下忍が異世界で知った恐い神
権蔵はヴァルゴの族長の家にある客室にいた、正確に言うと客室で正座をさせられている。
そして権蔵の目の前には頬を膨らませているプリムラがいた。
「ゴンちゃ―ん、タヌキのお姉ち…お婆ちゃんの目を見て答えなさい…どこでそんなに傷をつけたのかを」
プリムラはタヌキと言う獣を知らなかったが権蔵のイメージから知ったタヌキの姿は彼女を不機嫌にさせるのに充分であった。
「あれは姉さんと知り合う前の傷ですよ。もう痛みはないですし」
最もまともに治療した傷は1つもないのだが。
「ふーん、でも顔には傷がないんだよね。顔に傷があれば迫力が増すんじゃないの?」
「顔に傷なんてあったらすぐにバレて忍びの仕事に悪影響がでますからね。顔に迫力が出て喜ぶなんて破落戸じゃないんですから」
右頬に刀傷があるなんて人相書を出されでもしたら忍びとしての仕事が制限されてしまう。
「明日、アクエリアスから治癒師に来てもらってキチンと傷を見てもらうからね!!それと今度から傷を負ったらお姉ちゃんにちゃんと報告をする事分かった?」
プリムラは鼻が着きそうな距離で権蔵を見つめている。
「いや、痛みはないですし。俺はあまり他人とは関わりたくないんですけど…傷なんて好きこのんで見せる物じゃないですし」
顔を潰された仲間の遺体を確認する時には体の傷で確認する事が多い。
最も、それは大事な密書を持っている時等に限るが。
「お・へ・ん・じ・は!!」
「はい…分かりました。でも相手が怯えたりしたら無しですからね」
この約束は次の日、権蔵に来た依頼で有耶無耶となってしまうのであった。
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翌日、ヴァルゴの里は独特な緊張感に包まれていた。
ザンナがレオの兵士を引き連れて来たのである。
正確にはヴァルゴの里にいる下忍に対して依頼を持ってきたのだ。
「ゴンゾウ、アルケーニと言うマモノを倒してちょうだい。依頼料はお金でも武具でも望む物をあげる」
「別に構いませんが後ろにいる人達が倒せば依頼料は掛からないんじゃないですか?」
ザンナの連れて来たエルフは鍛え上げれていて一目で一角の戦士だと分かる。
「ザンナ、ちょっと待って!!アルケーニなんてでる訳ないよ」
ザンナの話を聞いたプリムラの顔は青ざめ額には冷や汗が流れていた。
「出たのよ、エアリースからね。あれはどの部族が倒しても禍根が残るからゴンゾウにお願いしにきたのよ」
ザンナの顔からは誠実さが感じとられ詐略の気配はない。
「分かるけど…ゴンちゃんに危険が及ぶんだよ!!僕は許可しないからね」
一方のプリムラも頑として譲る気配をみせないでいる。
そんな時権蔵は独特の気配を感じ取った、下忍さえも恐れてしまう濃い闇。
「すいません、もう1人俺に用がある人が来たみたいので、ちょっと失礼します」
権蔵はそう言い残すと一瞬にして樹上の人となった。
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権蔵が気配に向かって進んで行くと木の上にその男はいた。
穏やかな笑みを浮かべているが、どんな戦場よりも凄惨な雰囲気を放つ男エレオス。
「やあ、ゴンゾウさんお久しぶりですね。何やらきな臭い事に巻き込まれている様で」
エレオスがいるのは細い枝、それは小鳥1匹が乗っただけで、たわんで折れそうな位にか細い。
「きな臭い?アルケーニとか言う魔物の事ですか?」
この男の意志に逆らえば即座に命を堕とす、 それの恐怖が権蔵の態度を慇懃にしていた。
「アルケーニは魔物じゃありません、魔者と言った方が正確なんですよ。上半身は人、下半身は蜘。神の怒りを買って魔者に姿を変えられたのがアルケーニなんです」
「この世界にも荒神がいるのですか?」
「荒神…確かにあの方はそうかも知れませんね。何しろアルケーニが魔者に変えられたのは自分よりも機織りが巧かったのが理由ですから」
「何とも凄まじい神様ですね…アルケーニに関われば俺も怒りに触れる危険性があるんですね」
プリムラが激しく拒絶したのは、そこにあった。
何しろ、自分よりも美しいと言っただけの川の女神を醜い魔者に変えた事もあるのだから。
「それはご心配なく、今回の軽挙には私の主もお怒りですからね。あの方がゴンゾウさんやゴンゾウさんのお仲間にに手を出す事はありません…私の主からも依頼です、魔者に変えられた哀れなエルフの少女の魂を解放してあげて下さい」
「分かりました、しかし恐い神様いるんですね」
「ゴンゾウさんも名前を聞いた事がありますよ。アーテナイの町の由来となった方ですから、その神の名前はアテナですよ」




