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下忍が異世界で初めて見た村

 馬車を操っていた権蔵の眉が微かに動いた。

 クレオとリリサの生まれ故郷ファルマ村が見えてきたのだ。

(寂れた村を通り越して、(すた)る寸前の村って言った方が合ってるな) 

 それがファルマ村を見た権蔵の感想である。

 打ち壊された小屋に踏み荒らされた畑、そして焼き討ちをされた家屋。

 どれも壊されたまま放置されている。

 村の住人と思われる獣人達は死んだ魚の様な目でただ虚空だけを見ていた。

 権蔵達が乗る見慣れない馬車にも、関心が湧かないのか目の前を通り過ぎてても表情を変えない。

 しかし、権蔵の胸には怒りや悲しみが一切湧いてこなかった。

 何故なら、権蔵には見慣れたと言っても過言ではない光景なのである。


「酷いね、何があったんだろ?」

 悲しそうに呟くプリムラとは対照的に権蔵は淡々と答えた。


「何度も村を襲われ食料や物を奪われて畑を耕す気も建物を直すも気も尽き果てたんでしょう。どうせ壊されて奪われるのなら生きる事を放棄して緩やかに死を待つ、そんな感じですね」

 何度作物を作ってもスパルータの兵に奪われて飢えてしまう。

 それなら作物を作らなければ襲われないだけましだと。


「ゴンちゃん、これからどうするの?」


「用事を済ませたら、近くの町に移動しますよ。クレオ、墓場はどこだ?」

 ファルマ村での権蔵の用事はリリサの兄の遺体を降ろす事だけである。

 

「このまま真っ直ぐに進んでもらえれば

村外れにある共同墓地が見えて来ます…昔は貧しくてもみんな笑顔だったのにな」

 生まれ故郷の変わりさまを見たクレオが悲しそうに呟く。

 ファルマ村は大きな村だったが人通りが殆どなく、村外れに着くのも直ぐであった。

 村外れにある墓地には、木の枝を挿しただけの簡素な墓標が何十基も並んでいた。

 その半分以上にはまだ青い葉が着いており、殆んどが建てられて間もない墓だと分かる。


「リリサさん、着きましたよ。降りて下さい」

 掛けた言葉こそ丁寧であったが権蔵はリリサに何の関心も持っていないらしく、振り返りもせず背中越しに声を掛けた。


「あの…身勝手なお願いですが、村を救ってもらえませんか?」

 リリサは猫撫で声を出しながら上目遣いで、権蔵を見つめる。

 リリサは自分の容姿に自信を持っており、どんな態度をとれば男がなびくか分かっていた。


「村を救うですか?残念ながら私は商人で正義の騎士でも勇者でもないんでよ。それに無意味な仕事を受けては商いに響きます」

 リリサの思惑に反して、権蔵の反応は素っ気ないものであった。


「う、受ける意味がないですって!?」

 リリサは猫撫で声を一転させて金切り声で叫ぶ。

  

「今のが地ですよね?襲ってきたスパルータの兵を倒しても直ぐに新たな増援が来るだけだですよ。それに私は大事な商いの途中でして、面倒な依頼を受ける訳にはいかないんですよ」

 権蔵はそう言いながら出立の準備に取り掛かる、仕入れる物が見当たらないファルマ村に長居をする必要はないからだ。  


「あ、貴方はこの村の惨状を見て何とも思わないの?スパルータの少年兵を簡単に倒せる強さがあるんだから助けてよ。クレオ、お願い。貴女からもお願いして」


「残念ながら、この村より酷い所を飽きるぐらい見てきましたから。何より生きる事を放棄した人は嫌いなんですよ。さあ、早く降りて下さい」

 どんな理不尽な目に合いながらも生き延びてきた権蔵にしてみれば、座して死を待つだけの人間を救う気になれない。

 

「ゴンゾー様、何とかならないんですか?」

 久しぶりに帰って来た生まれ故郷の惨状を見たクレオの声は暗く沈んでいる。


「無理だよ、この村は防衛に向かない。何よりも一国を相手に戦う戦力も備蓄もないんだ。下手に歯向かえば村から逃げたした連中にも(とが)が及ぶ。それにお前には大事な用があるだろ?」

 言葉遣いこそ乱暴であるが、権蔵はクレオの目を見つめながら真剣な表情で答える。 


「分かりました…あの、もし良かったらリリサも一緒に連れて行って良いですか?ここにいても危険ですし」

 クレオの提案を聞いたリリサの目がパッと開く。

 権蔵はリリサの目の中に喜びと屈辱の感情が入り混じっているのを確認するとゆっくりと頷いた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 権蔵達はリリサの兄を埋めた後にファルマ村を後にした。

 

「ゴンちゃんはああいうタイプが好みだったの?お姉ちゃん的にはクレオちゃんの方がお勧めなんだけどな」

 御者をしている権蔵の肩に顎を乗せながらプリムラが呟く。


「好み?俺は猫又なんか好みじゃないですよ。あの手の奴は逆怨みをすると、平気で密告とかをしますからね。予防ですよ、それに気になる事があるんです」


「気になる事?」


「ええ、食糧を奪う為の村をあそこまで追い込む意味が分からないんですよ。あれじゃ、村そのものが滅びます。あの手の女は噂好きだから何か聞いていると思うんですよ」

 馬車の中から聞こえる黄色い声を聞きながら、権蔵は軽く溜め息を着いた。


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