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下忍が異世界でやらかした事

 街道をしばらく進むと広大な草原が見えてきた。

 草原には何百頭もの羊や牛が放牧されており、牧歌的でゆったりとした時間が二人の間を流れていく。


「随分と沢山の家畜を飼ってるんですね」


「ドワーフはお肉が主食ですから」

 草原から心地好い風が吹き抜けて来て、二人を包みんだ。 

 風の悪戯なのか、桃の実の様な優しく甘い香りが権蔵の鼻をくすぐる。  


「に、肉ですか。テクトーンでも飯は肉尽くしなんですかね。俺は魚か野菜の方が良いですね」

 権蔵は妙に気恥ずかしく何時も以上にぶっきらぼうな答え方をした。


「ゴンゾーさんはお肉がお嫌いなんですか?」


「嫌いと言うよりも食べ慣れてないんですよ。ほら、義姉さんはエルフでしょ。あの人が作ってくれる料理は野菜中心なんですよ」

 ふと権蔵の顔が故国の母を思い出した時の様な穏やかな物になる。

 

「猿人の方にはエルフの料理は物足りなく感じると聞いた事がありますが」


「まともに飯が食える様になったのはここ最近ですから。エルフ料理でも大満足ですよ」

 むしろ権蔵にとって義姉プリムラの料理こそがお袋の味となっていた。


「それでは前はどんなお食事をされていたのですか?」


「あれは食事になるんですかね。(あわ)(ひえ)の雑穀粥と漬け物位です。たまに干し魚が許されたらご馳走ですよ」

 

「まあ…それならゴンゾーさんが食べたい物はなんですか?」

 ミータは、うまく二の句が継げずにようやくそんな言葉を絞り出した。


「こっちにあるか分かりませんが白い米の飯を腹一杯食べてみたいですね。一度、大名の台所で米を炊いてる所を見たんですが匂いだけでも涎が止まりませんでしたよ。あっ、米は麦に似た植物です」 

 途端に権蔵が無邪気な顔つきに変わる。


「お米を炊くんですか?」

 薬師であるミータは植物に詳しいつもりでいたが、米と言う名の植物は聞いた事はない。


「ええ、説明は難しいんですが水にうるかした米を鍋で炊くそうなんですよ。さっ、行きましょ」

 ミータが気づいた時には無邪気な少年は消え失せ、権蔵は胡散臭い笑顔を張り付けた護衛に戻っていた。 


(ゴンゾーさん、可愛いお顔だったな。また見れると良いな)

 風は止んだのに、ミータの尻尾は嬉しそうに大きく揺れていた。


―――――――――――――――


 テクトーンの町は岩山の麓に作られた花畑の様だと言われている。

 建物はドワーフの背丈に合わせている為か全体的に小振りである。


「可愛らしいお家が沢山ありますね。色んな色の屋根があって本当にお花畑みたいです」


「ええ、それに様々な意匠が凝らされています。多分、家がそのまま見本になってるんでしょうね」

 権蔵の言う通り、それぞれ家や屋根の形や色を変えるだけでなく、窓枠や玄関の装飾に工夫が施しており見ているだけでも楽しくなってくる。

 

「ゴンゾーさんなら頭が(つか)えて大変そうですね」


「まあ、身を縮こまらせておきますよ。あの建物にも慣れたいですし」

 そう言いつつも権蔵は小さな家に忍び込む算段を建てていた。


(屋根裏は無理だな。窓の下に潜むか厠の汲み取り口から忍び込んで天井に張り付くか…どっちにしろ情報集めが必要だな。久しぶりにギルドに顔を出してみるか)

 別に依頼を受けなくても張られている依頼書を見ればテクトーンの内情が掴めてくるのだから。


―――――――――――――――――


 権蔵はミータを宿屋に残すとテクトーンのギルドへと向かった。

 思った通り、ギルドには様々な依頼書が張られていた。


(魔物の退治、素材集めに護衛か…王子の呪いの解呪だと。あのドワーフの言っていた事は本当だったんだ)

 テクトーンの王子が体調を崩して床に臥せっているらしい。

 様々な医者や薬師に診せたが、芳しくないらしく呪いと判断したそうだ。

 しかし、ドワーフは魔術を得意とするエルフとの国交がない為にギルドで募集をかけたとの事。


(呪いね…昔なら鼻で笑っていたろうが、あんな怖い神様がいるんじゃ疑いたくもなるよな。でも、これは使えるな)

 権蔵は神妙な面持ちで依頼書から顔を離すと、何も依頼を受けずに雑踏へと姿を消した。


―――――――――――――――


 宿屋に戻った権蔵は例の依頼書の事をミータに告げた。

「呪いですか?嫌です、怖い…」

 怯えたのかミータは身をすくませて尻尾を体に巻き付ける。


「まっ、何かの病気だと思いますよ。祟りなんて化け猫じゃあるまいし」


「猫は呪いなんて掛けません」

 ミータは権蔵の言葉が気に触ったらしく、尻尾を逆立ててプイッと横を向く。


「参ったな、とりあえず俺はこの件を調査してみます。アルティーリョさんはここに行ってもらえますか?」

 護衛は懐から取り出した封筒と紙をミータに手渡した。


「これはなんですか?」

 ミータはまだ許しませんと言いたいのかジト目で権蔵を見る。


「テクトーンの薬師の家が書いてる地図とキルケ様の紹介状ですよ。折角集めた素材を悪くしたら勿体ないじゃないですか。気の良さそうなドワーフのおばさんがいましたから大丈夫ですよ」


「…ミータです」


「ええ、アルティーリョさんの名前は知ってますよ」


「だから私の名前はミータです。アルティーリョさんなんて呼ばないで下さい」

 権蔵にアルティーリョと他人行儀な呼ばれ方をされると何故か分からないがイライラするミータであった。

ちなみにミータはイタリア語で温厚という意味です。

ミータのキャラと猫っぽい響きで選びました。

プリムラを越えるキャラになれば良いんですが

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