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下忍が異世界で久しぶりに作った物

今日も権蔵の背中にはプリムラが負ぶさっていた。


「姉さん、たまには馬車に乗ってリリー様達の話し相手をしなくても良いんですか?」


「大丈夫。リリーちゃんにはスノウちゃんにがいるし、それに騎士がウザイんだよね。何よに馬車よりゴンちゃんの背中の方が乗り心地が良いんだよ」

時にはデコボコ道を行く馬車よりもプリムラを気遣いながら移動をする権蔵の背中では雲泥の差があるのかもしれない。


「馬車と言えば姉さんは魔法で馬を眠らせる事は出来ますか?」


「お馬さんを眠らせるくらいなら簡単だよ。強めに掛ければちょっとやそっとで起きないし、起こす魔法もあるんだよ。お馬さんが暴れた時に使うんだよね」


「そうですか。山を超える時は姉さんは馬車に乗っていて下さい。そして敵襲があったらすぐに馬を眠らせて欲しいんですよ」

馬は本来臆病な性格である、軍馬の訓練がされた馬ならともかく馬車を牽くだけの馬だと戦闘に怯えて暴走しかねない。


「そうか。お馬さんが馬車を引きずりながら暴走したら崖に落ちちゃうもんね」


「おそらく敵はそれを狙うでしょうね。暴れた馬をなだめるのは大変ですから」

そう言う権蔵も何度となく馬を脅かして混乱を起こした事があった。


「ゴンちゃんえらい、えらい。お姉ちゃんがナデナデしてあげる」


「蛇の道は蛇ですからね。…姉さん、最近俺を餓鬼扱いしてませんか?」

そう言いつつもプリムラの手を払わない権蔵であった。


―――――――――


その日、権蔵達が着いた村はひなびた雰囲気の小さな農村である。

何しろアソスがあからさまに顔をしかめたぐらいなのだから。


「クレオは馬の世話を頼む。プリムラ様はリリー様達と宿屋に行っていて下さい」


「おい下衆、随分と偉そうだな。プリムラ様はサジタリウスの族長の娘なんだぞ。お前の様な卑しい身分の者が直接話をしていい方ではない。むしろ命令なんてありえないんだよ」

田舎村に泊まる事に苛立っているのかアソスが権蔵に絡み始める。


(権力を笠に着る奴はどこにでもいるんだな…さてと、どうすっかな)

権蔵がアソスを叩きのめすのは容易であるが、その後のゴタゴタを考えれば直接やり合うのは避けたい。


「アソス止めろっ!!ゴンゾウは姫様のお気に入りなのだぞ」

流石に耐えかねたソフィアがアソスを止めに入る。

ソフィアはメトレイオフロン姫から権蔵が自分やプリムラのお気に入りである事を伝えられていたのだ。


「それが気に入らないんだよ。最近、姫様は我らアーテナイポリス騎士団をお呼びにならないで、あの下衆ばかり重用してるそうじゃないか」


(使えるから使う。姫様はそれだけなんだけどな)


「それでアソス様は俺がどうしたらお気に召すんでしょうか?」

権蔵は出来るだけへりくだった感じで話す。

何しろこの手の奴は楯突くほどに興奮して見境をなくするのを権蔵は嫌と言う程分かっている。


「ふんっ!!この田舎村には宿屋が一軒しかない。だからお前は馬小屋でも寝るが良い。本来はお前の様な奴が宿屋に泊まるなんて百年早いんだよ!!」


(馬小屋ね。俺としちゃ屋根もワラもある天国だぜ。それに一雨降りそうだからあれを作っておくか)


「分かりました。それで気が済むんなら馬小屋で寝ますよ。でも飯だけは普通に食わせて下さいね」

権蔵は1日ぐらい飯を抜いても平気なのだが、リリー達の毒殺を警戒していた。


―――――――――


 宿屋の食堂は村の集会所を兼ねてるらしく案外と広く、木製のテーブルが10脚程置かれていた。


「ゴンちゃん本当に馬小屋で寝るの?」


「俺にしてみれば馬小屋は贅沢な場所ですよ。それに用事が出来ましたからね…姉さん、今夜は誰が来ても扉は開けないで下さいね。クレオ、夜中に嫌な匂いがしたら直ぐに姉さんを起こしてくれ」

権蔵の視線の先には村娘に酌をされて上機嫌のアソスがいる。

権蔵はその娘に自分と同じ匂いを感じていた。


―――――――――


馬小屋の中で権蔵はワラを叩きほぐし笠と蓑を作っている。

雨に濡れでもしたら身体の動きが鈍くなるからだ。


「ゴンちゃんって器用だよねー。ワラで帽子を作っちゃうんだもん」

出来上がった笠を頭に載せているのは

「姉さん、何で馬小屋に来たんですか?宿屋で寝た方が快適ですよ」


「ゴンちゃん、ゴンちゃんはお姉ちゃんがアソスに夜這いされても平気なの?」

銀髪のエルフ笠を被ったまま、腰に手を当てて怒った振りをする。


「私もお酒臭くて宿屋に居たくなかったんですよ。ご主人様、このミノって暖かいですね」

蓑から尻尾を出した犬人がはしゃいでみせる。


「心配しなくてもアソスは来やしませんよ。クレオ覚えておけ、あの匂いは酒じゃなく眠り薬の匂いだ」


「えっ!!それじゃゴンちゃんが扉を開けるなって言ったのは」


「多分、レオに依頼されたら奴らでしょ。良く使う手ですよ、このぐらいの村には若い娘は少ないでしょ、だからお偉い人が泊まりに来ると近くの街から接待役の娘が派遣されてくるんですよ。でも今回は時期が良すぎる、まるで待ち伏せしていたぐらいにね」


「ご主人様、随分とお詳しいですね」

クレオの尻尾は動きを止めてへにゃりとしている。


「そりゃ詳しいさ、俺もよく使った手だからな。一応、姉さんとクレオは馬車で寝て下さいね」

そして夜が更けた時に権蔵の耳は独特の足音をとらえた。

音を消す事に気を取られ過ぎた為に不自然な程に静かな足音が。

それを聞いた下忍は闇夜にニヤリと壮絶な笑みを浮かべた。


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