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下忍が異世界で企んだトリック

 スパルータからコリントスへと続く道を、酷く慌てた様子の馬車が走っている。

 馬車は小石を勢い良く跳ね上げると、道の脇に生えている木々にぶつけながら走り去って行った。

 実際、馬車を操る御者は酷く怯えた顔をしており腰もソワソワと動き落ち着きが見られない。

 しかし、御者は怯えた表情からは想像が出来ない落ち着いた声で馬車の中に声を掛けた。


「クレオ、ファルマ村に行く道を教えてくれ。出来れば商人が多く通る道が良い」

 御者の男は権蔵である。

 器用な事に権蔵の表情は怯えたままであった。


「それでしたら次の十字路を右に曲がって下さい。あの、人に会って大丈夫なんですか?」

 権蔵は三十分程前にスパルータの少年兵を二人殺しており、クレオとしては人目を避けた方が安心なのである。


「ああ、出来たら商人に会いたいんだよ。それとお前の知り合いに布でも被せて目立たない様にしてくれ。中を見られでもしたら面倒だからな」

 馬車は箱形であり、外から中の様子を伺い知る事は出来ないが、権蔵としては不測の事態を避けたいのだ。

 死体はワイン樽の陰に置かれていたので布をかけるだけで済んだ。


「リリサ、隅っこの方に行って布を被ってもらっていて良いかな?」

 リリサは静かに頷きクレオから布を受けとると、ある驚きにとらわれた。


(クレオの手が綺麗になっている?それにあの服は新品だよね)

 リリサの知っているクレオは手が何時も泥や土で薄汚れいて切り傷や擦り傷が沢山あったし、服もサイズが合わない古着ばかりであった。

 しかしローブから見えたクレオの手は清潔が保たれていたし、服もあつらえたかの様に大きさがあっている。

 何よりも素材といい縫製といい、リリサが今まで見た事がない様な高級品であった。

 クレオが奴隷として売られた時に、リリサはもちろん泣いて悲しんだが、心のどこかで不思議な優越感を感じていた。

 それが今は暗い嫉妬に捕らわれている。

 何で同じ村で同じ様に育ったのに、こんなに差が着いたのかと。


「うん、分かったよ。ねぇ、この馬車はゴンゾウ様の馬車なの?随分と立派な馬車だね」

 リリサは権蔵の事をやり手の商人と思っていた、そしてクレオは権蔵の愛人だと。


「違うよ、この馬車はゴンゾー様がヘパイストス様からお借りしているんだ」

 

「ヘ、ヘパイストス様?嘘でしょ?」

 もし本当にヘパイストスの馬車なら、獣人である自分が乗るだけで不敬だと罰せられてもおかしくはない。

 ましてや勝手に死体を乗せたとなると死罪は免れない。


「本当だって。プリムラ様はサジタリウスの族長の娘さんだし、キルケ様やメイトレフォン王女様にも会ったんだよ。いっぱいお話をしたい事があるから後でね」

 そう言って戻っていく幼馴染(クレオ)みをリリサは薄暗い羨望と自分が情けなくなるぐらいの依存心が入り交じった目で見ていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 クレオの話した十字路を右に曲がって十分ぐらいした頃、権蔵は一台の馬車を目にした。

 荷台に沢山の荷物を積んでいる所を見ると、これからスパルータに商売へ行くのであろう。

(こいつは運が良い。彼奴にするか)


「も、もしかして、これからスパルータに行かれるのですか?それなら別の道を行かれた方が良いですよ。私がさっき行こうとしたら少年兵が検問をしていたんです。幸い、従者に犬人がおりましたので難を逃れました。悪い事は言わない止めた方が良いです」

 権蔵は一気に捲し立てるとブルリと大きく体を震わせた。


「本当ですか!?ありがとうございます。最近、スパルータ兵の横暴が目に余る様になってますよね」

 恰幅の良い中年の商人はそう言うと大きな溜め息を洩らす。


「そうなんですか!?私はカターニアからワインを持ってきたのですが何があったんです」


「私も良くは知りませんが、ある貴族が加護を受けたらしいですよ。貴方はこれからどこに行くんですか?」


「従者の犬人がファルマの生まれなので、そっちに寄 ってからスパルータに行きますよ。おーい、クレオ出て来て挨拶をしろ」

 権蔵の言葉に従い出て来たクレオがベコリと頭を下げる。


「この娘も家をスパルータの兵に襲われたそうなんですよ」

 権蔵の説明を聞きながら、商人の視線は一点に注がれていた。

 それは薄幸の少女のクレオではなく、ヘパイストスの紋章である。


「この馬車は…仲間にこの事を知らせても構いませんか?」

 ヘパイストスの紋章が権蔵の身分を保証したのだ。

 

「是非、そうして下さい。私の名前はゴンゾウと言います」

 恰幅の良い商人は深々と頭を下げると手の平大の珠に向かって話を始めた。


「通信用のマジックアイテムだね。多分、仲間同士の連絡に使ってるんだよ。ゴンちゃん知ってたの?」

 馬車が離れたのを確認してプリムラが権蔵に話し掛ける。


「いいえ、でも商人は損失に関しては強い繋がりを持ってますから、何らかの連絡手段は持っていると思ったんですよ。でも、これであの餓鬼共はまだ生きている事になります。もし、商人に会えなきゃ道々商売をしながらスパルータに入るつもりでしたから助かりました」

 権蔵は、そう言うとまた馬車の速度をあげて走り出した。

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