下忍が異世界さ調べた企み
ようやく復帰しました
夜の張が下ち、テクトーンを闇が覆い尽くす。
月が雲に隠れた所為で、町全体が墨で塗り潰されたかの様に真っ暗になっついる。
常人なら手探りなしでは一歩も歩けないでろう。
そう常人ならば…
闇を纏った何かがテクトーン城近くの森で蠢いていた。
柿渋色の忍び服に身を包んだ権蔵である。
権蔵は音もたてずに一本の木に登っていく。
そして木にへばり付くと、ピクリとも動かなくった。
それはまるで最初から木に着いていた瘤の様であった。
瘤と化した権蔵は一日中ピクリとも動かずテクトーンの城を見下ろしていた。
(城は石造り、塀の高さは三間近い。堀の幅は二間位か。深さも一間は越えてるな)
一間は六尺、つまり180㎝になる。
テクトーンに住むドワーフの平均身長が140Cmであるから、二間(約3m60㎝)の堀幅や一間(約1m80㎝)を越える堀の深さは城への無断侵入を防ぐには充分であった。。
(朝の鐘と同時に跳ね橋を降ろして通いの騎士や役人を城の中に入れるのか。裏側の橋は使用人の出入りや物の搬入に使っているのか。うん?あの花はもしかして…)
権蔵の目に飛び込んできたのは、朝日を浴びて咲き誇る藍色の花。
(朝顔?しかも種がついているのもある)
花を愛でる感性を持ち合わせていない権蔵であったが、朝顔にはある理由で関心を持っていた。
――――――――――――――
その日の夜、権蔵はミータに一輪の花を手渡した。
一見するとロマンチックな光景であったが、その花は見事なまでに萎れている。
「この花を見た事はありますか?」
「カリステジアに似ていますが、花が多いですし葉の形も少し違いますね。この花がどうしたんですか?」
いきなり萎れた花を手渡され所為か、ミータの顔が少し曇る。
「カリステジアとはどんな植物なんです?」
「カリステジアは昼の間にだけ花を咲かせるんですよ。直ぐに増えるので雑草扱いをされています」
ミータの言う通り、カリステジアは地下茎で増える植物で繁殖力も強く駆除が難しい為あまり好かれてはいない。
「昼顔の仲間か…こっちには朝にだけ咲くカリステジアはありますか?」
「朝に咲くカリステジアですか?聞いた事はありませんけど」
ミータの言葉を聞いた瞬間、権蔵は頭の中であらゆる予測を建てていく。
「問題はどこで誰が手に入れたか…そして誰が教えたかだな」
「もしかしてそれはアナトリの植物なんですか?アントスさんから聞いたんですけど数ヵ月前に商人がアナトリの物を持ってきたそうですよ」
新しい物や珍しい物を好むドワーフには色々な物が持ち込まれる。
ミータがテクトーンで世話になる事になった薬師のアントスも何種類かの薬を買ったらしい。
「ええ、ただ重要なのは花より種なんですよ。朝顔の種は下剤に使われるんです。しかも煎っても薬効は変わらないんですよ…そして件の王子様は栄養を着ける為にとハーブが沢山使われたこってりした肉料理を出されていました。あれだけ味を濃くしたら何を混ぜられても分からないでしょうね」
ドワーフの主食は肉であるだけに体調を崩した時には、大量の肉を食べる習慣がある。
「へっ?ゴンゾーさん、何でそんな事を分かってるんですか?」
ミータは権蔵の袖を掴みながら顔を覗きむ。
「何でって、城に忍び込んで来たんですよ。質実剛健な造りでしたが警備は笊でした」
「お城に勝手に入ったら死刑にされるんですよ」
涙目になったミータが権蔵の腕を握り締めながら前後に振り回した。
「勝手に忍び込むのが俺の仕事なんですよ。俺は黒幕を探しにはいります。このままじゃ王子様が衰弱しちまいます」
「下剤で衰弱ですか?酷い下痢が続いたら直ぐにばれると思うんですが…量を調節したら薬効は弱りますし」
「ええ、便が緩くなる位に調節してるんだと思いますよ。当然、胃の腑は弱ります…そんな状態でこってりした肉料理を食べたら胃もたれを起こして逆効果です。王子様の舌も脹れていましたし」
忍びである権蔵は漢方の知識を持っている。
漢方で胃が弱ると舌が膨れると言われており、テクトーンの王子の舌にもその症状が現れていた。
「何の為にそんな酷い事を…」
「それをこれから調べるんですよ。実際に盛っているのは料理長なんですが背後を特定できてないですし。あっ、何日か帰って来なくなると思いますが心配しないで下さい」
数日後、権蔵はテクトーン城の近くの川縁にいた。
月明かりの下、褌一丁で頭には刀と衣類を乗せている。
権蔵は流れの早い川に躊躇せずに飛び込んだ。
――――――――――――――――
川に飛び込んでから二日後、権蔵はアスブロにあるメイトレオフロン姫の執務室にいた。
「それで黒幕は誰でしたの?」
「弟のオバリスです。そしてオバリスを唆したのはスパルータの貴族ミーラクス男爵でした。どうやらスパルータに味方をすればアレクレスが継承権を保証すると言われた様です」
無論、アレクレスにそんな権利はないが、奇しき者に認められオバリスは浮かれあがったらしい。
「それで長男の資質はどうなのかしら?」
「長男ベトーラは民の信頼も厚く落ち着いた性格をしております。救えば姫の味方になるかと…そこでお願いがあるのですが…しても宜しいでしょうか?」
権蔵はドワーフの王子様の健康にも継承権争いにも関心はなかった。
必要なのは自分が仕えている姫の力を強める事なのだから。
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