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下忍が異世界で参列した葬儀

 テクトーンの王ダンバルは焦っていた。

 次男オリバースが長男ベトーラの暗殺を企ていたのまだ良い。

 王族や貴族にとって暗殺は常套手段であり、国民に知られる前に握り潰してしまえばいい。

 他国の典医を料理長が襲った事もなんとかなる。

 典医は掠り傷一つ負っていないし、正体を偽っていた。

 しかし、オリバースが陰でスパルータの貴族と繋がっていた事だけは不味い。

 しかも話を聞くと内通と言うより、良い様に使われていただけの可能性がある。

 この分では、スパルータとの間でどんな不利な条件で密約が結ばれているか分からない。

 一番簡単な解決方法はオリバースを殺す事である。

 しかし、ダンバルはオリバースを殺す事を躊躇っていた。

 それは親子の情等ではなく、ダンバルの為政者として都合。

 子殺しをしてしまえば、国民からの支持が急落する危険性が高い。

 それこそスパルータの思う壺である。

 内乱に乗じて国政を牛耳られる危険性もあるのだ。


(こんな事なら早くベトーラに王位を継がせるべきだった)

 ふと、隣を見ると、息子(ベトーラ)が思案に耽っている。

 ベトーラは苦虫を噛み潰した様な顔をしなからも、ゆっくりと口を開き始めた。


「ゾンゴ殿、もう一度テクトーンの病巣を取り除いてもらえますか?それと頼みがあります」

 ベトーラは何者かも分からぬ老人に対して頭を下げた。


「苦しませずに取り除く事は容易に出来ますので、ご安心下さい」

 身内殺しの依頼の時に、出来るだけ苦しませずに殺して欲しいと言われる事は決して少なくない。

 

「いや、テクトーンに有利になる様に殺してもらえますか?」


「分かりました。それじゃ玉ねぎを準備して待っていて下さい」

 権蔵はそう言い残すと樹上へと姿を消した。


「メイトレオフロン様、玉ねぎを準備しておけとはどういう事ですか?」


「オリバース様の葬儀は国葬にして、お二人共泣いて悲しんで下さいと言う事でございます。オリバース様には悲劇の王子になってもらいます」

 メイトレオフロンは自分の荷物の中に葬儀に使える物が入っていたかを思い出していた。


―――――――――――――――


 翌日、オリバースの遺体がテクトーン城の庭で見つかった。

 その手にはスパルータの密書が握られていたと言う。

 死因は刺殺、オリバースの遺体の側には包丁が落ちており、密書には料理長のサレーテとスパルータの貴族ミラークス男爵の名が書かれていた。

 オリバースの死は瞬く間にテクトーンの国に広がっていた…いや、正確にはある男によって意図的に広げられたのだ。


「聞きましたか?オリバース様の死を悼んだベトーラ様がまた床に臥したそうですよ」

 ある時は物腰の低い商人。


「おい、聞いたかい。オリバース様のご遺体の側にはサレーテの包丁が落ちていたって言うじゃねえか」

 またある時は荒くれ者の冒険者。


「オリバース様はサレーテの裏切りに勘づき密書を奪おうとして殺されたのです。おいたわしや…」

 そして誠実そうな神官もオリバースの事件を噂していた。

 無論、全て権蔵が化けた姿である。

 今や、オリバースは死を賭してテクトーンを救った悲劇の王子になっている。


「人の口に戸は建てれないって、本当だね」

 テクトーン城の一室でプリムラが溜め息を洩らしながら呟いた。


「まっ、希望通りテクトーンの歴史に英雄として名を残せたからオリバースも満足してるでしょうね」

 オリバースの死はテクトーンの国民の結束を強めた。

 今やテクトーンの民はスパルータを敵対視しており、商人達はスパルータへの武器の輸出を自主的に禁止している。

 そんな中、オリバースの葬儀は国葬とし大々的に執り行われた。

 参列者は父である現国王ダンバルと兄で次代の王となるベトーラの涙に心を打たれたと言う。

 権蔵はゾンゴに扮して葬儀に列席していた。


(王様も王子様も中々の狸だな…まっ、一番の外道は俺なんだけどな)

 オリバースを殺したのは他ならぬ権蔵である。

 サレーテの包丁をオリバースの遺体の側に置いたのも権蔵だ。

 当然、権蔵はオリバースの死を悲しんでいない。

 しかし、アスブロの典医ゾンゴは若い王子の死を悼み泣いた。

 長男ベトーラを病から救った老人の涙を嘘泣きだと疑うテクトーンの民はいなかったと言う。

 オリバースの葬儀の翌日。

 権蔵は姉の前で正座をさせられていた。


「それじゃ、ゴンちゃんはミータちゃんを迎えに行ってきなさい。きちんと謝ってくるんだよ」

 その後、下忍は事の顛末を聞かされた猫人の娘に泣きつかれて困惑したと言う。

 下忍は人の噂を操る術は知っていても、年頃の娘を落ちかせる術は持っていなかったのである。


―――――――――――――


 権蔵に一通の手紙が届いた。

 海神ポセイドンからの招待状である。

 海神ポセイドン、オリンポス十二神の一柱で海を統べる神。

 その力は天空神ゼウスの次に強大だと言われている。 


「流石に断る訳にはいきませんよね」

 権蔵は圧倒的な力を持つこの世界の神々を恐れていた。 


「当たり前でしょ。ポセイドン様の神殿に御呼ばれするのは凄く名誉な事なんだからね」


「逃げも隠れも出来ない場所ってのは、苦痛なんですよね」

 権蔵はそう言うとゆっくり溜め息を吐いた。

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