下忍が異世界で手に入れた絆
宿屋の主人から頼まれたのは奴隷商の屋敷への潜入。
「それは依頼でしょうか?」
(見つからねえ自信はあるが、今はできるだけ騒動は少なくとしておきてえんだよな)
騒ぎが大きくなりイスヒシの城の警備が厳重になってしまっては本末転倒でしかない。
「依頼ですし、お金はきちんとお支払います。潜入して欲しいのは奴隷商クラニオの屋敷です」
「店じゃなく屋敷ですか?」
(つまり店に置いておけないやばいモノって事か)
「つい先日、12部族の1つヴァルゴの姫が行方不明になりました」
「ええー!!リリーちゃんが?!リリーちゃんは滅多に外にでない娘なんだよ」
自分と同じ12部族の姫が行方不明と聞いて大声をあげて驚くプリムラ。
「そのリリーって娘もレオのお姫様に呼び出されたんですね?」
「はい、圧力を掛けて呼び出されたレオの領地に向かう道中で行方不明になっています」
「しかも行方不明になった場所はヴァルゴ領内ですね」
宿屋の主人はうなだれる様に無言で頷いた。
「ゴンちゃん、何で分かったの?」
「それが一番確実だからですよ。レオの姫様が自分で呼び出しといてレオの領地で行方不明になったら怪しまれますし責任問題になりますからね。ヴァルゴの王様としてはレオがやった疑いはあるも証拠がない上に自分の領地で起きた事なので文句のつけようがねえ。格下の相手には良く使われる手です」
何しろ、権蔵は似た様な手口の話を嫌と言う程聞いた事があるのだから。
「私達はクラニオが特別なエルフを仕入れたとの情報を掴みました。きっとそれはリリー様の事です。ゴンゾウ様引き受けてもらえますか?」
宿屋の主人がすがりつく様な目で権蔵を見てくる。
(このまま引き受けたら取り戻すのも頼まれるんだろうな)
「そのリリーさんはどんな方なんですか?特徴がなきゃ確認が出来ないでしょ?」
「えっとね、リリーちゃんは僕と同じぐらい可愛いよ。長い金色の髪に真っ白なお肌でお人形さんみたいだし性格も大人しいんだよ。僕とお話をしていてもあまり喋らないし」
(僕と同じぐらいって、何気に姉さんって良い性格してるよな。それに…)
「それは姉さんがリリーさんが喋る暇もなく喋ってるからでしょ。なんか遠目からでも確認が出来る特徴はありますか?」
普段でも権蔵が一言喋る間に何倍もプリムラが喋っているのだ。
「ゴンちゃんは自分が無口な癖にお姉ちゃん扱いが酷くない?もうお姉ちゃんは泣きそうだよ」
プリムラはわざとらしく顔を両手で覆ってみせる。
「言っておきますけど、俺は姉さん以外の女にこんな軽口を言った事はないんですよ。パッと見で分かる特徴がなきゃ確認は無理です」
「あの本人に確認しては駄目なんでしょうか?」
最もと言えば、最もな事を宿屋の主人が提案してくる。
「駄目だよ、そんなのは無理だもん。リリーちゃんは他のエルフにも怯える様な娘なんだよ?それに誘拐されている今は人間に対する恐怖感が凄い筈。そこにゴンちゃんみたいな怖い顔の人間が突然現れたらどうなると思う?きっとリリーちゃんは泣き叫んじゃうよ。何よりそんな事になったら僕の可愛いゴンちゃんが傷つきます。却下です、認めません!!」
プリムラは反論の隙もないぐらいに一気にまくし立てた。
「お嬢様、リリー様を見殺しにしろと」
「それなら大丈夫。僕がゴンちゃんと一緒に潜入して確認してくるから」
プリムラはどうだ参ったかと言わんばかりに胸を張ってみせる。
「お嬢様をそんな危ない目に合わせる訳にはいきません。行くなら私が着いて行きます」
「あのねぇ、僕のゴンちゃんは本当は凄いナイーブなんだよ。何があってもゴンちゃんを拒絶しない自信はある?…例えば人を殺す所を見たりしても。エルフの騒動でゴンちゃんを傷つけるのは許しません。何よりゴンちゃんの背中に乗って怖がらない自信はある?」
その後、宿屋のエルフ全員が権蔵に背負われてイロアスの街を一周したのだが、全員グロッキーとなり倒れ込んでしまっていた。
ただ1人を除いては
「ゴンちゃん、ゴンちゃん、次は向こうの屋根に行ってみよー!!」
「姉さん忍び扱いが厳しくないですか?…今日はありがとうございました。その嬉しかったです」
権蔵今まで誰かに庇ってもらった経験なんてなかった。
ましてやプリムラは同族のエルフより権蔵の味方をしてくれたのである。
「あっ、あー!!ゴンちゃんが嬉し泣きしてるー!!可愛い弟を守るのは姉の勤めなんだから気にしないの」
そう言ってプリムラは権蔵の頭を優しく優しく撫でてた。
「俺は泣いてましたか?ははっ、人間の屑みたいな下忍にも涙があったんですね」
そう言って自嘲する権蔵を無言でプリムラは優しく包み込む。
闇夜の中、違う世界で生まれ血も繋がらない種族も違う姉弟の間には確かな絆が生まれていた。
―――――――――
「ここがクラニオの屋敷ですね」
権蔵はプリムラを背負ったまま、教えてもらったクラニオの屋敷を下見に来ていた。
「うわっ!!趣味わるっ。あれは成金趣味の見本物件に出来るよ」
プリムラが騒ぐ通り、クラニオの屋敷の屋根は何色も原色で塗られており、壁は金銀で彩られていた。
庭には素人が見ても統一感がない彫像が所狭しと並べられている。
「警備が薄いな…姉さん、このまま忍び込みます」
戦場から敗軍の将を背負って逃がした事に比べればプリムラを背負っての潜入は容易いものであった。
……
「ゴンちゃん、どうしよう。リリーちゃん奴隷の首輪を着けられてるよ」




