下忍が異世界で手入れだ報奨品
リリー達を奴隷から解放した権蔵は1人自宅に戻っていた。
奴隷から解放した女性を自宅に連れて来ては要らぬ誤解を生んでしまうからだ。
プリムラはリリー達の不安を解消する為に一緒に城に泊まっており、その為、家の中は真っ暗である。
闇と一体になった下忍はベッドに体を横たえた。
「これはこれはゴンゾーさんお1人とは丁度良いですね」
闇よりもさらに暗く濃い影が権蔵に声を掛けてきた。
「忍びの家に無断で入るとはエレオス様も人が悪いですな」
声を掛けられたらのと同時に権蔵はベッドから音もなく離れた。
そして努めて冷静に声を掛ける権蔵であったがエレオスがいつの間に侵入して来たのかが分からず内心は焦っている。
「それはすいません。ゴンゾーさんが紅い牛の角を手に入れたと聞いたら居ても立ってもいられなくなりましてね」
獣の牙の様に鋭い歯が闇の中に浮かび上がった。
「随分と耳が早いですな。これですよ」
権蔵はエレオスに紅い牛の角を手渡す。
「噂は広がりやすいものですから」
エレオスが穏やかに笑う。しかし、イスヒシから紅い牛の角を手に入れた事を権蔵はプリムラにしか教えていない。
「これで依頼完了でよろしいですか?」
「私の事は何も聞かないんですか?」
「雇い主の詮索をしないのが忍びの規律ですから」
本心を言えばエレオスから一刻でも早く離れたい権蔵であったが顔には微塵も出さずに話を進める。
「それでこそ依頼をお願い出来るというものです。ゴンゾーさん達の様な職業の方は夜襲を警戒してベッドの下で寝ると聞いたのですがゴンゾーさんは違うんですか?」
「はぁ?それはどこの素人が言ったんですか?寝台の下なんかで寝ていたら動きが制限されるじゃないですか」
ちなみに権蔵はベッドに分厚い木の板を敷いて寝ている。
木の板なら直ぐに動けるし、寝台の下から武具で突かれても防ぐ事が出来るからだ。
「そう言われればそうですね。それではこれが報奨品です」
「これは手甲ですか?しかし闇に溶け込んでいて触らないと分かりませんね」 普通は闇の中に黒い物があれば逆に目立つ、だから権蔵達忍びが着る忍び装束は黒ではなく濃い茶色等が多い。
しかしエレオスが手渡してきた手甲は闇の濃さに合わせて溶け込む様で夜目が効く権蔵ですらはっきりと見る事が出来ない。
「少し特殊な素材を使っていますから。でもそれで分かるのは魔法の発動タイミングだけで魔法そのものは防げませんよ」
「それで充分です。発動が分かれば対応の仕方がありますから」
権蔵は魔法の事を鉄砲の様な物と捉える事にした。
忍びの間では鉄砲を構えられたらとにかく逃げるか、撃たれる前に射手を殺せと言われている。
「それなら宜しいです。また違う依頼があれば会いに来ますので」
エレオスはそう言うと音もなく闇に消えていく。
権蔵は戦場から逃げた時よりも恐怖や焦燥感をエレオスに感じていた。
(あの男にその気があれば何時でも俺を殺せるだろうな…エレオス殿には決して逆らわねえ事だ)
――――――――――
次の日、疲れきった体で約束の場所に行くと、プリムラ達と一緒に銀色の鎧を着た騎士と金色の鎧を着た騎士がいた。
「ゴンソ、久しぶりだな」
銀色の鎧を着た女性騎士ソフィアが微笑みながら話し掛けてくる。
「下衆か。エルフのレディ達は僕が守るから安心しろ」
金色の鎧を着た男の騎士アソスが侮蔑の感情を隠さずに話し掛けてきた。
(下忍の扱いはこうでなきゃいけねえや。下衆?俺はそんな立派なもんじゃねえよ。忍びは人外だぜ)
最近、暖かさに包まれていた下忍の顔に本来の酷薄な表情が浮かんだ。




