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下忍が異世界で受けた監視

 権蔵がキルケの島から旅立ち3日がたった。

 その3日の殆どをプリムラはキルケのマジックアイテムの前で過ごしていた。


(ゴンちゃんまた小さいパンだけ食べてー、僕があれだけお野菜やお魚も食べなさいって言ったのにー)

 キルケのマジックアイテムは遠くを映し出す事が出来る物である。

 マジックアイテムに映る権蔵は1日の大半を港町の近くに立っている木の上で過ごしていた。

 木から降りるのは排泄の時ぐらいで、寝る時も器用に木の上で寝る徹底ぶりである。


「…全く、良く飽きないな」

 そんなプリムラに溜め息をつきながら話し掛けてきたのはのアクエリアスのアニュレであった。


「そうでしょ!!ゴンちゃんったら、ご飯もちゃんと食べないで1日中木の上にいるんだよ。帰って来たらうんとお説教してやるんだから!!」

 そう言ってプッと頬を膨らませるプリムラ。

 キルケの塔の住人達はマジックアイテムに映る権蔵より、権蔵を見て百面相の様に表情を変えたりイライラと爪を噛んだりするプリムラを楽しんでいた。


「いや、私が言ったのはプリムラの事なんだがな。しかし、ゴンゾウ君は木の上で何をしているんだろう?」

 

「どうやらゴンゾウさんは私の期待以上の方の様ですわね。恐らくゴンゾウさんは商いに行く人達を観察しているんでしょう。それも怪しまれない為に1度隣町に出掛ける徹底ぶり…本当に面白いですわね」

 権蔵は漁師の男と別れた後、町中でアマゾーンと商いが出来ないかを聞いて回った。

 当然、男である権蔵ではアーマゾーンとの商いは無理だ言われた。

 泣く泣く商売相手を代えると言って、保存が効くパンだけを買って権蔵は隣町に旅立だって行ったのだった。


「キルケ様、しかし何故わざわざ隣町に行ったんでしょうか?そのまま木に身を潜めても良いと思うんですが」


「それはアマゾーンにゴンちゃんの情報が伝わって警戒されるのを防ぐ為だと思うよ。港町の人はアマゾーンと接触を持とうする人の情報も売ってるんじゃないかな?だからゴンちゃんは隣町で篭を売れる様な大きな町の話を聞いていたんだよ」

 芸の細かい事に、権蔵は急ぐ振りをして夕方過ぎに隣町を出て、日が暮れてから港町まで戻り木に登っている。

 

「それにしても、権蔵さんは何でパンしか食べないんでしょうか?」


「前にお肉やお魚を食べると体臭が強くなってばれる危険性があるって言ってました。それならお野菜か果物を食べれば良いのに…」

 そんな姉の心配を余所に下忍はジッと行き交う人々を眺めている。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 プリムラ達に見られているとは、露も知らずに下忍はある確信を得ていた。


(どうやらアマゾーンに行く道はあっちが正解らしいな)

 当たり前であるが、海岸沿いの道は2つあった。

 片方の道を使うのは、盗賊対策として護衛を雇った商人や、それなりに武装をした人間が殆どであった。

 しかし、もう片方の道を使うのは護衛を雇わない所か武器すら持たない女だけである。

 女達が持っているのは、商品の他には獣避けの鈴ぐらいであった。

 まるで道中に、何の危険も潜んでいないかの様な気楽さである。


(盗賊を警戒していないのはアマゾーンがいるからか。まっ、一部族を敵に回してまで盗賊をする旨味はねえよな)

 何しろ男嫌いで有名なアマゾーンである、自分達の商売相手である女性が男に襲われでもしたら一族を上げて苛烈に攻め滅ぼすであろう。


(さてと、どうすっかな?…やっぱり手前を餌にして釣り上げるのが手っ取り早いか)


 そう決意すると下忍はするりと木から降りるとアマゾーンの部落に続く道を1人歩きだした。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 知らぬ者が見たら、その男は体が大きいだけの商人にしか見えないであろう。


 周りをまるで警戒をせずに歩く、隙だけの姿に遠巻きに見ている何人かのアマゾーンは侮蔑の笑みを浮かべていた。


「アミナ様、あの猿人の男は何でしょうか?我らアマゾーンが救うのは女だけだと言うのを知らないんでしょうかね」

 事実、アマゾーンの少女は、そんな権蔵を見て呆れている。


「なら聞きますが、貴女の弓はあの方に届きますか?」

 それに答えたのは銀色の髪を綺麗に結い上げた二十歳ぐらいの美しい女性。


「当たり前です。あれっ?」

 不思議な事に少女が弓を構えた瞬間、猿人の男は自然な動きで射程距離から身を外してみせた。

 何度やっても同じ事で巧みに距離を取られてしまう、かといってこれ以上近づけば監視の意味がなくなる。


「どうやらキルケ様の使いは、あの方の様ですね。いつ命を落としてもおかしくない場所で無警戒に振る舞える…なかなか面白いお片ですわ」

 あの猿人の男はもう自分達に気が付いている、にも拘らず自然体でいれる男にアミナは不思議な興味を持ち始めていた。



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