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下忍が異世界で出会った者

 ギルドから紹介されたのは1ヶ月4デリウスの借家。

前は4人家族が住んでいたとの事で、少し広めではあったが家が古い為、手を加えても構わないとの事でこの家に決めた。

いくら他に忍びがいないとは言え安心して住む為には色々と手を加えておきたい。


(まさか俺が家住みになれるとはな。少し頑張れば、この家を買う事も夢じゃない)


こっちに来てからアーテナイは晴天続きであった、なんでも年間を通して穏やかな気候だそうだ。

権蔵は抜ける様な青空に己の明るい未来を見ていた。


――――――――――


 翌日、ギルドに顔をだすと例の頬に傷がある職員が声を掛けてきた。 

「新入り、お前足には自信があるか?頼みてえ仕事があるんだよ」


「わざわざ俺を選んだって事は条件にうま味がないんですね」


好条件の依頼なら放っておいても冒険者の奪い合いになるだろう。

内容は書類の運搬、依頼料は5千カルケス。

アーテナイから徒歩で半日ほど掛かる所にある神殿まで書状を届けて欲しいとの事。

楽そうに聞こえるが、最近山賊が出没しており危険が伴う。

山賊を倒せる様な高クラスの冒険者だと5千カルケスでは雇えず、逆に5千カルケスで雇える冒険者だと心許ない。


「山賊は倒さなくても良いから、受けてくれたらありがたいんだが」

 

忍びである権蔵にしてみれば半日の距離も山賊も気にはならない。


「もし山賊に襲われたら倒しても構わないんですか?」


「構わないが連中は集団で行動するから逃げても構わねえ。受けてくれるのか?」


この世界に知り合いと呼べる人間がいない立場としてはギルドの心証は良くしておきたい。


「神殿への道を教えてくれれば良いです。それと鍛冶屋を紹介して欲しいのですが」


 ある程度の忍び道具は自作出来るのだが、鍛冶が必要な物は専門の職人に任せた方が安心だ。


「それならギルド御用達のドワーフを紹介してやる」


――――――――――


(ドワーフか、人とは違うらしいが)


ギルド職員から教えれた鍛冶屋にいたのは背は低く体は分厚く体毛が濃い男であった。


「すみません、ギルドに紹介されて来たのですが」


「見ねえ顔だな。新人は中古品でも使ってれば良いだろ」


(随分と野太い声だな。力はありそうだが動きは鈍いだろう。何かあっても苦にはなる相手じゃないな)


物騒な思考と違い穏やかな表情を浮かべる権蔵はドワーフの男に棒手裏剣を差し出した。


「これと同じ物を作ってもらうには、いくら掛かりますか?」


「見た事がねえ得物だな。飛び道具の類か」


「はい、使い捨てにしませんが物に執着して命を落としたくはないないので」


いくら愛用の棒手裏剣とはいえ、数に限りがあれば使い渋ってしまうし、執着して逃げる機会を失えば元も子もない。


「前金で1本3千カラケスだ。それなら作ってやる」


「それなら10本ほどお願いします。それなら3デリウスでよろしいですね」


「7日後に取りに来い。それだけありゃきちんと再現してやる」


―――――――――


 (忍び刀と棒手裏剣は10本もあれば足りるだろう)


預かった書類を2千カラケスで買った中古の皮袋に入れて背負う、いまから行けば昼前には町に帰って来れるだろう。

(山賊が襲うとしたら、ここだろうな)


そこは森の中の細い道、集団で来ても前後を囲まれたら不利になる。


(わざわざ山賊を殺して目立つ必要はないな)


権蔵は辺りに人がいないのを確認すると瞬く間に木を登り木から木へと飛び移っていった。


(ここが神殿か。しかし、どこの世界も神様に仕えている奴らは虚仮威しが好きなんだな)


神殿は石で作られており、綺麗に磨きあげられている。

いるかどうかも分からない神様の威厳を保ち、神官達に寄付と言う生活の糧をもたらす為であろう。


「すいません、冒険者ギルドの者ですが書状を届けに参りました」


「ご苦労様です。これは神官長様宛てですね」



権蔵の声に答えたのは10代半ば位の少女であった。

溢れんばかりの元気さは少年の様であったが、顔は人形の様な可愛らしさがある、短い銀色の髪が活動的な印象を与えた。

しかし、女の中でも少女と言う生き物を一番苦手とする権蔵にしてみれば深く関わるつもりはなかった。

そう、まだこの時は。


「僕の名前はミナス・フィラフィトです。良かったら貴方の名前も教えて下さい」


「権蔵ですがミナス様、私に何か不審な点がございますか?」


「ゴンゾーさんですね。お仕事ご苦労様でした。書状を届けてくれたお礼を言うのに名前を知らないと失礼じゃないですか」

随分と礼儀正しい娘だな。

それが後に仲間の1人となるミナの第一印象だった。


―――――――――


そこはガイアの地下深き場所、権蔵と別れたエレオスはそこにいた。


「例の者を無事に連れて参りました」


エレオスは巨大な玉座に向かってひざまずく。


「苦労を掛けたな。それでホリスモスからの客人はどうだ」


「必ずやご期待に添えるかと」


そう言って笑ったエレオスの口には鋭い牙が光っていた。




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