表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/94

下忍が異世界で放置した者?

なんとか書けました

 権蔵が宿屋から姿を消してから、既に十日が経とうとしている。

 その間、ミータはテクトーンで薬師の修行に明け暮れていた。

 最初の二、三日こそ修行に夢中になっていたミータであるが、ここ数日は気もそぞろになっている。

 

(せめて無事かどうかだけでも、知らせてくれたら良いのに…)

 ミータは両手で擂り粉木を持ちながら、軽く溜め息を洩らす。

 それでも顔は努めて平静を装ってたるが、尻尾はだらりと弱々しく垂れ下がっていた。

  

「ミータちゃん、手が止まってるよ…ははーん、旅に出た彼氏が心配なんだね」


「ふにゃ!!ア、アントスさん、ゴンゾーさんは彼氏じゃないですよ!!ただの命の恩人です」

 ミータに話し掛けて来たのは背の低い中年女性。

 ドワーフの薬師アントスである。

 

「おや?あたしゃ旅に出た彼氏とし言ってないんだけどね。どうやら、例のゴンゾーって猿人がミータちゃんの恋しい人らしいね」

 アントスは権蔵と直接顔を合わせた事はないが、キルケの紹介状に詳しく書いてあったので名前を覚えていたのだ。


「こ、こ、恋しい!?ゴンゾーさんとはお会いしてから何日も経ってないんですよ」


「ミータちゃんは猫人なのに、そんな事を気にするのかい?」

 アントスの知っている猫人は恋愛に積極的で、気に入ればその日のうちに深い仲になる事も珍しくはない。


「私は薬師の修行ばっかりしてましたから」

 ミータも恋人がいた事はあるが、薬師の修行に夢中になっていた所為で、深い仲になる前に別れている。

 恋をした時の様にときめく気持ちはミータの中にはまだ生まれていないが、権蔵の事は昔の彼氏よりも気になって仕方がないのは確かであった。


「そうなのかい?そう言えば、今日お城にアスブロのメイトレオフロン姫が来るそうだよ」


「メイトレオフロン様はテクトーンに良くいらっしゃるんですか?」

 ミータはメイトレオフロンに会った時の事を強烈に覚えている。

 猿人は庶民でさえ獣人を差別してくる者がいる。

 それなのに一国の姫であるメイトレオフロンは、ミータを友人として遇してくれたのだ。


「いや、初めてだよ。こんな武骨な町には姫様どころか貴族のお嬢様も来やしないさ。だから町中大騒ぎだよ。あたしゃも見に行くからミータちゃんも一緒に行ってみないかい?」

 メイトレオフロン姫に会えれば権蔵の行方を知る事が出来ると思ったミータは直ぐ様頷くのだった。


――――――――――――――――

 

 街道から城へと続く道は猿人の姫を一目見ようと集まったドワーフで溢れかえっていた。

 そこに現れたのはドワーフの兵士に先導された一台の馬車。

 その馬車は華美さより性能を優先させているのが一目で分かる。


「猿人は無駄に物を飾り立てるのが好きだと聞いていたが、物を分かっている姫様もいるんだな」


「ああ、無駄な装飾は省いて機能を重視している良い仕事だ」

 ドワーフの性なのか群衆は姫の乗る馬車に集まっている。


「あれはアスブロに住んでいるドワーフが作った馬車なんですよ。アスブロの姫様はドワーフの皆様の仕事を高く買っているそうですよ」

 それは高く透き通った少年の声であった。

 ただ不思議な事に、その声の主は直ぐにその場から姿を消していた。

 次に群衆の注目を集めたのは馬車を操っている御者であった。


「御者をしているのは犬人の娘だぞ」


「犬人に御者をさせるとは変わった姫様もいるもんだな」

 しかし、犬人の少女が着ている服は決して安い物ではないのが分かる。

 

「アスブロの姫様は種族や出自より能力を重視されるそうじゃ。あの犬人の娘も元は奴隷だったそうじゃ」

 今度は枯れた老人の様な声が聞こえてきた。

 それに合わせて群衆の目線は御者の娘に集まる。


(ゴンゾー様の馬鹿ー。なんでそんなに煽るんですかー?)

 御者の娘クレオは顔を赤らめながらも、声がした場所とは違う木の枝を睨んだ。

 そこにいたのは一人の下忍。

 クレオが犬人の鼻で権蔵の場所を簡単に突き止めた様に、権蔵にとって声色を変える事や声を違う所から響かせる位は容易い事なのである。


―――――――――――――――――


 馬車はテクトーンの城に着くとゆっくりと動きを止めた。

 衆目が集まる中、一人の女性が降りてくる。

 真っ白な髪に雪の様な純白の肌の持ち主、メイトレオフロン・アスブロ姫であった。

 姫を出迎えたのはテクトーンの王ダンバルである。


「ダンバル王、突然来訪申し訳ありません。どうしても急いで知らせたい事がありまして」


「いえ、メイトレオフロン姫のお噂は私も耳にしております。本来なら王子ベトーラのも出迎えをしなければならないのですが、体調を崩しておりまして」

 ダンバルは申し訳なさそうにメイトレオフロンに頭を下げて見せる。

 メイトレオフロンはアテナの加護を得たと言う噂があるだけに無下に出来ない。


「それでしたら私の典医にみせてやってもらえませんか?その者はエルフの里で医者の修行をした者でゾンゴ・サジタリウスと言います」


「サジタリウスと言うと十二部族の一つでは?」


「ええ、その者はサジタリウスのプリムラ姫に気に入れられ姓を賜ったのです」

 ちなみ、その本人はミータを十日も放ったらかしにした所為で、サジタリウスの姫様から叱られまくったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