下忍が異世界で知ったエルフの事情
オントの言葉に場の空気が重くなる。
ここにいるのは殆どが支配階級の人間であり、支配されていた側の怨嗟の念を糧にして生活をしてきたと言っても過言ではないだろう。
「そんな、私達はそんなつもりじゃ…」
リリーは族長の娘として花よ蝶よと、育てられた文字通りの深窓の令嬢である。
面と向かって怨嗟の念を受けられたのは初めてなのか顔を青くしていた。
「オント、ヴァルゴに住ませてもらっている身分でリリー様に声を荒らげるとは無礼だぞ」
「無礼?ハーフエルフだからと言って税は高くされ住む場所も決められ集会にすら参加出来ない。そんなハーフエルフに礼儀なんて分かる訳ないだろう」
権蔵に捕まった時点でオントは死を覚悟している、だから最後に積年の恨みをぶちまけていた。
「許さない!!ハーフエルフの癖に」
そのスノウの言葉に反応したのはオントではなくプリムラであった。
「いい加減にせよ。何度もヴァルゴに忠告したにも関わらずハーフエルフをの待遇を改善しなかったのがそもそもの原因であろう」
他部族とはいえ、プリムラは族長の娘で
ある。
オントに身分をもって説教をしたスノウが反論出来る訳がない、何よりプリムラがいなければリリーもスノウも奴隷として売られてハーフエルフを産む事になっていたのだから。
ましてソフィアやクレオの様な他種族が口を出せる筈がなく辺りを静寂が包み込む。
そんな中、下忍は全く違う思考に頭を巡らせていた。
「山は陽のあるうちに越える必要があります。オント殿の身柄は騎士団に任せて出発いたしませんか」
権蔵は周囲に意見を提示しながらプリムラに目線を送る。
「それじゃ僕はゴンちゃんと行くからね」
プリムラを背負った権蔵は瞬く間に樹上の人となった。
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「姉さん、ハーフエルフの現状を教えて下さい」
「それには12部族の説明をしなきゃいけないね、12部族にはそれぞれ得意とする役割を持っているの。お姉ちゃんのサジタリウスは魔物退治と狩猟とその毛皮やお肉の加工、レオは他種族との戦闘、リリーちゃん達のヴァルゴは祭祀、他には服とかを作るエアリーズ、農耕のトーレス、貿易を生業とするジェミニ、鍛冶とかの工業をするキャンサー、部族間の争いを調停するリブラ、魔法やマジックアイテム作りをするスコーピオ、山岳民族のカプリコーン、治癒や薬品作りをするアクエリアス、漁業のパイシスに分かれてるの」
「だから姉さんは弓が得意なんですね」
事実、プリムラはサジタリウス部族の娘として幼い頃から弓を教え込まれていた。
「でも、どうしても生まれつきの得手不得手があったり華やか人族の世界に憧れてエルフの里を出る人がいるんだよ。幸せになれれば良いんだけど子供を連れて帰ってくる娘を少なくないんだ。お姉ちゃんのサジタリウスやレオは出自に構ってられないしエアリーズやキャンサーは実力者義、ジェミニに至っては人族との繋がりを作る為に重用してるんだけど…他の部族はハーフエルフに厳しいんだよね」
当然、オント達ハーフエルフが祭祀に携われる訳もなく蔑まれながらも狩猟や農耕をして生活をする必要がある。
その成果も税としてむしり取られるのが現実だ。
「祭祀なんて綺麗事を生業としてたら尚更ですか…俺の予想だとレオの姫様はハーフエルフを郷間や傭兵に使うつもりじゃないでしょうか?」
エルフに恨み辛みがあり地位も約束されるならハーフエルフは死に物狂いで働くだろう。
「ゴンちゃん、郷間ってなに?」
「俺達忍びは間者とも言われるんですよ。他国に忍びんこで情報を集めるんですけど、その国の民に金を渡したりして間者に仕立てるのが郷間です。多分、リリー様達を誘拐したのは郷間が賊を手引きしたんでしょうね。姉さんの所はハーフエルフを使えずにレオの姫様が自ら動いたんだと思いますよ…場合によっては戦になりますね」
間者として長年動いて来た権蔵は戦の気配に敏感になっている。
「でも戦闘を生業としてるからってレオだけじゃ直ぐに負けちゃうよ」
「ハーフエルフを使うんですよ。戦となればハーフエルフを楯代わりにする所も少なくないでしょうね。それが敵前で寝返ったらどうなりますか?しかも情報は筒抜けでハーフエルフはそれぞれの里の地理にも詳しい」
エルフは長年ハーフエルフにしてきた事への手痛いしっぺ返しを受けるはめになる。
「そんな早くリリーちゃんに教えなくちゃ」
「言い方に気を付けて下さいよ。もし、スノウ殿がオントを斬ったりしたら取り返しがつかない事になりますからね」
エルフの騎士がハーフエルフに難癖をつけて斬り殺したとなればレオの思う壺になる。




