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下忍が異世界で遊ばれた日

久しぶりの下忍です

 プロテックの宿屋の一室で、その可憐な内装には相応しくない物騒な話し合いが行われていた。


「クオレ、スパルータの事を詳しく教えてくれ」


「えーと、スパルータを支配しているのは猿人です。猿人以外の人間は亜人や獣人と呼ばれて差別されているんです。スパルータの猿人は殆ど働かずに獣人から搾取したお金や食べ物で生活をしているんですよ」

 スパルータ人を名乗れるのはスパルータに住む猿人だけなんですと、クオレは呟く様にそう答えた。

 

「反乱や一揆を企てる奴はいないのか?」

 一向一揆の何かに取り憑かれた様な戦い方を知る権蔵にしてみれば、猿人より身体能力が優れている獣人が大人しくスパルータ人に従っているのが不思議でならない。 


「スパルータの猿人はみんな一流の戦士なんだよ。強くなる為に子供の頃から鍛えて…プッ、ゴンちゃん花柄のクッションが似合わな過ぎ」

 権蔵が腰を下ろしているのは白地に赤い花が刺繍(ししゅう)されたクッション。

 可憐な少女が座ると絵になるであろうクッションも、強面の下忍が座ると違和感たっぷりである。


「他に腰を下ろす物がないんだから仕方ないじゃないですか。この床は変な臭いがするから(じか)に座りたくないんですよ」

 笑い転げるプリムラに権蔵は苦虫を噛み潰した様な顔で答える。

 部屋の絨毯には香水が振り掛けられており、歩く度に甘い臭いが鼻腔をくすぐるのだ。

 真剣な表情の時には違和感たっぷりであったが、強面忍者が花柄クッションの上で情けない顔をするのは何とも滑稽である。

 それはプリムラの義姉心をくすぐるには充分だったらしく

「ゴンちゃん可愛いー!!ねえ、そのクッション、馬車に置かない?後、その生地で服を作ってあげる」

 義弟を可愛らしく飾りたてる計画を建て始めていた。


「置きませんし着ません!!餓鬼の頃から鍛えるなんて、そんなに珍しい話じゃないでしょ」


「ちぇっ、つまんないの!!スパルータの場合は徹底しているんだよ。男の子が産まれたら長老の元に連れていかれるの、そこで虚弱だって判断されたら町の外に捨てられるんだって。そして男の子が一定の年齢になったら親元から離れて共同生活をしながら鍛えあうんだよ。なんかゴンちゃん達シノビと似てるね」

 

「えっ!!ゴンゾー様も子供の頃から親元を離れていたんですか?」


「ああ、正確には産まれた時からだけどな。それでそいつ等は魔法は使うんですか?」

 唖然としているクレオを尻目に権蔵は半ば強引に話を進める。

 うまく進めないと義姉の玩具になるのが目に見えているからだ。


「ううん、スパルータじゃ魔法に頼るのは軟弱だって言うんだって。でも武器を持てばかなり強いよ。スパルータの戦士は一人で、普通の戦士の二人分の強さなんだって」


「それなら安心です。要は越後や甲斐の武士みたいなもんでしょ?同じ土俵で正面から戦わなきゃ大丈夫ですよ。クレオ、スパルータの奴等は何を好むんだ?」

 権蔵にしてみれば舌の根が渇かぬうちに嘘をつき平気で人を裏切る貴族や武士より、強くても真面目で朴訥な戦士や武士の方が遥かに与し易いのだ。


「お酒です、スパルータ人には給金の他に毎月お酒が与えらるんですよ。酔っぱらったスパルータ人には近づくなって、子供の頃からよく言われました」

 酔っぱらったスパルータ人が獣人に乱暴をしたり、獣人の女性を襲う事も珍しくないという。

 しかも、獣人を襲い物を奪うのが一人前の証しとされている土地だけに、殆どが泣き寝入りをするしかないらしい。 


「平家じゃなくスパルータ人に非ずんば人あらずってとこですかね。それなら何か酒でも仕入れますか。義姉さんお願いがあるんですが」

 

「ゴンちゃんの言いたい事は分かるよ。お願いは聞いてあげるから、お姉ちゃんのお願いも聞いてもらうからね」

 そう言って優しく微笑む義姉を見て、権蔵は何かに嫌な予感を感じていた。


―――――――――――――――


 その日、ペロポネソスネ半島の玄関口であるコリントスに奇妙な一団が一台の馬車と共に降り立った。

 馬車はキャラバンと呼ばれる大型の物で見掛けこそ地味であるが、重厚な造りで見る者が見れば、その高度な技術に圧倒されるであろう。

 馬車は、その大きさに比べて荷台の天井が低めな事以外には特に目立つ点はない。

 また積まれている荷も普通のワイン樽であったし、荷台に座っている人も地味な色のローブを着た女性で奇妙とは言えない。

 この馬車の奇妙な点は御者である。

 その御者は男性であるにも関わらずフリルのついた花柄のシャツを着て、淡いピンク色のパンツを着ていた。

 美少年が着てれば絵になる格好であったが、生憎御者は筋肉質で強面の成人男性であった。


「姉さん、何時までこの恥ずかしい服を着なきゃいけないんですか!?」

 強面の男、権蔵は恥ずかしさで顔を赤らめながら義姉(はんにん)に問い掛ける。


「もう少し、もう少し。お姉ちゃんは、ワインを冷やしてるからゴンちゃんは御者を頑張って」

 権蔵が義姉に頼んだのはワインの品質を劣化させない為に、馬車の荷台を魔法で冷やす事。

 そしてプリムラの交換条件は、プリムラの選んだ服を権蔵が着る事だった。


「本当に後少しなんですよね?」

 権蔵は、余程恥ずかしいの何時も以上に仏頂面になっている。


「ほらー、折角可愛い服を着ているんだから笑顔、笑顔。ゴンちゃん、後から一緒に絵を描いてもらおうよ」


「絶対に嫌です!!」

 クオレはどこに知り合いがいるか分からないので御者を休んでいた。

 ちなみに無口なのは緊張しているからではなく、笑いを堪えているからだ。


「むー、そんな事を言ったらリボンも着けるよ」

 後日、この日の権蔵を描いた絵が各地に届けられたそうだ。

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