下忍と奴隷の微妙な関係
久しぶりの更新です
宿屋イダニコの一室で権蔵はいまだに涙目のクレオと向かい合っていた。
「それでお前は何が出来るんだ?」
「あ、あの家事が得意です。それと家で馬を飼っていましたから馬に乗るのも得意です」
権蔵の言い方には愛想も素っ気もなくクレオはますます涙目になっていく。
「馬か…馬車はひけるか?」
「は、はひ!!大丈夫です」
「分かった。今日は飯を食って寝ろ」
権蔵はそう言い終えると、そのまま部屋を出て行こうとする。
「ゴーンちゃーん!!どこに行くのかなー?まさかクレオちゃんをこのまま放っておくんじゃないでしょうね」
プリムラはそんな権蔵の腕をしっかりと掴んで放さない。
「どこって、寝に行くんですよ。目を付けておいた木がありますし」
権蔵としては泣いてる女と一緒の部屋で過ごすよりも、木の上の方が一人で気楽に過ごせる。
「それじゃ、クレオちゃんはどうするのよ?」
「だから言ったじゃないですか?飯食って寝ろって、こんなのは三つの餓鬼でも出来る事ですよ」
「あのね、クレオちゃんがどうして奴隷になったのかとか、ゴンちゃんはどんな人間でクレオちゃんに何をさせたいのかきちんと話さなきゃ駄目でしょ?今日からゴンちゃんがクレオちゃんのご主人様なんだから義務があるんだよ」
「しかしですね」「しかしもかかしもないの!!全く、そんな風に人見知りをするからゴンちゃんは彼女が出来ないんだよ」
本来猿人族は好戦的でエルフは平和主義である。
しかし猿人族でも強面の権蔵が、エルフのプリムラに叱れても反論しないどころかシュンとなっている。
「そうは言いましても奴隷になった経緯なんざ話たくないでしょうし、俺の話なんかも聞きたくないと思いますよ」
「そんなのクレオちゃんに聞いてみなきゃ分からないじゃない、せめて何をさせたいのか教えなきゃクレオちゃんが不安になるでしょ?」
いつの間にやら権蔵は床に座り込み、プリムラは権蔵の前に立ちお説教を始めていた。
「分かりましたよ、分かりました。それでお前は何で奴隷になったんだ?」
半ばふてくされながら権蔵がクレオに問いただした。
「私はスパルータ領の外れにあるファルマ村の出身です。家は牧場をしていて父と母、私と妹で平和に暮らしていました。でもある日スパルータの奴隷狩りにあって家族は散り散りになってしまい…私はあのお店に売られたんです」
話すのが辛いらしくクレオはうつむいたまま顔をあげなくなる。
「スパルータ?奴隷狩り?姉さん、分かりますか?」
「スパルータは古代ポリスの1つなんだよ。思想は単純明快で強さが正義、弱者には権利なし。馬鹿みたいな考えなんだけど軍事力だけはあるから周りのポリスは何も言えないんだよね。奴隷狩りはスパルータの貴族が軍事演習を兼ねてたまにやるんだってさ」
「殺しに慣らす為もあるんでしょうね。権力者ってのは、どこの世界でも似たような事をやるもんですね。でもそんな事をして平気なんですか?」
権蔵は横暴な治世をしたばっかりに人心が離れて下克上や一揆が起こり転落した殿様を何人も見て来た。
「スパルータは猿人至上主義でもあるんだ。クレオちゃんにしてみれば猿人族の中でも飛び抜けて顔が怖いゴンちゃんに怯えるのは無理がない話なんだよ…クレオちゃん、ゴンちゃんは顔は怖いけど意味もなく女の子に手をあげたりする馬鹿じゃないからね」
「姉さん、俺はそんなまっとうな人間じゃないですよ。まっ、無駄な殺しなんて何の得にもならないからしませんけどね。とりあえず今日は飯を食って寝ろ。明日はお前の服や身の回りの物、それと馬車を買いに行く。馬はお前が選べ」
権蔵はそう言い終えると窓から飛び出し闇夜にその身を消した。
「えっ?えっー!!ここ2階ですよね?大変です、ご主人様が怪我しちゃいますよ」
「ゴンちゃんなら大丈夫だから。さっ、ご飯にしよっ」
――――――――――
奴隷に身を堕とした時から私の未来は真っ暗になりました。
猿人族により人生を滅茶苦茶にされたのに、その猿人族に奴隷として仕えなければならないのですから皮肉ですよね。
最初にご主人様と目が合った時は、あまりにも顔が怖くて体が固まったのを覚えています。
きっと、この怖い猿人族に弄ばれて私の人生は終わってしまう、そう思っていました。
でも奴隷になって数日経っても、ご主人様は私を抱くどころか指1本も触れていません。
「お、おはようございますご主人様」
「今日は昨日買った馬に慣れてもらう」
私との会話も必要最低限のみです。
きっと猿人族至上主義で犬人族と話すのが嫌なのかと思っていたんですが
「ゴーンちゃーん!!何回言ったら分かるの!!どうしてクレオちゃんに優しく出来ないの?」
「別に良いじゃないですか。俺は女と話すのが苦手だって言ったでしょ」
でも、ご主人様はエルフのプリムラ様に頭が上がらないみたいです。
少しだけ、ほんの少しだけ私の人生に微かな光が差したかも知れません。
一時期、更新停止を考えていました




