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下忍が異世で突きつけられた課題

皆様のお陰で下忍がなろうコン一次を突破しました。


 いつもの権蔵なら適当な理由をつけて木の上にでも逃げていたであろう。

 しかし、いくら忍びでも周りが海では逃げ場がない。こ

 ましてや、権蔵達が乗っているのはヘパイストスの船だ。


(やれやれ、大名の安宅船なら適当な所に潜り込むんだけどな)

 遠慮とは無縁の下忍とは言え神の船で好き勝手に過ごす訳にもいかず、権蔵は伏せていた顔を上げた。

 船室にも関わらず、そこには真っ青な海があった。

 ミータが青く澄んだ目で権蔵を見つめてきのだ。

 ミータの目は真夏の海の様に光を乱反射させて輝いている。

(猫人の目は猫の目と一緒で光を反射して煌めくのか)

 

「今回は助けて頂いて本当にありがとうございました」

 ミータはそう言うと、権蔵に深々と頭を下げてきた。


「俺はヘパイストス様に頼まれただけですよ。それにあそこに居たら食うに困らなかったんじゃないですか?」

 

「確かにそうですね、でも私は薬師ですから。綺麗に整えられたお部屋でなく薬草や調剤道具が所狭しと置かれた部屋が私の居場所なんです」

 損な性分でしょう、ミータはそう付け加えるとたおやかに微笑んでみせた。


「それならアスブロで薬師をおやりなさい。あそこの姫様とは面識がありますので許可はなんとかなります」

 旅の同行を無下に断りでもしたら、義姉やキルケからきついお叱りを受ける可能性が高い。

 権蔵はミータが自らアスブロに残る様に仕向けたのだ。

 

「それはありがたいのですが、今の私には薬どころか薬草も乳鉢もありません。勝手なお願いなのは分かっていますが、旅に同行させてもらって薬の材料を集めたいのです」

 ミータはすがる様な目付きで権蔵を見つめている。


(どうも、こいつの相手をしていると調子が狂う。危険だから俺が仕事のついでに材料を集める事にすりゃ諦めるよな)

 権蔵にとって人を欺いたり騙す事は朝飯前である。

 しかし、それをムザムザと見逃さない人間がここにはいる。


「ゴーンちゃん、こんな可愛い子に頼られるなんて男冥利に尽きるじゃない。まさかアスブロに置いていくなんて冷たい事は言わないよね」 


「ゴンゾウさんは若い娘に見知らぬ土地で一人で暮らせなんて酷い事は言いませんよね?」

 入り口で成り行きを見守っていたプリムラとキルケの二人がすかさず会話に加わって来たのだ。


「しかしですね、クレオの妹の事もありますし」

 クレオが御者をしてくれる事で、権蔵は自由に動けている。

 そのクレオをやっと再会出来た妹エルバと引き離すのは得策ではない。 


「ゴンちゃん、そう言うのを依怙(えこ)贔屓(ひいき)って言うんだよ」


「依怙贔屓じゃなく、そんなに女を連れていたら目立って仕様がないじゃないですか。女を四人も連れて歩く商人なんていませんよ」

 何よりも、権蔵自信が女性に囲まれた生活を好まないのである。


「あら、それならエルバちゃんは御者の見習い。ミータちゃんは私が修行の一環でゴンゾウさんに同行させた事にすれば良いじゃないですか」

 いくら謀略に長けた忍びとは言え、永年女をしてきたプリムラとキルケに口で敵う筈もなく、いつの間にか権蔵はミータの同行を認めていた。


――――――――――――――


「いやいや、流石のシノビも女の口には敵わなかったか」

 権蔵がこれまでの経緯を説明すると、ヘパイストスは腹を抱えて笑いだしのだ。 


「ただの女じゃありませんよ。義姉さんの魔法だけでも厄介なのにキルケ様までおられたら逆らえる訳がないじゃないですか」


「まだどっちもアスブロで一人暮らしをさせるには早いしな。それに下手にアスブロに置いていって人質に取られるより良いだろ?」

 確かにヘパイストスの言う通り、ミータもエルバも奴隷から解放されたばかりでまだ精神的に不安定である。


「ええ、ミータは落ち着いていますが、エルバをクレオから離すのは得策には思えません」

 エルバは奴隷にされた経緯から男性恐怖症の様になっており、権蔵は船に乗ってからはエルバの顔すら見れていない。


「馬鹿言え、ミータも落ち着いてなんかいねえよ。ありゃ、キルケとプリムラの魔法で負担を減らしてるだけなんだぜ。良く考えてみろ?二人とも、無理矢理に(かどわ)かされて奴隷にされたんだ。男の面も見たくねえ筈だよ」

 

「それなら旅に同行させずに、アスブロで薬師をさせた方が良いのでは?」

 権蔵は女心に配慮を出来る様な男ではない。


「あのな、救い主のお前にすら怯えている奴が薬師なんて出来る訳ねえだろうが。患者に怯える薬師なんて聞いた事がねえだろ?」

 薬師になれば患者以外にも、患者の家族や薬の素材を持ってくる冒険者と接する必要がある。


「そりゃそうですが、二人とも男が平気になるもんですかね?」


「権蔵、覚えておけ。女って生き物は肉体的には男より弱いけど、精神的には男より強いんだよ。知ってるか、もし男が餓鬼を産んだら痛さに耐えられなくて狂うらしいぜ」

 ヘパイストスはそう言うと権蔵の頭を軽く撫でてみせた。

 ヘパイストスは異世界から連れて来られた不器用な性格の下忍を気に入ったのだ。


「こりゃまた、なんとも難儀な依頼ですね。騙したり唆すのは得意ですが、人の心を癒すなんて俺には無理ですよ」

 

「まっ、口説く訳じゃねえから、難しく考えずに普通に接するんだな。それで褒美は何するか決めたか?」

 権蔵はヘパイストスの言葉に頷くと、懐から一枚の紙を取り出す。


「こんな感じの物は作れますでしょうか?」


「へぇ?てっきり武器か隠密に使うマジックアイテムをねだってくると思ったんだがな…面白れえ事を考えるもんだな。分かった、作ってやるぜ」

 そう言ってカラカラと笑うヘパイストスに権蔵は不思議な安堵感を感じていた。

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