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下忍が異世界で初めておぶったモノ


 権蔵がアーテナイに戻ろうとしていると一人の神官が近付いてきた。


「そこの冒険者に命令がある。神殿からお前に依頼をやるから有り難く受けろ」

 話し掛けて来たのは四十歳くらい男性神官。

 かなり太めの体型をしており、頬や目蓋がだらしなく垂れ下がっている。

 中年神官の目にはありありと権蔵に対する侮蔑の色が浮かんでいた。


(どこの世界でも権威を笠に着る奴はいるんだな。人を見下すのに慣れた嫌な面をしていやがる)

 中年神官にしてみれば冒険者なぞに直接話し掛けるだけでも特別な計らいだと思っているのであろう。


「内容を聞いてからで構いませんか?もし出来なければ神殿にご迷惑を掛けてしまいますので」


「ふむ、自信過剰な輩が多い冒険者にしてみれば良い心が けじゃの。なに神官を一人アーテナイまで護衛するだけで良い 。特別に三千カルケスだしてやる」


(特別にか。自分で働いた銭じゃなく寄付された銭だろうが)


 権蔵1人でなら昼前までにアーテナイに着けるが、神官を護衛しながらとなれば良くても夕方、足の遅い神官ならば日が暮れてしまう可能性もある。


「確認させて下さい。遅くなったら神官様を背負っても良いでしょうか 。それと賊と遭遇した時の対応はどうしたら良いでしょうか?」

 神仏に仕える人間は殺生を忌み嫌う者が多い。

 先に聞いておかなければ依頼料を減額されかねない。


「賊なぞゴミと同じだ。殺しても構わぬ。だが神官には余程の事がない限り触れるのは許さぬ」


(おいおい、普通は逆だろうに)

「分かりました。受けさせてもらいます」

 権蔵は中年神官への嘲りを隠して恭しく礼をした。


「良い心掛けだ。お主にもゼウズ様やアテナ様のご加護あるぞ。ミナス来い」


「ゴンゾーさんお願いしますね」


 現れたのは先ほど応対してくれたミナであった。


「女性ですか?」

(おいおい、こんな少女の護衛だと。道中、何を話せってんだよ)


「神殿に仕える女性神官は治癒以外で男に触れるのを禁止している。この事は忘れぬ様に」


「それではゴンゾーさん出発しましょう」

 戸惑う権蔵を尻目にミナは颯爽と歩き出した。


――――――――――


 ミナは神殿から離れると直ぐに権蔵に話し掛けてきた。


「ゴンゾーさんは、どこの国の生まれなんですか?黒髪なんて珍しいですよ」

 ミナは権蔵に話し掛ける為に一歩近づく。


「アナトリの生まれでなんですよ」

 逆に権蔵は二歩遠ざかる。


「遠い所から来たんですね。ゴンゾーさんはいつアーテナ イに来たんですか?」

 諦めずに一歩近づくミナ。


「つい二日前ですよ」

 権蔵は更に二歩遠ざかる。 


「ゴンゾーさんは昔から冒険者をされていたんですか?」


「いえ、こちらに来てからです。ただ、前も似たような仕事をしていたので」

 そんなやり取りをしていると、突然ミナがむくれだした。


「ゴンゾーさんは僕と話すのが楽しくないんですか?」


「誤解です。私はミナ殿の様な若く美しい女性と話す機会がなかったので緊張してるだけですよ」

 権蔵は女性が苦手である、中でも少女という生き物が特に苦手であった。

  幸いな事にしばらく歩くと疲れたのか、それとも口数の少ない権蔵に呆れたのか時間が経つにつれてミナの口数は減っていった。


「ミナ殿アーテナイに着きましたよ」


「ゴ、ゴンゾーさん足が速過ぎです。僕は着いて行くのがやっとでしたよー」

 息も絶え絶えになったミナが地べたにへたり込む。


「何を言ってるんですか。日が暮れる前にアーテナイ着くにはこれ位の速さが必要なんです。私一人でなら昼前に着いてましたしよ」


「だから神官長様に背負うって言ったんですね。帰りは僕を背負って下さい。神殿にはバレなきゃ大丈夫ですから」


 ミナは後日、この言葉を文字通り死ぬ程後悔する羽目になるのであった。


――――――――――


 権蔵がミナと再会したのは、それから三日経ってからの事。

 いつもの様に権蔵がギルドに顔を出すと満面の笑みを浮かべたミナが待っていた。


「ゴンゾーさん神殿まで僕を送って下さい。僕と神殿宛の書状をセットで送ってもらえれば六千カルケスです」


(少なくなったのはギルドの取り分だろう。断りたいが無理だな。下手に断ったら、あの中年神官がどんな難癖をつけてくるか分かったもんじゃねえ)


「分かりました。舌をかまない様にして下さいね」


「ほへっ?舌ですか?」


 ミナは権蔵に背負われた直後は、いつもとは違う景色を楽しんでいた。

 でも景色を楽しむ余裕があったのは一瞬だけであった。


「ひぎゃー!!ゴンゾーさん早い、早すぎますよー」


「ミナ殿、口を閉じないと」


 権蔵はミナをおぶったまま一気に走り出したのだ。

  そのまま木に飛び移ると木々の間を次々に飛び移っていく。

 ミナは余程怖いのか口からは絶叫、目からは涙、鼻からは鼻水を出している。

 ミナは恋愛禁止の神官だが、ミナとて年頃の乙女。

(不味いです!!今、僕は絶対に人様に見せられない顔になってます。 決めました!!次にゴンゾーさんに負ぶってもらう時は、もう少しゆっくりめにしてもらいます)

 


――――――――――


 定期的にミナを送るのが権蔵の仕事になっていた。

 依頼料は相変わらず安いがミナをおぶる事で時間を短縮出来たし、帰り道出入り素材を収穫しているので、それなりの儲けを出せている。

 そしてそれは権蔵がミナを背負いなから木を渡っている時の事。


「ミナ殿、馬車が山賊に襲われていますがどうしますか? 」

 

「ゴンゾーさん、助けてあげて下さい」


「承知致しました」

 権蔵はミナを木の枝に座らせると、直ぐ様に移動を開始した。

 

「気をつけて下さいって、僕を木に残していかないで下さ いー」


「後から迎えに来ますので、しっかりと掴まっていて下さ いよ」

(さてと、腕を鈍らせない為にも一暴れさせてもらうか)



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