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下忍が異世界で久しぶりに味わった孤独

 「越える道が限定されているのが分かりましたよ」

権蔵の目の前には日本では見た事がない様な広大な山脈が連なっている、山の途中から白くなっているのは雪が積もっているからであろう。


「他の山を馬車で越えるのは無理なんだよね。エルフの里に行くには低い山を選んで越えていくのが一番安全なんだよ」

この日、権蔵は珍しくプリムラ達と同じ馬車に乗っていた。


「それで山を越えるには何日ぐらい掛かるんですか?」


「あの山を馬車で越えるには丸1日は掛かる」

答えたのはプリムラではなくスノウである、最も愛想が欠片も感じれなかったが。


「どうやら俺は歓迎されてないみたいですね。それじゃお暇させてもらいますよ」

権蔵は未だにプリムラ以外の女を苦手としていた、普通なら美少女エルフ3人に囲まれた状況は幸せなのだろうが権蔵にしてみれば拷問よりもきついのである。


「ゴンちゃん逃げないの。それとリリーちゃんスノウちゃん、ゴンちゃんにお礼を言いたいんじゃなかったの?」

プリムラはスノウを視線で牽制しつつ権蔵の服をしっかりと掴んでいた。


「俺は仕事をしただけですよ、礼を言われる必要はありません」

スノウ以上に愛想がない言い方で答えた権蔵がそっぽを向く。


「ゴンちゃん少しは警戒心を緩めないと何時まで経ってもお嫁さんがもらえないよ。お姉ちゃんには甘えん坊さんなのに」


「姉さん、いい大人を捕まえて甘えん坊はないでしょ。第一、俺みたいな不細工に嫁なんて来ませんよ」

そう言いながらもプリムラの手を振りほどかないのは気を許している証拠なのだろう。


「エルフは見た目よりも心を重要視いたします。もしヴァルゴに好みの娘がいれば私に仰って…」

「ゴンちゃん、仰らなくて良いからね。でも話し掛ける努力はしなさい」

プリムラは視線をスノウからリリーに移して牽制し直す。


「エルフは異種族婚を禁じられているんですよね。族長の娘に言われて無理やり嫁がせたりしたら問題になりますよ」


「エルフが異種族婚を禁じているのは寿命に違いがあるからだ。禁止をしていても猿人との間に生まれたハーフエルフも里には少なくない」

エルフは生涯1人の異性と連れ添う、猿人と結ばれたらエルフはその生涯の半数以上を孤独に耐えながら生きなければならない。


「嫁の話よりも今はあの山を越える事が大事ですよ。すいませんが、下見に行かせてもらいますよ」

下忍はその一言を言い終えると馬車の中から姿を消した。


――――――――――


忍びの術は敵の裏をかいてこそ効力を発する。

武士に正面から戦いを挑んで敗れた忍びを権蔵は何人も見てきた。

遠くから鉄砲で撃ち抜かれた者、壁に追い詰められて刀で切り捨てられた者、何本もの槍に貫かれた者。

それを防ぐ為に権蔵は事前に念入りに下見をして襲撃場所を特定し、罠を仕掛けていく。


「仕掛けてくるとしたら、ここだな」

権蔵が襲撃場所とにらんだのは狭い一本道から広場へと続く場所、おあつらえむきな事に広場の先は崖となっている。


(森に潜んでいる連中が後ろから追い立てて広場にいる主力部隊が迎え撃つってところか。抵抗されたら馬を斬りつけて暴走させて崖に向かわせるんだな)

広場は旅人の休憩場所となっており、旅人に変装していれば大勢の人間がいても怪しまれる事はないであろう。


(攻めるに易く守るには難しい場所だな。こりゃ騎士様達に奮闘してもらう必要があるな…あの枝は落としておくか)

用事を済ませた下忍は道ではなく木々を飛び移りながら下山をしていく。


――――――――――


権蔵が麓の町に着いた頃には日が暮れ始めていた、町は山越えの旅人が泊まる宿が何軒もありなかなかの賑わいを見せている。


(こりゃ参ったな。この中から姉さん達を探すのは一手間だ)

活気溢れる村で1人になった下忍は久しぶりの孤独を懐かしんでいた。

思えば日本にいる時はどんな活気ある町や賑やかな祭りでも権蔵は1人だった、怪しまれない為に笑顔は浮かべてはいだが町や祭りを楽しむ事なぞ一度もなかった。

そして今も表面上は笑顔を浮かべた男が1人異世界を歩いている。

誰にも声を掛けられず、誰にも気をとめられず1人見知らぬ町を歩いていた。

歩きながら探すのは旅の仲間ではなく、旅の仲間を監視している人間。

町を3周ほどすると怪しい奴を見つけた、その男は一軒の宿屋を立ち位置を変えながら監視をしている。

しかし、その男も宿屋に吸い込まれる様に入って行った1人の男に気づかなかった。


――――――――――


宿屋は身分の高い者が多く泊まるらしく、外の喧騒とは違い静けさを保っていた。


「お客様、どの様なご用件でしょうか?本日は大切なお客様をお迎えしているので初めての方はご遠慮させて頂いております」

洗練された作法で宿の男が権蔵に頭を下げてくる。


「この宿屋にエルフは泊まってるかい?泊まってるなら権蔵が来たと伝えてもられば助かる」


「すみません、宿のお客様の事は一切話せない事になっております。その様なご用件でしたらお引き取り下さい」

それはとりつく島もない態度であったが、権蔵はむしろ好感を覚えた。


「それもそうだな、こりゃ迷惑を掛けた。失礼するぜ」

後は近くの木に潜んで監視役の男を見張れば良い、そう思って権蔵が宿屋を出ようとすると


「ゴンちゃん、お姉ちゃんにただいまを言わないでどこに行くのかな?」

いつの間にか来たのかプリムラが権蔵の襟首を掴んでいた。


「姉さん、何で分かったんですか?」


「クレオちゃんにゴンちゃんの臭いがしたら教える様にお願いしておいたの。すいません、この子のお夕食を部屋までお願いします」

プリムラは権蔵の襟首を掴みながら宿の男に頭を下げてみせる。


「姉さん、俺はその辺の店で飯を食って適当に寝ますから…1人で歩けますから離して下さい」


「お姉ちゃんに何も言わずにいなくなる子の話は聞きません」

宿屋の男がエルフの少女に頭が上がらない強面の猿人族の男を見て優しく微笑んでいた。


プリムラが強力過ぎて他の女性キャラが目立っていない気が


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