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下忍が異世界で初めてみせた悪癖

その日、権蔵とプリムラはエルフの宿屋に顔を出していた。


「明日、クラニオの館でヴァルゴのお嬢様と従者が売りに出されるので動きを説明します。まずクレオに御者をしてもらいクラニオの館に行きます。姉さんは馬車の中で待機してリリー様達に事情を説明して下さい。そして俺達はその足でアーテナイに向かいます」


「ゴンちゃん、この宿屋には顔を出さないの?」


「俺達との繋がりを知られない方が良いと思うんですよ。それにリリー様達をエルフの国に送るのも姫様の力を借りた方が安全ですからね」

エルフの娘、しかもリリーは従者と一緒の族長の娘である。

買われた後の動向に人々の注目が集まるのは簡単に予想つく。


「私達としては有り難いのですが報酬はどうすれば宜しいのでしょうか?」

今回の依頼の殆ど全てを権蔵が担っていた。

しかも大金をあっさりと盗み出した権蔵に払える金を宿屋の主人は持ち合わせていない。


「それならヴァルゴのおじ様にお願いしてみるよ。どっちにしろリリーちゃん達だけ帰すのは不安だから僕達がリリーちゃんを送ってくよ」

エルフは排他的で平和を好む種族であり他種族に対する警戒心が強く、特に闘争心が強い猿人族に対する警戒心が強い。


「あの姉さん、もしかして俺も行かなきゃいけないんですか?姫様から護衛を付けてもらうのは駄目ですかね?」


「却下!!ゴンちゃん、エルフの事に関してはお姉ちゃんの意見に従いなさい」


「いや、エルフは美男美女しかいないって言うじゃないですか。俺なんかが行ったら悪目立ちしますよ」

権蔵は自分の容姿が人にどんな印象を与えるか良く分かっている。


「心配しなくてもゴンちゃんの事はお姉ちゃんが守ってあげる。これでもサジタリウスの族長の娘なんだし誰にもゴンちゃんの悪口は言わせないんだから」

この2人なんやかんやかで血の繋がっている姉弟並みに仲が良い。


「俺としては近くの村で待機してたいんですけどね。とりあえずリリー様達が国に着いたら連絡をしますよ。それじゃクレオを待たせているんでイダニコの宿屋に帰ります」



―――――――――


 次の日、権蔵は馬車にプリムラとクレオを残してクラニオの館に向かっていた。


「これはこれはゴンゾー様、良くいらしてくれました」

クラニオは権蔵を見つけるなり愛想笑いを浮かべながら近づいて来た。


「この間買った犬は良かったぞ。今日も期待してるからな」

権蔵も下卑た笑顔で応える。


「それはもうご期待下さい。お望みのエルフはゴンゾ様の為に取ってありますので」

(そりゃ族長の娘なんて、きな臭い奴は同じ町の人間には売れないからな)


「そうか!!早く見せてくれ」

警戒心を微塵も緩めてない心とは逆に顔をだらしなく緩ませて権蔵がクラニオに応えた。

豪華な絨毯が敷き詰められたら廊下を抜け分厚い扉を開けると、一転して屋敷は寒々しい造りに変わる。

ヒヤリと冷たい石の廊下に幾つもの鉄格子が並んでいる。


「こちらがお望みのエルフです」

(確かに美人だがこいつらは本当に姉さんと同じエルフなのかね)


牢屋の中には長い金髪のヴァルゴの族長の娘リリーと短い白髪の従者スノウがいた。

リリーは無表情のままうつむいており、その目には生気が全く宿ってなかった。

一方のスノウは権蔵とクラニオを敵意向きだしの目で睨みつけている。

(こいつは馬鹿か?手前の立場を考えたらお嬢様を庇う為にも媚びを売らなきゃならないだろうが)


「良いね!!いくらだ?足りなきゃ馬車か取ってくるよ」

権蔵は目尻ををだらしなく下げて、好色な目つきでリリー達を見つめる。


「金貨20枚と言いたい所ですがゴンゾ様とのお付き合いを考え19枚に値引かせてもらいます」

(値引くって事は売り急いでるな)


