇跡ね」


メイが悪戯っぽい笑顔を浮かべてフィラをからかう。


「姫、それは酷くないですか?俺だって女なんですよ」


「女性なら、もう少し慎みをお持ちになったらどうなんですか?フィラさんは直ぐに力で解決しようとするんですから」


マティが溜息をつきながら呆れた様に話す。

先から感じている居心地の悪さは彼女達にもあった。

(俺を警戒して本音を隠しているのか。それとも何か目的があるのか)


「俺は考えるよりも体で感じるタイプなんだよ。そうだ!!ゴン神殿に着いたら手合わせしてもらえるか?」


(目当てはこれか。手合わせと言う名の試験をするつもりだな)


「構いませんが何を使いますか?まさか真剣じゃないですよね?」


「拳だよ、拳。無手でやるぜ!!」


フィラは自分の拳を権蔵の目の前に突き出して来た。


「無手ですか。判定はどうしますか?」


「3本制にして、お互い怪我をしない程度で先に2本とった者を勝ちとしたらどうでしょうか?」


マティが提案してくる。


(最初から打ち合わせ済みなんだろうな。実力が足りなきゃ叩きのめして終わるつもりなんだろうな。…手の内をばらさずに勝てるか試してみるか)


王女の護衛を務めるならフィラなら、それなりの実力者である筈。

この国の無手の強さが、どの程度なのか知るには良い機会でもある。


(やばければ逃げればいい。それだけの話だ)



―――――――――


 当たり前ではあるが、ただの冒険者である権蔵と王女であるメイとでは待遇には格段の差がでる。

それが公平を建前とする神殿であってもだ。

神官達は多大な寄付をもたらしてくれるメトレイオフロン王女達をほぼ総員で出迎えていた。


(やれやれ、俺には見せない愛想笑いまで浮かべて。こっちの神官も向こうの坊主と一緒で名誉や権威に弱いんだな)


権蔵は現世の権力には媚びないとうそぶいていた坊主が、朝廷から来た使者を床に頭を擦り付けて迎え入れたのを覚えていた。

幸いな事に出迎えの集団は馬車の扉に注目している。


 権蔵は反対側の窓から素速く外に出ると、ミナの近くに歩み寄った。

嫌われ様が無視され様が、依頼放棄扱いされるよりはましなのだから。


「ゴンゾーさん、僕は決めました」


ミナは権蔵の顔を見るなり力強く宣言した。


「きっとゴンゾーさんの心は闇に迷っているんです。僕の信奉するアルテ二ス様は月の神様。月が闇夜を照らして旅人を助ける様にゴンゾーさんを導くのが僕の勤めなのです」


高々と宣言するミナに対して権蔵は頭を抱えたくなる思いであった。

夜目が効く権蔵からすれば、闇夜を照らす月は邪魔者以外の何者でもないのだから。


「ぷっ、あーっはっはっ!!いやゴン良かったじゃねえか。ぜひ神官様に導いてもらえよ。あー腹が痛ぇ」


「フィラあんまり笑っては可愛らしい神官様に失礼ですよ」


豪快な笑い声と共に現れたのはメイ王女の侍女であるフィラとマティ。


「なんですか貴女達は?」


「あん?俺達はメトレイオフロン王女の侍女だよ。それでチビッ娘神官は何歳になるんだい?」


「チ、チビッ娘神官?僕は16歳です。それがどうかしましたか?」


背の低さを気にしているミナにしてみればチビッ娘神官なんて呼ばれ方は神経を逆なでされる思いであった。


「それでゴンは何歳になるんだ?」


そんなミナの事は気にもせずフィラは話を続ける。


「確か27位かと」


もっとも、正確な年齢は権蔵自身にも分からないのであるが。


「案外と若いな。俺はてっきり30歳は越えてるかと思ってたぜ。神殿しか知らない16歳の小娘が27歳になるゴンを導く事が出来るのかよ?それにお前の身長は140センチないだろ、それが170センチは越えているゴンを導くとはねー」


「背は関係ないじゃないですか!!」


「それならツルペタ神官に変えてやろうか?」


フィラは自分の豊満な胸を両手で押し上げながらミナの慎ましい胸に視線を落とした。


「ツ、ツルペタ!!貴女はな、何の用があってここに来たんですか?」


「安心しな。俺が用があるのはゴンの方だよ。さあ約束通り手合わせをしようぜ」


フィラは嬉しそうに笑いながら権蔵に近づいて来る。


(今の俺には女難相が出てるんじゃねえか)


涙目のミナと好戦的な笑みを浮かべるフィラ、そして権蔵の一挙手一投足も見逃すまいと注視してくるマティに権蔵はますます頭を抱えたくなるのであった。


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