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下忍が異世界に喚ばれた訳

漸くここまで来ました

 ドワーフの国テクトーンとの同盟も無事に終えた、権蔵達はアスブロへと戻ってきた。


「さて、これから忙しくなりますね」

 何しろ、大国スパルータとの戦が控えているのだ。

 準備のし過ぎと言う事はない。

 その為、権蔵はテクトーンに砦の建築を依頼していた。


「ゴンちゃん、砦なんて簡単に作れるの?」

 見た目は十代の少女にしか見えないが、プリムラは御年八十才のエルフ。

 砦が直ぐに出来上がらない事くらい知っている。


「簡素な物で良いんですよ。それに先は壁だけを建ててもらいます」

 壁があれば弓や騎士の突撃を防ぐ事が出来るし、銃眼や上から弓を射れる様にしておけば戦果に期待が出来る。

 何より攻め手に対する視覚的な効果が大きい。

 

「水や保存食の備蓄、武器や防具の製造、兵士の鍛練。戦をするのって大変なんですね。強い兵隊さんがいるからって勝てる訳じゃないですね」

 ミータの知ってる戦いは個人戦か精々十人規模の小集団戦しかない。


「戦は物資と人員の差が大きいですから。強兵も飢えと渇きには勝てませんよ」

 アスブロだけではなくアーテナイでも大きな戦を経験した人物はおらず、権蔵の知識は重宝されていた。

 

「ゴンちゃん、この戦い勝てるの?」


「俺は忍ですよ。戦の裏で暗躍して敵を混乱させるのが本業です。お望みならスパルータの本陣から物を盗ってきますよ…?」

 ふと、権蔵がミータを見ると目を潤ませていた。


「また、ゴンゾーさんは危ない事をするんですね…」

 心配の余り涙目になるミータ、そんなミータを見て怒るプリムラ。

 

