下忍が異世界で初めて呆れた者
「男はな、いつでも戦場にいるつもりでなきゃいけねえんだよ!!分かるか?」
権蔵が見ていただけでもイスヒシは、かなりの量の酒を飲んでいた。
酔っ払っいと化したイスヒシが絡んでいるのは10代前半と思われる少女。
20代半ばを過ぎていると言うイスヒシが少女に絡むには姿は醜悪を通り過ぎて滑稽ですらある。
(戦場で酔っ払う馬鹿がどこにいるんだよ、しかも絡んでるのは女奴隷じゃねえか)
少女の首には奴隷に着けられると言う首輪が着いていた。
少女の怯えた表情に満足したのか、イスヒシは好色な顔になり少女を連れて部屋を出て行く。
イスヒシが部屋から居なくなったのを確認して権蔵が音もなく部屋に降り立った。
(しかし、良く集めたもんだな)
イスヒシの部屋には武具、鎧、剥製等が所狭しと飾られていた。
武具や鎧は美々しく磨かれているも、誰かが使いこんだ跡がある。
(武具も鎧もイスヒシとは大きさが合わねえな。…大方、有名な騎士や冒険者から高く買い取ったってとこか。テメエに合わねえな武具なんざ集めてどうするんだよ。そういや京の公家にもこんな奴がいたな)
その公家は戦で活躍した武士の刀を欲しがるらしく、権蔵が別件で屋敷に侵入した時も大小様々な刀に囲まれて1人悦に入っていた。
(イスヒシもお公家さんと一緒で強い奴が使った物に囲まれて強くなった気分になりてえんだろうな。…それで肝心の物は…あれか、だいたい三尺(90㎝)ってとこか。確かに真っ赤だ)
エレオスに頼まれた紅い牛の角は8尺(2m40㎝)ぐらいの高さがある棚に置かれており、闇夜に赤く浮かび上がっていた。
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既に夜遅くなっていたがエルフの宿屋はまだランプが灯されている。
「ただいま戻りました。姉さ…プリムラさんはもうお休みですか?」
「お嬢様はゴンゾーさんをずっとお待ちですよ」
宿屋の主人が顔を向けた先にはプリムラが身動ぎ一つせずに椅子の座っていた。
「ゴンちゃんお帰りなさい。さっ、お姉ちゃんと一緒にご飯を食べよ」
プリムラは権蔵を見つけるとホッとした表情を浮かべる。
(そういや姉さんが来てからいつも一緒に飯を食ってたよな。…誰かが飯を一緒に食うのを待ってくれるってのは嬉しいもんだね)
つい1ヶ月前までは木の上で保存食を食べたり、薄汚い小屋で飯を食っていた権蔵にしてみれば、それは例えようのない嬉しさであった。
エルフの宿屋と言う事もあり、出された食事はパンと野菜を中心とした物で肉や魚は殆ど使われていない。
「人族の男性の方には物足りないかもしれませんが」
主人が皿を並べながら申し訳なそうに話す。
「とんでもない。こんな贅沢な飯なんてこっちに来るまで食べた事がありませんよ。…ああ、うめぇ!!」
芯から嬉しそうな顔をする権蔵に場の空気が和やかなものになった。
「ゴンちゃんって何でも美味しそうに食べるよね。毒以外なら平気で食べちゃいそうだよ」
「毒なら良く食わされてましたよ。少しずつ食べたら毒が効かなくなるって言われてね。まっ、お陰で毒に詳しくなりましたよ」
プリムラ以外のエルフが絶句し、シンと静まり返る。
「お姉ちゃんはゴンちゃんの昔話を聞く度に胸が苦しくなっちゃうよ。それで頼まれた物はあったの?」
一緒に暮らしているお陰で忍び耐性がついたプリムラが話を始めた。
「ありましたよ、明日からは仕込みと姫様に頼まれたイスヒシの楽しみを調べます。あれぐらいの警備なら昼間でも忍び込めます」
「ゴンちゃんお願いだから無理だけはしないでね」
そう言いながらプリムラはお茶を入れたり料理を小皿に取ったりと甲斐甲斐しく権蔵の世話を焼いていた。
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次の日、権蔵は1人でイロアスの街をふらついていた。
(宿屋の主人の話だと…確かこの辺りなんだが…あの店だな)
「すいません、この木材を下さい。それと染料を売ってくれる店を教えて欲しいのですが」
権蔵の顔に似合わない愛想の良さに安心したのか雑貨屋の主人は権蔵に次の店を快く教えてくれた。
必要な物を買い揃えた権蔵は荷物を宿屋に預けると、その足でイスヒシの居城に忍び込んだのだが。
(やれやれ、武具だけじゃなく、こっちも収集家とはね)
呆れる思いで権蔵が見つめる先には20人近い女性達がいた。
その中には昨日の少女もいたし、猫耳や尻尾が生えた少女もいる、共通しているのは見目麗しく10代前半で奴隷の首輪をしている事。
(全員が餓鬼で奴隷か。人の事は言えねえが大人の女に相手にしてもらえねのかよ。これが姫様の言っていたイスヒシの楽しみだな)
それを確認すると、権蔵はその場を後にする。
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宿屋に戻った権蔵は苦無で買ってきた木を削り始めた。
「ゴンちゃんって器用だよね。苦手な事はあるの?」
「俺が苦手なのは女を口説く事と子供の相手ですよ。この顔ですから泣かれる事はあっても懐かれませんからね」
最も初対面で権蔵を警戒しない相手の方が少ないのだが。
「それでその女の子達はどうするの?」
「どうするもこうするも俺には食わせていく手段がないですし、こっちの決まりじゃイスヒシは法には触れていないんでしょ?後は姫様がどうするかですよ」
そう言いながらも権蔵は休む事なく木を削っていく。
「凄いね、見る見るうちに牛さんの角が出来ちゃった!!」
「後はこれを赤く塗れば完成ですよ。…姉さんは好きな動物とかいますか?」
「僕は森育ちだからリスさんと仲が良かったんだよ…すごーい、リスさんだ」
権蔵は余った木材からリスを削りだしていた。
「根付けって言うんですよ。姉さんには世話になってますからね。お礼です」
プリムラの嬉しそうな笑顔を見て権蔵も思わず笑顔を浮かべる。
そんな中、ドアが控えにノックされ宿屋の主人が部屋に入ってきた。
「ゴンゾーさんにお願いがあります。奴隷商の屋敷に忍び込んでもらえますか?」




