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下忍が異世界で化けた者

 メイトレオフロンがどこでベトーラ王子の病状を知ったのか、テクトーン側に緊張が走る。 

 緊張しているテクトーンを無視して、メイトレオフロンが馬車に声を掛けた。

 現れたのは一人の老人。

 腰が曲がってるらしく、よたよたとした危なかっしい足取りである。

 手にしっかりと握られた杖がなければ、直ぐに転んでしまうであろう。

 旅の疲れが心配になるが、長い白髪と豊かな髭が顔を覆っている為に、表情を窺い知る事は出来ない。

 深緑色のローブが身体をすっぽりと覆っているので、外気に触れているのは枯木色をした指だけである。


「ダンバル様、儂がゾンゴでございます。よろしければベトーラ様の治療をお任せ下さい」

 しわがれた低い声であるが、若い王子の身体を心配する優しさに溢れていた。


「ゾンゴ殿、息子は治りますか」

 ダンバルは藁にもすがる思いでった。

 もし、長男ベトーラに何かあれば、王位を継ぐのは次男のオリバスである。

 

「症状を聞いた限りでは大丈夫でございます。枯れかけた命をベトーラ様の役に立てたら思い残す事はございまぬ…いや、姫様が良い婿を貰うまでは、このゾンゴ枯れ木に火を灯しても生きますぞ」

 

「ゾ、ゾンゴ。ダンバル王の前です。軽口は控えなさい」

 メイトレオフロンは雪の様に白い肌をを赤く染めなから、ゾンゴをたしなめた。


「お厭わしや。姫様が赤子の頃から仕えた爺の願いを無下にされるとは。姫様、ゾンゴは哀しゅうございます」

 ゾンゴの嘆きを聞いたメイトレオフロンはプイッとそっぽを向く。

 才女と名高いメイトレオンも、幼少から仕えてくれた典医を無下には扱えないのであろう。

 テクトーン側に流れていた緊張が、僅かに緩む。

 しかし、テクトーンの者は誰も知らない。

 白髪に隠れたゾンゴの顔が不敵に笑っている事を。


――――――――――――――――


 テクトーンの城の一室、ゾンゴはベトーラの診察を行っていた。

 周りをテクトーンの兵に囲まれての診察である。

 下手な動きをすれば老いた典医は一刀の元に切り捨てられてしまうだろう。


「ふむ、胃が弱っておりますな。しかし、エルフの治療を持ってすれば治ります…実はここだけの話ですが、サジタリウスの姫も同行されております。かの方の料理は身体に良いので、それを食べてもらえれば治りも早まります」

 テクトーンの兵士に緊張と驚きが走った。

 サジタリウスの姫が同行していると言う事は、眉唾物だった老爺の経歴を保証するのだ。


「サジタリウスの姫がおいでなのですか?」

 ダンバルの声が微かに震える。

 ドワーフとエルフの仲は決して良いとは言えない。

 そのエルフの姫がゾンゴとメイトレオフロンの為に、テクトーンに来たのである。


「困った事に、あの方は七十を過ぎても未だに儂を子供扱いされての…ダンバル様二週間程、ベトーラ様の治療と食事を儂とプリムラ様にお任せ願えますか?」

 治療が成功すればベトーラは助かるし、失敗すればアスブロとエルフに貸しを作れる。

 ダンバルは王族独特の計算高さで了承した。

 それが全て異世界から来た下忍の企みとも知らずに。


―――――――――――――――


 ゾンゴは客室として宛がわれた部屋に入ると、自分の頭に手を掛ける。

 現れたのは黒々とした短髪。


「かー。綿花と違って、この山羊の毛は蒸れて痒くなるな」

 そう、ゾンゴは権蔵が変装していたのだ。

 忍者である権蔵にとって変装はお手の物。


「肌にターメリックまで塗って…ゴンちゃんは本当にこう言う事だけは細かいんだよね」

 下忍を迎え入れたのはエルフの少女プリムラ。


「そんなに細かいですか?典医の爺さんの肌が赤銅色をしてたらおかしいでしょ」


「なんでミータちゃんに、それ位気を使えないかな…それでどんな料理を作れば良いの?」

 プリムラはアスブロからテクトーンの道中たっぷりと説教したので、話を直ぐに切り替えた。


「消化が良くて胃に優しい物を作って下さい。俺は丸薬を作りますので」


「魔法は使わなくて良いの?その方が早く治るんだよ」

 プリムラとしては治療を早く終えて、朴念仁の義弟にミータを迎えに行かせたいのだ。


「それをしたら魔法が原因だと勘繰られちゃうでしょ。朝顔の種を盛られなくなれば、徐々に回復していきますよ」


「ふーん、それでゴンちゃんはどんな薬を作るの?」


「生姜、甘草、紫蘇等を混ぜた胃薬です。弱った胃を治す薬効があるんですよ。後は蜂蜜を溶かした水を飲んでもらいます。それと義姉さんは料理の時は女性騎士の宿舎で作ってもらいますんで」

 幸いな事に、ベトーラは少量づつしか朝顔の種を盛られておらず、回復にはそれほど長い時間を有さない。

 

「料理長が犯人なんだもんね。女性騎士は僕の見張りと護衛なんでしょ」


「ええ、ベトーラの体調が治って来たら襲撃を企てるでしょうから」

 尤も、自国でエルフの姫様が襲われたとなれば戦になりかねないので、プリムラより権蔵の方が危険なのである。


「また、自分を餌にするんでしょ?」


「ドワーフの協力があればスパルータとの戦が有利になりますからね」

 

―――――――――――――――


 ベトーラの体調は少しずつであるが、回復していった。

 一週間もすると、寝台に腰を掛けながらではあるが、会話が出来るようになっていた。


「ゾンゴ殿、一度は諦めた命をお陰様で拾う事が出来ました。ありがとうございます。俺に出来る事はありませんか?」


「それなら一つ命じてもらえませんか?テクトーンに巣食ってる病巣も取り除けと…ベトーラ様はもうお気付きになってるんでしょ?」

 その口調はゾンゴではなく権蔵のものである。


「ああ、治療を受けている時の手が筋肉質だったからな…やはり(オリバス)か?」

 ベトーラはゾンゴが老爺でない事には大分前から気付いていた。

 尤も、その頃には体調が回復の兆しを見せていたので、あえて何も言わなかったのである。


「俺に任せてくれれば病巣を炙り出してみせますよ。後は王子の気の済む様にして下さい」

 ベトーラが頷くのを確認した権蔵は部屋を出ると、メイドや兵士にある事を聞いて回った。


「済まぬが、この辺りで薬草が取れる森はあるかな。姫様に知られたくないから、人気のない場所が良いのじゃが」

 そしてある人物が人気のない森を教えてくれた。

 教えてくれたのは料理長のサレーテ。

 その時、下忍と料理長はお互いにほくそ笑んでいたと言う。



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