「全く、この子は…ゴンちゃん、いい加減自分の物差しで安全を図るのは止めなさい」

 良く晴れた日の昼下り、下忍が味わう束の間の平和であった。


――――――――――――――


 その男の来訪はいつも通り突然であった。

 男が姿を現したのは草木も眠る丑三つ時の事。

 権蔵と初めて会った時と同じ真っ黒な修道服を着てエレオス・スクリロスが闇の中から現れた。


「エレオス殿、お人が悪過ぎます」

 権蔵は努めて穏やかに抗議をしてみせる。


「それはすいません。何しろ、他の人には知られたくない事ですので…ゴンゾーさんには私の主に会ってもらいます」

 エレオスの主、つまりは権蔵がガイアに連れて来られた理由をしる存在。

 そして下忍の運命を変えた張本人である。


「その方はどこに居られるんですか?」


「少し遠い所ですよ。そこに行くには気難しい門番の所を通らなければなりません。ですから、しっかり着いて付いてきて下さいね」

 そう言って微笑むエレオスの口には、あの日と同じ鋭い牙が光っていた。

 権蔵はあの日と事を思い出していた。

 エレオスに連れられてガイアに渡って来た日の事を。

 闇の中を黙々と付いていくと、いつの間にか巨大な門が姿を現す。


「これは?」


「主の館に通じる門ですよ。決して、私からはぐれないで下さいね…いくらゴンゾーさんでも死ぬ事になりますから」

 不思議な事に門はエレオスが近づくとひとりでに開いた。

 辺りの闇はますます濃くなり、権蔵でも足元が覚束なくなっている。

 見えるのはエレオスの黒い背中だけ…不思議な事にエレオスの黒い背中だけは闇の中でもはっきりと見えていた。

 そして権蔵は進むに連れて寒さも増していくのが感じていた。


「オルトか…それが噂のホリスモスの客人だな」

 それは地の底から響いてくる様な低く太い声。

 その頃には闇も薄暗くなり、権蔵は声の主を確認する事が出来た。


「ええ、兄上通してもらいますよ」

 エレオスは気軽に兄と呼んだが、そこにいたのは権蔵の想像を絶する生き物。

 そこにいたのは巨大な三つ首の獅子、ケルベロスである。


「え、エレオス殿。あの方は?」


「私の兄で主の門番をしております。私と一緒でなければ生者は通してくれませんよ」

 やがてケルベロスは権蔵に興味をなくしたのか地に臥して目を閉じた。 


「あの、どうすれば?」


「あれは兄が寝てる振りをしてるうちに通れと言う事で」

 次に見えて来たのは荒れ狂う巨大な川。

 エレオスが川の前で立ち止まると、一艘の小舟が近づいてきた。 

 不思議な事に小舟は荒れ狂う波を物ともせずに川を渡っている。

 船を操っているのは痩せ細った老爺であった。


「あの方は?」


「この船の渡し守カローンです。カローンがいなければステクシュスを渡れませんよ」

 やがてカローンが操っている船が、ゆっくりと岸に停泊する。


「そいつがのホリスモスの客人か。まずは船に乗れ」


「渡し賃は二人分で宜しいですか?」

 エレオスがコインを渡そうとすると、カローンが制した。


「お館様の客人から金は取れん。さあ、行くぞ」

 船はゆっくりとゆっくりと荒れ狂うステクシュスを渡っていく。


――――――――――――――


 船は巨大な館の前でゆっくりと停まった。

 闇の中で火を灯している館は、不思議な暖かさを感じさせる。


「着きましたよ。ここが私の主、ハデス様の館です。ホリスモスからゴンゾーさんを呼ぶのをお決めになられたのはハデス様なんですよ」

 ハデス、ゼウスとポセイドンの兄弟で冥界の神。

 十二神には含まれないが、その力は十二神に勝るとも劣らないと言う。


「エレオス殿。貴方は一体?」


「エレオス・スクリロスは偽名。私の本当の名前はオルトロス。さあ、ハデス様がお待ちです」

 館の中は不思議な暖かさと優しい静に包まれていた。


「オルトです。入ります」

 エレオスが質素であるが、頑丈な扉に向かって声を掛ける。


「オルト帰って来たか。ご苦労さん」

 聞こえてきたのは館と同じ優しく暖かな声。


「失礼致します。ハデス様、ゴンゾーさんをお連れしました」

 部屋にいたのはポセイドンと同じく巨大な体を持った男性。

 優しく整った顔の男性は優しく微笑んでいる。

 しかし、男性は犯しがたい威厳を持っており権蔵は知らず知らずのうちに跪いていた。

 

「お前がゴンゾウか、私の名前はハデス。お前に頼みが有って呼んだんだのは私さ。頼まれてくれるか?」

そう言いながら頭を下げてくる。

 権蔵は言い知れぬ感動をおぼえ、涙が頬を伝っていった。


「な、何なりとお申し付け下さい」

 権蔵はハデスの言葉に平伏しながら答える。


「事の始まりはアーレスの馬鹿が息子のアレクレスを神にするって言い出した事に始まる。アレクレスはアーレスに輪を掛けた馬鹿でな。冥界を預かる者としては到底了承出来ない話なんだよ。だけど、私が反対してもアーレスは納得しない。そこである提案をだしたんだよ。私が選んだ者とアレクレス、どちらがガイアに良い影響をもたらすか。だからお前を呼んだのさ」

 

「なぜ、私なんですか?私は卑しい下忍ですよ」

 神の存在を信じず、非道を繰り返すのが忍である。

 到底、異世界の神に気に入られる要素は持っていなかった。


「条件はガイアの神と縁が薄い異世界の者である事、そして、その世界との縁が薄い者。…そして闇に住んでも欲に溺れず、一人で万軍を手玉に取れる者。だからお前を呼んだのさ」

 権蔵はガイアの神どころか日本の神仏さえ信じない者であり、家族の顔すら知らない。


下忍の話もあと少し、最初に書いた二次の忍者に納得出来ずに書き出した物語がここまで来ました

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