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下忍が異世界で初めて聞いた火山

 それは奇妙な光景であった。

 満足気な笑みを浮かべるエルフの少女の足元で、厳つい猿人の男が顔を赤くして座り込んでいる。


「もーう、ゴンちゃんったら甘えん坊さんなんだから。お姉ちゃんがいなくて寂しかったのは分かるけど、倒れなくても良いじゃない」

 プリムラの言う通り権蔵はアミナに対する気疲れからか、プリムラを見た瞬間に力が抜けてしまったのだ。


「仕方ないでしょ、あのお嬢様意気込みが悲愴過ぎてげんなりしちまうんです。それに外の世界は穢れで満ち溢れてるって涙目で町を歩くし、俺が触れた場所は直に触ろうとしないんですよ」

 

「アマゾーンの娘は男の人が大嫌いだからね。それでゴンちゃんは護衛を受けるの? 受けるならお姉ちゃんも着いていってあげようか?」

 プリムラの問い掛けに権蔵は深い溜め息を漏らした後、顔をしかめながら口を開いた。 


「とりあえずはキルケ様にお任せしますよ。俺の意見としてはアスブロの姫様に頼んで女性騎士団を派遣してもらうのが一番かと」


「それは難しいよー、肝心のヘパイストス様が女性にあまり良い感情を持ってないからね。ヘパイストス様は生まれて直ぐに産みの母のヘラ様に捨てられたし、最初の奥様のアフロディーテ様は結婚して直ぐにアーレス様と浮気しちゃったからね。ヘラ様とは和解したし、今は新しい奥様もいるけど、アマゾーンのアミナちゃんが女性騎士団を連れて来たら良い顔はしないと思うよ」 

 ましてや、アミナは男性を蔑視しているアマゾーンの生まれである。


「随分とご苦労なされた方なんですね。それでヘパイストス様は何の神様なんですか?」 


「ヘパイストス様は火と鍛冶の神様なんだよ。ゴンちゃんと境遇も似てるし、キルケ様はゴンちゃんを護衛に選ぶと思うな」

 こうなっては、権蔵が選ぶ手段は一つしかない。  


「姉さん、護衛に選ばれたら着いてきてもらえませんか?お願いします」


「仕方ないなー、可愛い弟の頼みだから聞いて上げるよ。た・だ・し、前みたいに馬車に乗らないのは禁止だからね」

 下忍は唯一の頼みの綱である義姉の足元で、そっと溜め息を漏らすのであった。


―――――――――――――――


 プリムラの予想通り、アミナの護衛は権蔵達が行う事になった。


「ゴンゾーさんにまた依頼をお願いします。アマゾーンのアミナさんを連れてエトナ火山まで行ってくれますか?そうね、今回はプリムラさんとクレオさんもお連れすれば良いでしょう」


「む、無理ですー。犬人は鼻が良いから火山に登るのは無理ですよ。うぅっ、僕はただの影の薄い女の子なのに。エトナ火山に登ったのがバレたらスパルータの貴族にいじめられるー」

 クレオは涙目になり、その尻尾もうなだれる。

 

「あら?エルフの族長やメイトレフォン姫と知り合いの犬人なんて、滅多にいませんわよ。それに私のお友達を苛めたりしたら、スパルータの貴族でも容赦しませんから安心して下さい…ちなみにクレオさんを奴隷にした貴族は熱病で悶え苦しんで亡くなったそうですよ」

 そう言ってキルケは楽しそうに微笑む、その笑みは美しいだけに周りの人間の背筋を冷たくした。


「しかし、キルケ様。ヘパイストス様は神様と聞きました、エトナ火山に行っても、簡単には会えないと思いますが」


「それなら大丈夫ですよ。私がヘパイストスのおじ様に手紙を書きますし、おじ様は鍛冶の神ですからゴンゾーさんが持つホリスモスの武器に興味を持つ筈…何よりおじ様は必ずゴンゾーさんに味方をする理由がありますから」

 下忍は漸く慣れた異世界で、逃れられぬ網に絡め取られた気がした。



―――――――――――――――


 山登り、しかも火山となると草鞋と言う訳にはいかない。

 権蔵はキルケにエトナ火山行きを命じられると、木を化工しだした。


「ゴンちゃん、今度は何を作ってるの?木の板をTの字にしてどうするの?」


「下駄って履き物ですよ。これは山下駄って言って山を歩くとき使うんです。火山で火傷したくないですし」

 権蔵が作っていたのは、所謂天狗の一本足の下駄。


「こんなの履いてたら、かえって歩き難くない?」


「これしかなかったから考えた事もないですね。流石に山道を裸足で歩くのは辛いですし、撒き菱も気にならないんですよ」

 

「まきびし?」


「こっちにあるかどうか分かりませんが菱の実を乾かした物です。追っ手から逃げる時に地面に撒くんですよ、こいつにはかなり助けられましたね」

 権蔵は道具箱から撒き菱を取りだし、プリムラに手渡す。


「踏んだら痛そうだね…ゴンちゃんは強いのに逃げてたの?」


「忍びは戦うより逃げるのが得意なんですよ。必要ならわざと斬らせて逃げる事もありますか…ら」

「ゴーンちゃーん!!こっちで、そんな事をしたらお姉ちゃん怒るからね!!」

 下忍は謝りながらも上忍や中忍との叱責とは違う、温かいお説教をしてくれる義姉に感謝していた。

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