下忍が異世界で見たエルフの闇
男達の嘲り声を背中に聞きながら権蔵は今登ってきた山道に足を進めた。
男達から見たら、その姿は仕入れた酒を奪われ泣く泣く町へ仕入れ直しに行く人にしか見えないであろう。
だから誰も気づかずにいた、商人から忍びへと顔を変えた男が山道ではなく森へと姿を消した事を。
森に入った権蔵は石を何個か拾い懐にしまった。
そして音をたてずに木に昇り、そのまま木々を飛び移って行く。
(お、いたいた。待ち伏せするんなら前だけじゃなく周り全体を警戒しなきゃ駄目なんだがな)
権蔵の下では6人の男達が、プリムラ達を乗せた馬車を今や遅しと待ち兼ねていた。
予め権蔵はクレオにある指示を出しておいる。
一つは権蔵の匂いがしたら馬車の速度を遅くする事。
もう一つは権蔵の匂いがしたらソフィア達、騎士を前面に集中させる事。
(さてと、印字打ちで追い込みをするか)
権蔵は手首に幅広で長い布を巻き付けると、反対側で石を包むと頭上でブンブンと勢いをつけて回すと男達に向かって放った。。
石は鈍い音と共に1人の男の後頭部にめり込む。
次の男は背中に、その次の男は右腕に石をぶつけられた。
たまらずに山道に飛びした男の目の前には剣を構えた騎士が待ち構えていた。
男達が森から出たのを確認すると、権蔵は木々を伝い広場へと向かう。
途中、隠しておいた縄を拾うと未だに酒盛りをしてる男達には目もくれず、先日唯一残しておいた枝へと向かう。
(彼奴だな。男のエルフか)
枝には茶髪のエルフが弓を構えていた。
権蔵は手首に巻いていた布を外すと竹筒に入れておいた水をたっぷり染み込ませる。
権蔵は男がいる木に飛び移ると、同時にエルフの男の口に布を巻き付けた。
たっぷりと水が染み込んだ布はピッタリと男の口に張り付く。
そのまま、男の首に手刀をあて意識を奪うと枝から吊り下げた。
権蔵の手にはエルフの男から奪った弓が握られ酒盛りをしている男達に向けられていた。
酒盛りをしていた男達は突如現れた騎士の一団と頭上から降りそぞぐ矢に慌てふためく、予定では追い立てられ来た奴等を挟み撃ちにするだけの楽な仕事だったのから無理もない。
下忍はまだ意識のないエルフを肩に担ぐと木から飛び降りた。
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「お前は、オント!!なぜこんな事をした?」
スノウの怒鳴り声が響く。
権蔵が捕らえたエルフの男はヴァルゴの一族でハーフエルフだった。
「大方、レオの姫様に成功すればエルフとして遇するとか唆されたんでしょうね」
「オント、何でですか?」
リリーが悲しげに呟く。
「リリー様、下の者の気持ちなんて上の人間は分からないでしょうね。ハーフエルフとエルフを同等に扱っているんですか?多分、それが答えですよ」
権蔵はオントに自分と同じ物を感じていた。
底辺捨て置かれた者同士が持つ哀しみを。
「私の名前の意味は恥です。貴方達はハーフエルフにはまともな名前をつける事すら許さない」
オントの肺腑から絞り出した様な言葉が嫌な静けさをもたらした。




