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下忍が異世界で感じた気疲

 この依頼を受けるべきか断るべきかで、権蔵は悩んでいた。

 まず、ヘパイトスがどんな神で、どこにいるのかすら分からない。

 例え鏃を持って行っても直してくれない可能性もある。

 そして失敗をすれば、責の幾分かは権蔵が負わされる可能性も考えなくてはいけない。

(さて、どうするかね。キルケ様はこれを見抜いて俺をアマゾーンに使わしたのか?もし、碌でもない依頼ならエレオス殿から忠告が来ているかもな。何しろまだ俺を連れて来た理由すら明かしてない) 

 考えながらも、権蔵は柔和な表情を一切変えていなかった。


「報酬は商人さんが望む物を差し上げましょう。金でも女でもお望みの物を差し上げます」


(こう言う上手すぎる話は碌でもない事が多いんだよな。見せ掛けの餌に釣られて虎口に落ちるなんざ馬鹿らしい)

「アミナ様は商人をお知りにならない様ですね。昔から命あっての物種と申します、こんな依頼を受けるのは命知らずの冒険者か借金で首が回らなくなった商人しかいませんよ」

 何しろ相手は男なら赤子ですらためらいなく殺すアマゾーンだ、金を受け取った途端に射殺されてもおかしくはない。



「それだけ鏃がアマゾーンにとって大切な物とお考え下さい」


「それなら尚更です。初見の自分を何故信頼出来るのですか?」

 初見の人間に信を置くなぞ、忍びの権蔵にすれば考えれない事である。


「貴方がキルケ様の遣いだからですよ。キルケ様の名を勝手に名乗る愚か者はおりません」


(確かにキルケ殿の名前を勝手に名乗る奴はいねえよな…あー、止めだ、止め。第一、下忍が依頼の判断をするのが間違いなんだよ)

「分かりました。この依頼を受けるかどうか報酬はどうするのか、誰が護衛に着くか全てキルケ様に決めていただきしょう。私はここにおりますので、旅支度が整いましたら、いらして下さい」

 アマゾーンの女性を、それもそれなりの身分があると思われるアミナと町で待ち合わせをしたら悪目立ちしかしない。


「分かりました。しばし、お待ちください。もし、商人さんさえよろしければ集落に来ませんか?」


「ご冗談はお止めください。私は命が惜しいですから」

 

 数刻後、アミナは権蔵の前に姿を現した。 

 先程と違い髪は解かれ真っ直ぐ下ろされている。

 

「従者はいないのですか?」


「アマゾーンの者にとって、外の世界は汚れでしかありませんので。アマゾーンでは、男性が支配する地は、暴力と欺瞞(ぎまん)が渦巻いていると聞いておます」

 アミナの顔には悲壮な決意が見受けられ、決して冗談を言っている様には思えない。


(下忍なんざ暴力と欺瞞を煮詰めた様な物なんだがね…見送りが一人もいねえのは汚れの地に行った事をなしにする為か) 

「分かりました、ただ町に入りましたら顔をお隠し下さい。アミナ様は容姿が優れておりますから、いらぬ災難が降りかかるかもしれませんので」

 希に見る美人と言っても過言ではないアミナであったが、権蔵は同道を喜ばなかった。

(俺に女の旅の世話なんざ無理だ。この女の面倒は姉さんに頼むとするか)

 いまだにアミナに名前すら名乗っていな下忍が頼れるのは、遠い地にいる種族の違う姉のみであった。

 

――――――――――――――――


 その頃、カウカソスの港町は騒然としていた。

 突然、噂でしか聞いた事がないキルケの巨大船が現れて港に停留したのだ。

 船は錨を降ろしたものの、橋桁も下ろさずに沈黙をしている。

権蔵とアミナが船の前に立つと、ようやく橋桁が下ろされた。


「貴女がアマゾーンのアミナさんですね。お話は船の中でゆっくり聞かせてもらいます。ゴンゾウさんご苦労様でした、プリムラさんがお待ちかねですわよ」

 そう言って妖艶に笑うキルケ。

 そして、義弟をてぐすねをひいて待っていたエルフは彼女と二人きりに成るや否やアミナに対する気疲れで崩れ落ちた義弟の頭を優しく撫でていた。


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