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下忍が異世界で聞いた名前

久しぶりの更新です

 ファルマ村を出た権蔵は直接首都スパルータには向かわず、スパルータの手前にあるノトスと言う町に来ていた。

 ノトスは周囲を石を何十にも積み上げた塀で囲まれており、物々しい雰囲気を放っている。 

(入り口にいる兵士は門番か。人数は十人、随分と厳重な警備だな…それに妙に殺気だってやがる)


「そこの者止まれ!!ノトスに入りたければ身分を証明する物を出せ」

 一人の兵士が馬車の行手を塞さいだ。


「私はアーテナイから来たゴンゾウと言う商人でございます。身分はこれを見ていただけましたら」 

 権蔵は懐から取り出した二通の手紙を兵士に手渡す。

 手紙を見た兵士達の顔がどんどん青ざめていく。

 やがて、一人の兵士が馬車につけられた紋章を見て騒ぎだす。


「ヘ、ヘパイストス様?こっちの手紙はキルケ様?これは失礼致しました」

  一斉に頭を下げるノトスの兵を見て、権蔵は慌てて御者台から飛び降りて膝まづく。


「兵士様お止め下さいませ。誇り高いスパルータの兵士様にその様な事をされては、私がヘパイストス様から叱られてしまいます」

 権蔵は膝を着けたままにじり寄ると、兵士の手に銀貨を握らせた。

 権蔵がその兵士を選んだのは装備である。

 兵士の剣や鎧は使い込まれており、懐具合の苦しさが容易に想像出来た。


(兵士様のお情けにすがらせて下さい。馬車の中にはやんごとなき人を乗せているのですが、その方の従者には獣人がおりまして泊まれる宿に苦慮しています。どうぞ、私にお知恵をお貸し下さい)

 権蔵は兵士の耳元で、哀れみを乞う様な口調で囁く。

 権蔵は兵士の口の端が僅かに緩んだのを確認すると、手早くもう一枚の銀貨を握らせる。


(俺はスパルータの兵士だ。賄賂は受け取れない)

(賄賂なんてとんでもない。これはお知恵の拝借代でございます。哀れな商人を救って頂く報酬ですよ)

(スタヒイと言う宿屋へ行け、あそこは金さえ払えば何を言われない。俺の気が変わらないうちにさっさっと行ってくれ)

 権蔵は兵士の声に哀願が混じっているのを確認すると、ゆっくりと御者台に戻る。

 穏やかな晴天の昼下がり、石造りの町は忍びという物騒な生き物を体内に入れてしまう。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ノトスの町は昼間だと言うのに、人影まばらでスタヒイの場所を聞き出すのにも存外な手間が掛かった。 

 スタヒイは町並みと同じく石造りで、かなり大きな宿であった。 

 随分と繁盛しているらしく馬小屋には何頭もの馬が繋がれており、馬車を預けられる専用の小屋まで完備していた。

 

「ここですね…確か主な客層は商人や旅人と言ってましたよね」


「うん、それがどうしたの?」


「いや、部屋が空いてれば良いと思いましてね。まぁ、てめえが仕出かした事ですから高い部屋でも泊まりますけどね」

 そう言いつつもスタヒイに入った権蔵の目が一瞬鋭いものに変わった。


(随分と人が多いな、それにしても酒臭い…こっちの宿は過ごし易いが一階が酒場になっているのは勘弁して欲しいよな)

 食堂と酒場を兼用している一階では、町中とは違い何人もの人々が飲み食いをしている。


「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。私は当宿屋の主です。ヘパイストス様の使いの方に来てもらえるとは光栄至極でございます」

 馬車を預けた時点で、権蔵達の事は主人まで伝えられたらしく主人は恭しく頭を下げてきた。


「いえいえ、私はただの使いのものですよ」

 権蔵も頭を下げながら、主人の耳元で囁く。

(主、私は今エルフの奇しき立場にあらせられるお方のお供をさせてもらっている。金は何も言わないから配慮を頼む)

 主人よりも更に恭しく頭を下げて見せた権蔵であったが、その耳は酒場の噂話を一つ一つ確認していた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「凄い広いお部屋だねー。さあ、ゴンちゃん、お義姉ちゃんは色々と聞きたい事があります」

 権蔵達が案内されたのはスタヒイでも一番値が張る部屋で、夫婦用の寝室の他に少し離れた場所には従者用の寝室まで完備していた。

 夫婦用のベッドに腰を掛けたプリムラが嬉しそうに笑いながら権蔵に話し掛ける。


「俺も聞きたい事があります。宿屋の人間に何を言ったんですか?俺は男だから安い一人部屋にしてくれってお願いしたんですよ」


「そんなのあの商人は護衛も兼ねているから、同じ部屋にして下さいって言ったんだよ。お義姉ちゃんはスパルータに入ってからゴンちゃんを可愛がれてないから一緒にいたいの!!お義姉ちゃんの膝はゴンちゃんの頭を乗せたがっています」


「…寝る時は廊下で寝ますからね。太ももを叩いても俺は頭を乗せませんよ」

 数分後、権蔵は憮然とした顔つきでプリムラに膝枕をされていた。


「それで何でゴンちゃんはスパルータに行かないで、この町に来たの?」


「商品を仕入れる為ですよ。それなら寄り道をした事に説明がつくでしょ。それと確認したい事があったんですよ」

 今の権蔵を昔の仲間が見たら驚くであろう。

 野生の狼並みに警戒心が強い彼が、まるで飼い犬の様な従順さで少女に身を委ねているのだから。


「確認したい事?」

 そんな義弟をプリムラは優しく撫でていく。


「ええ、義姉さんはこの町に入って何かに気づきませんでしたか?」


「うーん、町に人がいないのに宿屋には人がいっぱいいたよね…まさか?」


「多分、あの餓鬼共の死体が見つかったんでしょうね。兵士はピリピリしていたし、商人は後難を恐れて落ち着くまでスパルータに向かわないんですよ」

 権蔵が確認したかったのは、森で殺した少年兵の死体が見つかったどうかである。

 もし、死体が見つかって警戒が強まっていたら、それは他殺と認定された事になるのだから。

 何よりもそれを裏付ける噂話を権蔵は一階で聞いていた。


「それで俺が仕出かしたって言ったんだね」


「それと義姉さんはアレクレスって名前を知ってますか?随分と騒がれていましたが」

 権蔵はその名前に言い知れぬ不安を感じていた。

ようやく名前を出せました、感想お待ちしています。

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