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下忍が異世界で見た不可思議な部屋

久々の下忍です

 スパルータでは亜人は穢れてると言われ、馬車を停める所まで決められていた。

 

「これまた見事な荒れ様ですね」

 そこは厩舎どころか広場と言うのもおこがましい程の荒れ地。

 先客なのか数台の馬車が停められている。


「馬を繋ぐ木の棒があるだけじゃない!?草も伸び放題だし」

 馬車から顔を覗かせたプリムラは厩舎の惨状を見て憤然とする。


「馬は餌が食べ放題だから金が浮きますよ。義姉さん、人を寄せ付けない魔法とか使えますか?」

 どう見てもここには防犯措置がされておらず、他の馬車は屈強な亜人が番をしていた。


「強力な結界を張っておくよ。ゴンちゃんが来たらクオレちゃんに教えてもらえば良いし」


「お願いします。クオレ、馬が口にしたらまずい草を刈っておいてくれ。俺はスパルータの町を見てくる」

 権蔵はそう言いながら、ワイン樽の栓を外して数本の竹筒に移し始めた。


「あれ?樽は持っていかないの?」


「先に試飲させて評判を高めます。それに今売ると、亜人が乗っていたとか言われて安く買い叩かれますし」

 何よりも樽を持っていては、自由に動けなくなる。

 権蔵の目的はワインを売る事ではな

く、ボロニス子爵の屋敷にいるポセイドンの娘を連れ出す事なのだから。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 その商人風の男が初めてスパルータに来たとは、誰も思わないであろう。

 商人は何の違和感もなくスパルータの雑踏に溶け込んでいた。

 商人はすれ違った騎士や兵士には深々と頭を下げ、逆にすれ違った亜人は睨み付けて退かせている。

 

(猿人だけの国か、前なら当たり前だったんだけどな)

 権蔵はスパルータの亜人に対して、何の感情も湧かなかった。

 彼はあくまで現実主義の忍であり、英雄的発想は小匙一杯分も持っていない。


(どこの世界でも、(まつりごと)をする奴は下層を作るんだな。ハーフエルフ (しか)り下忍 (しか)り)

 権蔵自身も最下層の生まれであり、己以外は頼れぬ状況で育ってきたからである。

 権蔵はスパルータの町を歩きながら宿屋や酒屋でワインを試飲させて回った。


「うちではこんな高いワインは買えねよ。貴族のお屋敷なら買ってくれるんじゃないか?」

 四軒目の酒場の主人は酒焼けした声でそう断ってきた。

 根っからの酒好きらしく、権蔵がワインを試飲を勧めた途端、だらしなく相好を崩している。


「今、勢いのある貴族はどなたでしょうか?」


「今はポロニス子爵様だな。俺達平民にも優しい立派なお方だよ。アレクレス様のご加護もあるしな」

 権蔵は酒場の主人のコップにワインをもう一度注ぐ。


「それは是非とも知遇を得たいですね。お屋敷はどこにあるんですか?」


「スパルータの東に林に囲まれた真っ白なお屋敷がある。アレクレス様のご尊顔を拝みに来ている人が行列を作っているから、直ぐに分かるさ」

 酒場の主人はそう言うと、ワインをうまそうに眺めた後、チビリチビリと勿体なさそうに飲み始めた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 権蔵がポロニス子爵の屋敷に向かったのは、三軒の宿屋と二軒の酒場を回った後である。

 酒屋の主人が言った通り、町の東側には老若男女が行列を作っていた。 


(あれか…今日にでも下調べを始めるか)

 権蔵は行列に並びながら、辺りの木々を観察し始める。


(あそこの枝から忍び込めるな…そうと決まりゃ)

「すいません、ちょっと用事が出来たので列を抜けます…あぁ、折角アレクレス様にお会いできると思ったのに腹を下すなんて信心が足りないんだな」 

 権蔵は情けない顔で腹を押さえながら、雑踏に姿を消していく。


 権蔵が馬車に近づくと、プリムラは馬車から身を乗り出して手を振り始めた。

「ゴンちゃん、お帰りー。これからどうするの?」 


「ここには泊まれる宿屋がないから、一度ノトスに戻りますよ…義姉さんにお願いがあります。宿屋に着いたら猫を眠らせて下さい…俺はポロニスの屋敷に忍び込みます」

 下忍はリリサが眠りに落ちたのを確認すると、宿屋から姿を消した。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

(随分と金が掛かってるな) 

 それがポロニスの屋敷に忍びこんだ権蔵の感想であった。

 戸や窓の金具には金が使われており、敷かれている絨毯も豪華な物である。

 屋敷のあちこちに護衛がおり、その隙間を縫う様にして大勢のメイドが忙しそうに動いている。

 天井裏に潜んだ権蔵は屋敷をくまなく調べ始めた。

 そして屋敷の奥で動きを止めた。

 そこは他の場所に比べれ一際豪華に作られており、それぞれ意匠が凝らされた扉が四つ設置されている。

 何故か周囲には、あれ程いた護衛やメイドが一人もいない。


(どうやら、ここらしいな)

 その部屋にいたのは豪華な純白ドレスまとい、きらびやかな装飾品に身に着けた少女。

 そして首にはドレスとは対照的な漆黒の首輪がはめられていた。


(あれは奴隷の首輪。当りだな)

 部屋の豪華さより、少女が人形の様に無表情なのが権蔵の心に残っていた。


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