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下忍が異世界で手にいれた服

 キルケの搭の一室で権蔵は頭を悩ませていた。

 アミナに商人と言った手前、何かしらの商品を持たないで動くのは不自然である。

 しかし、エトナ火山のあるシケリアで何が喜ばれ又何が特産なのかも分からない。

 それに女性3人を同行させるのであれば護衛を雇わないのは不自然にみられる可能性がある。 

 しかし、一番の問題は…


「ゴンちゃん、エトナ火山の近くにあるカターニアは果物が特産品なんだよ。ゴンちゃんはお野菜をあまり食べないけど果物なら食べるでしょ」

 アマゾーンのアミナの前で、エルフの族長の娘であるプリムラを義姉と呼ぶのは不味い。

 ただの商人がエルフと義理の姉弟というのは、いくら世間知らずのアミナでも疑問に思うに違いない。

 かといって、プリムラさんやサジテール様と呼べば姉の機嫌が悪くなるのは明白である。

 

「俺は出された物なら何でも食いますよ。姉さん、相談なんですが今度の旅では姉さんは俺の女主と言う事にしてもらえませんかね?」


「却下!!そんな事をしたら、ゴンちゃんはお姉ちゃんと距離を置いて危ない事をしちゃうでしょ。それにヘパイストス様はオリンポス12神のとっっても偉い神様なんだからね。下手な嘘はご不興を買うだけなんだから」


「オリンポス12神ですか?それはキルケ様よりも偉いんですか?」


「ゴンちゃんに分かりやすく説明するとオリンポス12神様は主神ゼウス様の家族、キルケ様は遠戚になるんだよ。もちろんお力はキルケ様より上なんだから」

 プリムラは幼子をお化けの話で脅かす時の様な口調で権蔵に説明をする。

 効果は適面で権蔵は背中に冷や汗が流れて言い知れぬ恐怖を感じていた。

 遠戚と言われたキルケでさえ権蔵の想像を遥かに越えた力の持ち主である。

 そのキルケをも上回る存在は最早恐怖でしかない。


「しかし、そうなるとアミナに何と説明をすれば良いのでしょうか?」


「猿人の町に住むエルフもいるんだから幼馴染みで良いんじゃない?世間知らずの弟を助ける近所の優しいお姉さんとか」

 人生の大半は裏街道で過ごしてきた権蔵ではあるが、ガイアに対する知識は乏しく世間知らずと言われても反論の仕様がない。


「しかし、そうなるとシケリアに何を持って行けば良いんでしょうか?」


「こないだと同じで竹の籠で良いんじゃないか?ブドウを獲る時に篭を使うから。ゴンちゃんはブドウを食べた事ある?」


「甲州で採れると聞いた事はありますが、高直なので見た事もありませんよ。エビカズラと似ていると聞いた事はありますが」

 エビカズラは山葡萄(やまぶどう)の古称であるが、ぶどうその物に馴染みのない権蔵にしてみればしっくりと来ない。

 最も、そのエビカズラさえ貴重な甘味の為に権蔵達下忍の口に入る事はなかったのだが。


「そうかー、ここは可愛い弟の為にお姉ちゃんがブドウを食べさせてあげるね」


「姉さん質問があるんですがシケリアの治安は良いんですか?護衛をつけずに旅をして怪しまれませんかね」

 護衛を雇うのは簡単だが実力があり信頼を置ける者を雇えるかと言えば微妙だ。

 何より権蔵が騎士や冒険者と言った人種を嫌う傾向にある。


「それならキルケ様が馬車を貸して下さるから大丈夫だよ。ヘパイストス様のお膝元でキルケ様の馬車を襲う人はいないでしょ」

 話を聞くとプリムラはキルケと話し合い、今回の旅の準備を整えてしまっているとの事。


(お釈迦様の手で暴れていた斉天大聖もこんな気持ちだったんだろうな)

 ニコニコと笑う義姉を見て権蔵は見えない手で摘ままれた様な気がしていた。



――――――――――――――


 それから数刻後の事、権蔵とプリムラ、クレオはキルケに呼び出されていた。

 三人がそこで目にしたのは、細かい細工が施された豪奢な馬車と巨大な三頭の白い馬。


「今回の旅で皆様には、この馬車を使って頂きます。普通の馬では牽けませんので、この子達も連れて行って下さいね」


「む、む、無理ですよー。僕はこんな豪華な馬車なんて畏れ多くて牽けません。それにこんな大きな馬を操るなんて無理ですよー」 


 御者のクレオは豪奢な馬車と巨大過ぎる馬に怯えて尻尾を震わせている。


(こりゃ俺でも勘弁だな…一擦りだけで小判が無くなりそうな馬車に人を喰い殺しそうな馬だぜ)


「大丈夫ですよ、この馬車は人が操る武器や魔法では傷をつけれませんし、この子達も人懐っこい性格ですから。体は大きいのに甘えん坊なんですよ」


「へー、ゴンちゃんみたいな馬さんなんだね」

 

「そうですね、ゴンゾウさんと似てますね。そうだ、ゴンゾウさんにお礼の品を渡すのを忘れていましたわ…こちらをどうぞ」

 キルケが差し出して来たのは茶色の服。


「これは忍び服じゃないですか?」

 権蔵の持ってきた忍び服はアルケニーとの戦いでボロボロになり捨ててしまった。

 

「ええ、エアリースのアルエットちゃんに頼んで作ってもらいました。素材も厳選しましたから丈夫ですわよ。命の恩人の服だからって張り切ってくれましたわ」

 この世界にも動きやすい服はあるが、忍び衣装には到底及ばない。

 嬉しさのあまりに、権蔵は服の作り方をどこで知ったのかを聞くのさえ忘れていた。

 

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