下忍が異世界で最初に解放したモノ
どうあがいてもハーレムにはなりそうもありません
まだ日が明け切らぬ早朝、1台の馬車がアーテナイに向かって街道を走っていた。
御者を勤めるのは犬人族のクレオ、馬車の中にはプリムラ、リリー、スノウの3人のエルフがいる。
「あのプリムラ様、ゴンゾウ様は何故馬車に乗らないのですか?」
スノウとしては自分達を奴隷として扱わないどころか、どこか自分達を避けている権蔵の行動が不思議でならない。
「うーん、表向きの理由は尾行や待ち伏せへの警戒なんだけどね」
その権蔵は馬車と併走する様にして木々を飛び移りながら移動していた。
「まだ私の事を怒ってらっしゃるのでしょうか?」
スノウが申し訳なさそうにプリムラに尋ねてくる。
「それはないよ。ゴンちゃんは、それぐらいじゃ怒る子じゃないから。きっと馬車に女の子が4人もいるから恥ずかしいんだよ」
奇妙と言えば奇妙な理由である。
権蔵はクレオ、リリー、スノウの主人であり、世間的には奴隷である彼女達を馬車に同乗させてるだけでも奇異の目で見られても仕方がない。
それどころか権蔵は徹夜で馬車を走らせた上に1人馬車から離れて自分の足で走っているのだから。
「しかしゴンゾウ殿は何者なのですか?犬人や狼人ならともかく馬車と同じ速さで走れる猿人は聞いた事がありません」
「その辺は僕の口からは言えないんだな。ゴンちゃんがみんなに心を許せば話すと思うよ」
「それは難しいですね。私達はゴンゾウ様が笑った顔を見ていませんし」
笑顔どころか権蔵は御者をしている時も、朝飯を食べている時もプリムラとしか会話をしていない。
「うーん、僕にはすぐに懐いてくれたんだけどな。ゴンちゃんって人一倍他人の気持ちに敏感なんだよ。自分が嫌われてると感じたら凄い距離を置いちゃうんだよね」
プリムラとしては可愛い弟分の誤解を解きたい反面、権蔵が他の女に気持ちを許していない現状はどこか嬉しくもある。
「それで本当に私達は奴隷から解放して頂けるのでしょうか?」
権蔵がクラニオからリリー達を買い取った金額は金貨20枚と言う途方もない金額である。
プリムラからは損はしていないと説明を受けているが、信じろと言う方が無理なのかもしれない。
「うん、アーテナイに着いたらメトレイオフロン姫の前で3人とも解放するって言ってたよ。今、解放してもいいんだけどあまり早く解放したら怪しまれるしね」
メトレイオフロン姫がリリー達を助けた形にした方が色々と得なのである。
「えっ?!私も解放されるんですか?あのそうしたら私はどうなっちゃうんですか?」
突然の奴隷解放宣言にクレオは驚きのあまり尻尾をピンと立たせる。
権蔵に買われてから美味しいご飯を食べさせてもらったし、フカフカのベッドでも眠らせてもらえた。
さらに村では着たことのない様な上質な服まで買ってもらっている。
その対価として権蔵が要求してきたのは身体や寝ずの労働ではなく御者のみであった。
「最初の予定でいくとアーテナイの町で働くか冒険者になって自立してもらう予定だったけど、最終的にはクレオちゃんに任せるんじゃないかな?」
「ぼ、冒険者なんて私には無理ですよー!!」
今度は恐怖からかクレオの尻尾は力が抜けてへにゃりとなる。
「アーテナイに着くまで時間があるんだから何が出きるか何をしたいか考えておけばいいよ」
「あ、あのご主人様の奴隷を続行するのは無理でしょうか?」
クレオとしては頼る身内もいないのに知らない町で1人にされるよりは、権蔵の奴隷でいる方がまだ安心であった。
「難しいと思うよ。ゴンちゃんが奴隷制度を嫌ってるから」
「う、うー。不安ですー」
クレオは顔を青くし尻尾をプルプルと震わせている。
――――――――――
それから数日後、権蔵達一行はメトレイオフロン姫と謁見していた。
「サジタリウスの次はヴァルゴね…全く一歩間違えれば戦争になるのが分からないのかしら」
メトレイオフロン姫は権蔵からの報告を聞いて深い溜め息をつく。
「後ついでに報告しておきますがお兄様は10代前半と思われる少女奴隷を多数囲っていましたよ」
「やれやれ、良い年して結婚しないと思ったら。貴族に足を引っ張られたら王位継承権が消えるのが分からないのかしらね」
メトレイオフロン姫はさらに深い深いため息をついた。
「それでこの後はどういたしましょう。俺としてはリリー様達を奴隷から解放したら直ぐにでも送り届けたいのですが」
「そうね、私から手紙を持たせるからお願いするわね。護衛代表には近衛騎士のソフィア・カノナスをつけるわ、ゴンゾー覚えてるかしら?」
「確か姫様の護衛をされていた方ですよね…それなら俺は影から護衛をさせてもらいますよ」
ソフィア・カノナスは権蔵がメトレイオフロン姫と初めてあった時に姫の護衛をしていた女性騎士である。
「それじゃ奴隷解放をしますよ。姫様が証人になって下さい…我が名はゴンゾウ、リリー、スノウ、クレオを奴隷から解放する事を宣言する」
「確かに見届けたわ。それじゃゴンゾウ頼んだわよ」
今回は事が事だけに、ヴァルゴの族長に余計な誤解を与えない様に護衛は女性のみで結成された。
「それじゃ俺は先行して街道の安全を確認します。姉さんはヴァルゴへの連絡役をお願いします」
「ご、ご主人様ちょっとよろしいでしょうか?」
「クレオ、俺はもうお前のご主人様じゃないよ。それでどうしたんだ?」
「私を御者として雇って下さい。犬人の鼻があれば魔物や賊が近づいて来れば直ぐに分かります」
クレオは緊張からか尻尾を震わせながら頭を下げてくる。
「銭なしで放り出すのも酷だしな。…御者なら同じ護衛仲間だ。俺の事はゴンゾウと呼べ、間違ってもご主人様なんて言うなよ、面倒くさえ誤解は避けたいからな。それと金が貯まったら俺みたいなクズからはさっっさと離れる事、それが条件だ」
リリー、スノウ、クレオは準レギュラーになるのか?
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