下忍が異世界で初めて見せたモノ
ザンナ達迎えの一行が現れた時、権蔵は馬車の後方で身を縮こまらせていた。
顔には怯えの表情を浮かべており、知らぬ者が見れば貴人に緊張してるいると思うであろう。
(あれがレオの姫さんか。平気で嘘泣きまでして良い根性してるぜ…近くに潜んでる奴はいないし、連れて来た連中からは殺気が感じられねえな)
しかし、腹の中でザンナとその一行を値踏みしていた。
「ザンナも元気そうで安心したよ。みんな元気だった」
プリムラが嬉しそうな笑顔を浮かべてザンナに近づいて行く。
(姉さんもやるね。こりゃタヌキと化け猫の化かし合いだな…それぐらいの腹芸が出来なきゃ族長の娘は務まらねえのかもな)
「少し困った事が起きたが今日はめでたい日だからよそう。リリー、スノウ浮かない顔をしてどうした?」
ザンナが現れた事でリリーとスノウの顔はあからさまに引きつっている。
「リリーちゃんとスノウは里に戻れるのが分かって、今までの疲れが出たんだよ」
ニコニコと笑いながらも平気で嘘をつくプリムラに権蔵はある種の頼もしさを覚えていた。
「それはそうだな。猿人族の方々、我が同胞を守ってくれた事に感謝をする…ところであの者は何者だ?」
ザンナが指差したのは片隅で身を縮こまらせていた権蔵である。
「あれは荷物持ちとかをしてくれているゴンゾウさんだよ。ゴンゾウさんがどうかしたの?」
「エルフにはいないがっちりとした体格に憎々しいまでの面構え。戦を生業とするレオの者としては興味をひかれるの当たり前であろう…ゴンゾウ、こっちに来い」
(さてと化け猫姫はどこまで情報を掴んでるんだ?俺の事がばれるとしたら宿屋の娘かヴァルゴの族長宛の手紙…もしくは見慣れぬ黒髪に興味をもったか)
そんな考えを微塵も見せずに権蔵はゆったりとした近づいて行く。
「私が権蔵ですが何用でございましょうか?」
「なにプリムラが可愛がっている猿人族の男がいると聞いてな。すまないが服を脱いでもらえないか?どこに何を隠してるか分からない者を里に入れる訳にはいかないのでな」
この時点でザンナの耳に入っていた権蔵の噂はプリムラが弟の様に可愛がっている猿人族の男がいると言う事だけで、服を脱がせたのは単なる思いつきであった。
しかし、これが切っ掛けでザンナは権蔵に深い興味を持つようになる。
「別に構いませんが、見苦しい物なんで文句は言わないで下さいよ」
そう言いながらも、権蔵は素早く服を脱いで下帯一つとなった。
次の瞬間、その場にいる全ての者が息を飲んだ。
権蔵の鍛え上げれた身体には無数の傷がついていた、刀で斬られた傷もあれば槍で突かれた傷もある。
脇腹に鉄砲で掠めた時に出来た傷が醜く盛り上がっていた。
それは戦いや拷問でついたもので、権蔵の下忍としての凄まじい生活を送ってきた証である。
ただ、傷を見た者の反応は様々であった。
弱いから傷をつけられたと嘲る騎士も居れば傷を見て怯える者もいた。
権蔵と親しい幾人かの者は彼の常人離れした動きの影にある凄惨な過去を想い胸を痛める。
ザンナは多くの傷を負いながらも生き抜いてきた証と受け止め権蔵に興味を持ち出した。
そして彼の義姉は…
(ゴンちゃーん、お姉ちゃんに隠し事をしてたなー。しかもさっき僕の事をタヌキとか思ってー…お説教決定!!)
義弟へのお説教を決意していた。
「さてと、行きますか。道はこっちですか?」
そんな想いを余所に下忍は下帯一つでザンナ達が来た道を悠々と歩き出す。
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ヴァルゴの里に着くとリリーと同じく白い髪をした男性が権蔵達を迎え入れた。
「プリムラ様、この度は娘が大変お世話になりました。護衛の方々もゆっくりとしていって下さい」
男はリリーの父親らしいが見た目だけで言えば10代後半でリリーの兄と言っても誰も疑わないであろう。
「我々はこれで失礼する。ゴンゾウお前には後日話があるから覚えておけ」
ザンナはそれだけ言うと護衛を引き連れて帰って行く。
(怖い女だね。この世界の女はメイ様と言い姉さんと言い怖い女が多いな)
権蔵がザンナの背中を見送りながらそんな事を考えていたら耳たぶを思いっきり掴まれた。
「ゴーンちゃーん、ちょっとお姉ちゃんとお話をするわよ…タヌキのお姉ちゃんとね!!」
「姉さん、またソウルサーチを使ったんですか?」
あの時、プリムラはザンナにソウルサーチを使おうとしたがアンチマジックにより防がれた。
そのアンチマジックを権蔵に向けた瞬間、プリムラの頭にタヌキのイメージが流れ込んで来たのだった。
「ゴンちゃんはお姉ちゃんの乙女心を傷つけたんだからね!!」
「乙女って、姉さんは90の婆さんじゃないですか」
「ゴンちゃん、身体の傷の事も含めてお姉ちゃんとゆっくりお話をするわよ」
下忍は異世界で改めて思った。
どんな年の女にも年の話はしない様にしようと。




