下忍なりの救い方
権蔵はアルケニーと化したキャナリーを木の上から見下ろしていた。
幸いな事にキャナリーは猪を喰らうのに夢中で気づく気配すらない。
(このまま弓を射てば殺せるが、それじゃ魂は開放されねえんだろうな…)
権蔵は溜め息をつくとわざと大きな音をたててキャナリーの背後に降り立つ。
音に気づいたキャナリーがゆっくりと振り向く、その目は憎しみと悲しみに満ちていた。
「あんたがキャナリーさんかい?」
権蔵はわざと間延びした口調で話し掛ける。
「キャナリー?キャナリーはもう死んだよ。私はただの蜘蛛の化け物さ」
キャナリーが薄笑いを浮かべながら自嘲気味に答えた。
「強がりはよしなよ。本当の化け物は化け物である事に誇りをもってるもんさ」
「いいさっ!!人間を食い殺して本物の化け物になってやる」
キャナリーはそう叫ぶと8本の足で素早く間を詰めてきた。
「ちっ!!素早さで勝負したらじり貧だな」
権蔵が後退しようとするも蜘蛛の前足がそれを阻む。
「蜘蛛の足って便利でしょ?こんな事も出来るんだよ」
キャナリーは蜘蛛の体を大きく起こすと4本の足で権蔵に襲い掛かった。
右の前足が頭上から来たとか思えば左の2本目の足が胴を刈ろうとする。
次に左の前足が背後から襲いかかったかと思うと右の2本目の足が権蔵を押さえ込みに掛かる。
権蔵も避けようと必死に交わすが体に傷がいくつも出来て、そこから血が流れ出していた。
「良い匂い、人の血は美味しそうな匂いがするんだね。そんなに血が出たらもう動けないでしょ?ゆっくりと血を吸ってあげる」
キャナリーが自分の腕で権蔵に掴み掛かろうとした瞬間、権蔵は刀を逆手に持ちキャナリーの胴体を斬りつけた。
狙ったのはキャナリーと蜘蛛の境目。
「痛い、痛い、痛い!!なにするのさ!!」
キャナリーは蜘蛛の前足で権蔵の体を刺すが、権蔵はピクリともせずに反す刀で再度斬りつける。
「私が何をしたっていうの?こんな醜い姿になった私をなんでいじめるの?」
キャナリーは泣きながら自分の腕で権蔵を殴り付けた。
権蔵はそれでも斬りつける。
胴体の3分の2を斬り終えると権蔵はキャナリーの胴体を思いっきり蹴飛ばす。
背骨しか残っていなかったキャナリーの上半身は漸く蜘蛛の体から離れた。
「因果応報なんて言葉があるが善人にも不幸は降り掛かるんだよ。さぁこれを飲みな」
権蔵はキャナリーの体を優しく抱き起こすと痛み止を口に含ませてゆっくりと水を飲ませた。
そしてキャナリーの胴体を包帯で包む。
「見えるかい?あんたは蜘蛛の体とおさらばしたよ。今のあんたは碌で無しの人間に殺されたエルフだよ」
権蔵はキャナリーを優しく抱き上げて蜘蛛の体を見せる。
キャナリーの口が微かにありがとうと動いたのを確認すると権蔵はキャナリーを抱きかかえて森を後にした。
血塗れの人間が上半身だけとなったキャナリーを抱きかかえて現れたのでエアリースの町は騒然となっていた。
しかしキャナリーの穏やか笑顔を見ると皆俯いて権蔵に頭を下げていく。
「ゴンちゃんお疲れ様。キャナリーちゃんは笑っていけたんだね」
「これで良かったんですかね?」
「答えはキャナリーちゃんしか知らないよ。でもエアリースのみんなはキャナリーちゃんが笑顔で終われたから救われたと思うな」
「それなら良いんですが」
「それじゃゴンちゃんは怪我の治療をするよ」
そしてしばらくすると権蔵は蜘蛛の糸ではなく義理姉の手で包帯でグルグル巻きにされていた。
暖かいお説教の中、下忍はゆっくりと眠りに落ちていった。
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森の中ではキャナリーと離れた蜘蛛の体が新しい体を求めて動き出した。
そして魔力を沢山もった黒い服を着た人間を見つけると素早く近づく。
「蜘蛛が私に敵うと思ってるんですか?滅べ…」
エレオスが爪を一閃させると、鉄すら通さない蜘蛛の体は無惨にバラバラとなっていた。
「さて、誰がアテナ様にキャナリーの事を吹聴したんでしょうね…もう少ししたら権蔵さんにまた動いてもらいましょうか」
初めてまともな戦闘描写に挑戦しました…難しい
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