「どっちでも良い、これから好きなだけ取れ。契約だ契約!!」

権蔵がクラニオに渡した袋には21枚の金貨が入っている。


「そんなに慌てなくてもエルフは逃げませんよ。今牢屋を開けますので」

クラニオが牢屋を開けた瞬間、スノウがクラニオに襲いかかってきた。


「グヴェ!!」

しかし、苦しげな言葉を漏らしたのはクラニオではなくスノウであった、権蔵がクラニオとスノウの間に割り込みスノウの腹に蹴りを入れたのだ。


「悪いエルフだ、でもこれから僕が可愛がりながらきちんと調教してあげるよ。クラニオ、こいつらの名前はなんだ?」

権蔵が冷たい視線でリリー達を見下ろす。


「金髪がリリー、白髪がスノウでございます。しかしゴンゾ様はお強いのですね」


「あれだけ睨んでいたら警戒するのは当たり前だよ。我が名はゴンゾウ、リリーとスノウの主たる事をここに宣言する。ほらっ、早く出ろ!!表に僕の馬車があるから乗るんだ」


「あっ、ゴンゾ様こちらお釣りでございます。それではまたのお越しをお待ちしています」

(返したのは金貨1枚かよ。値引きしてねぇじゃないか)


「また頼む。それじゃな、ほらっ、早くついて来い」

ズンズンと歩く権蔵の後ろを2人のエルフがトボトボとついて行く。


「これが僕の馬車だ、早く乗れ!!クレオ出せ」


―――――――――


 「ゴンちゃんお疲れ様。リリーちゃんにスノウちゃんはお久しぶり!!もう安心して良いよ」


「プリムラ様!!なんでここに?」

スノウが思わず叫ぶ、一方のリリーは驚きのあまり目を丸くしたままだ。

「姉さん、詳しい説明は任せました。クレオ、出来るだけゆっくりアーテナイに向かってくれ」

権蔵はそう言い残すと走ってる馬車から飛び降りると闇夜に姿を消した。


――――――――――


 「プリムラ様、何がどうなってるんですか?それにあの猿人族の方はどこに行ったんです?」


「さっきのはゴンちゃん、僕の可愛い弟分だよ。リリーちゃん達の事は宿屋の人から助けて欲しいって頼まれたんだ。これからアーテナイに行ってアーテナイの姫様に力を貸してもらうからね」


「な、何故プリムラ様ともあろう高貴な方があんな薄汚い猿人族と一緒におられるんですか!!」

スノウの猿人族嫌いはエルフの中でも群を抜いている。


「僕もレオにはめられて奴隷にされそうな所をゴンちゃんに助けてもらったんだよ…サジタリウスのプリムラが申し付ける。我が恩人であるコンゾウに対して無礼な口を聞くのは許さぬ」


普段から想像も出来ないプリムラの迫力にリリーとスノウは無口になる。

そのまま20分が経った時、馬車に突然何かが飛び込んで来た。


「ふー、なんとか間に合ったな。クレオ、夜は馬を操れないだろ?代わるよ」

それは紅い牛の角を持った権蔵である。

秘宝とも言える紅い牛の角が盗まれたら警戒網が敷かれてしまう。

しかし、ついさっき奴隷を買ったばかりの人間なら容疑者の中から外されるだろう。

だから権蔵は1人馬車から飛び降り、イスヒシの屋敷にあった本物の紅い牛の角と自分が作った紅い牛の角をすり替えてきたのだ。


「ゴンちゃん、なんでわざわざ入れ替えたりしたの?」


「発見が遅れますしね。何よりも面白いじゃないですか、高貴なお方が地虫みたいな下忍が作った偽物は有り難がるんですよ」

権蔵の盗みの悪癖とは、自分が作った偽物と大名や貴族の屋敷にある品物をすり替えて1人ほくそ笑む事であった。

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