表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/94

下忍と魔女とアマゾーン

 権蔵はキルケを一目見た瞬間から言い知れもない恐怖に襲われていた。

そんな権蔵を無視するかの様に船は速度をあげて港に近付いていく。


(荷物を降ろしたら直ぐに船に戻ろう。聞いた話じゃキルケ殿は美男子を好むらしいから俺には興味をもたないだろうし)


「俺はアニュレ様の荷物を降ろす準備に入りますんで」

権蔵はそう言って体の震えを強引に押さえ込み荷降ろしの準備へと入る。

 船が港に着き橋桁(はしけ)が渡されると、権蔵は出来るだけ大きな荷物を持ちキルケと目を合わせない様にして動く。

アイアイエ島の日差しは強く直ぐに滝の様な汗が吹き出し始めたが拭う暇もなく権蔵は動き続ける。

そして最後の一つを運び終えた瞬間に、それは権蔵に声を掛けてきた。


「あらあら、良く働く猿人さんですね。こんなに汗を掻いて疲れませんか?」

何時の間にかキルケは権蔵に近づき権蔵の顔の汗をハンカチで拭い始めていた。

先までの汗が瞬時に冷や汗へと変り、恐怖の余り権蔵は立ち竦んでしまった。


「キ、キルケ様すいません、この子ったら自分の事に無頓着なんです。ほらっ、ゴンちゃんキルケ様にお礼を言いなさい」


「あ、ありがとうございます。私の汗で布を汚してしまいまして」

プリムラの声で何とか我に戻れた権蔵は強引に声を絞り出して何とかお礼を言った。


「良いんですよ、私の弟子の為に掻いてくれた汗なんですから。でも、サジタリウスのプリムラさんに猿人の弟さんがいるなんて驚きましたわ」

キルケはそう言って春風の様にふんわりと暖かく笑った。


(冗談じゃねえ、姉さんは俺の名前は呼んだけど義弟なんて一言も言ってねえじゃねえか)


「この子は僕の義理の弟なんです。こんな顔をしてますけど凄く寂しがりやで甘えん坊なんですよ」


「まあ、プリムラさんはゴンゾウさんの事が可愛くて仕方ないんですね。それなら是非ゴンゾウさんも私の塔に入らして下さい…ホリスモスからのお客様なんて初めてですわ」


(姉さんはゴンちゃんってしか言ってねえのに権蔵だと、キルケ殿は本当に俺達の事を見てたんじゃねえか?それにホリスモスってのはなんだ?)

権蔵は五穀断ちの空腹すら忘れさせてしう様な疑念に包まれていった。


________________


 権蔵が日本にいた時に見た事がある塔は五重の塔や多宝塔等の仏塔ぐらいである。

それ故かキルケの塔を見た権蔵は呆気にとられていた。


「何ともでかい建物ですね。城よりでかい建物なんて初めて見ましたよ」


「キルケ様は神族に列なる方なんだから当たり前だよ。こんな大きな塔はエルフや猿人には絶対に建てれないと思うな」


何しろキルケの塔は石積の8階建てで、城1つがすっぽりと入る大きさなのである。


「そんな大層なものじゃありませんよ。さっ、入って下さい」


 塔の中に入った権蔵はさらに驚かされた。

きらびやかな調度品の数々に脛まで埋もれそうな柔らかな敷き物。

何よりも塔には窓がなく、光が差し込まないがまるで昼のような明るさを保っていたのだ。


「さあ、良かったらお茶にしませんか?大丈夫ですよ、毒は入ってませんから、それに私は権蔵さんにお願いがあるんですもの」


「それは依頼ですか?」


「ええ、カウカソス地方にアマゾーンと言う女性だけの部族が住んでいます。そこに行ってクリセンセマムの花を分けてもらって来てもらえませんか?」

アマゾーンは女性のみで構成されている騎馬部族との事。


「それなら俺より適任な方がいるんじゃないですか?」


「それがね、あの子達は自分より強い男しか認めませんの。大丈夫ですよ、腰帯と違ってお花なら直ぐに分けてもらえますから」

キルケはそう言って権蔵に微笑んだ、おじが閉じた世界から連れてきた男がどんな活躍をするのかが楽しみで仕方なかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