下忍が異世界で初めてした決闘
闇夜の中、パノプリアザリガリの下では赤々と火が焚かれていた。
「ゴンちゃん少しは寝ないと体に毒だよ」
「平気ですよ。忍びの時は2、3日寝ない事なんてザラにありましたからね。それより姉さんこそ寝ないとお肌が荒れますよ」
権蔵はパノプリアザリガリを吊し上げてから丸2日寝ないでいる、夜はパノプリザリガリを乾かす為の火を焚き続ける為に昼はタナトスを待つ為に。
「うわっ、生意気!!いくらエルフのお肌が弱くてもゴンちゃんが徹夜しているのに寝れないよ。どこかのチビ神官みたいにね」
ミナは近くの村で畑を荒らしていたパノプリアザリガリを倒した神官様として下に置かれない歓待を受けていた。
「今のミナは歓待を受けるのも寝るのも仕事ですからね」
「でもさーパノプリアザリガリはゴンちゃん1人で倒した様なものでしょ。なのにゴンちゃんは一睡もしてないのにチビ神官は村で歓待を受けて高いびきをかいてるんだよ」
「ミナが持ち上げられれば持ち上げられる程タナトスの耳にパノプリアザリガリが倒された事が届きますから。それに俺は人に歓待されるのは好きじゃないんですよ」
人に歓待されるよりも暗い闇夜に1人で溶け込んでいる時の方が権蔵の性には合っていた。
「でも本当にタナトスは来るの?もしかしてゴンちゃんは約束もしていない相手を待ち続ける気?」
「来ますね。騎士ってのは武士と一緒で気の毒なぐらいに名誉や栄誉に敏感で自尊心が高いんですよ。自分が戦うのを避けていた魔物を倒されたとあっては無視を出来ないと思いますよ」
強い魔物を倒した強者を倒せば自分が領内において未だに最強である証になるのだから。
「それじゃいつ来るか分からないじゃん」
「来るなら人目につく昼間に来る筈です。浮かれている村人を鎮める為にもね。俺としては夜に来てくれた方が有り難いんですけど」
騎士にとって仕えるのは民衆ではなく己の領主、民衆が領内より神官を信奉するのはタナトスにとっては悪事となるだろう。
「昼にタナトスが来ても倒せるの?」
「倒せるから来たんですよ。タナトスには悪いですけども、この国の強者の力を見定めたいですからね」
倒せないなら逃げればいいだけなのだから。
――――――――――
朝になると権蔵は木の上で周囲を警戒していた。
(来たな。足音を消さない所を見ると奇襲をするつもりはないと)
権蔵は音もたてずに地面に降り立つ。
「姉さん、タナトスが部下を連れてこちらに向かって来ています。数は全部で4人。姉さんは木の上に隠れていて下さい」
権蔵は自分なんか本気をで心配してくれるプリムラを人質にとられでもしたら行動を制限されてしまうのを恐れたのだ。
「それじゃゴンちゃんお願いね。それてお姉ちゃんと約束して危なくなったら逃げなさい」
「逃げるなら姉さんを連れて逃げますよ」
――――――――――
ゴンちゃんは私から離れると音もたでずに地面に降りていった。
目は輝きを失い洞穴の様に暗く、口には凄惨な笑みを浮かべている。
「お前がパノプリアザリガリを倒した男か。それはティグリ様にお譲りしろ」
タナトスは頑丈な鎧を身につけていた。
顔を出しているのは自分の力を誇示する為だと思う。
「譲って命の保証をしてくれるんなら素直に譲りますけどね。でも部下の方々は殺気を隠しきれていませんよ」
タナトスの部下も騎士らしいけどニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべて重厚さの欠片もない。
「お前は他国からの密偵、ティグリ様の統治を乱す為にパノプリアザリガリを放った。そう言う事だ」
「ついでにパノプリアザリガリを倒した手柄はあんたが横取りかい?全く功名餓鬼はこれだから嫌なんだよ」
ゴンちゃんはそう言うと腰に差してあるカタナに手を掛けた。
でもあれは確か竹で作ったタケミツってカタナの筈。
「飢える心配はないし金もある、破断のタナトスの名前を聞けば貴族の娘どもが尻尾を振って近づいてくる。後欲しいのは名誉だろ?もっともお前みたいにみすぼらしく醜い男には分からない話だろうがな」
「分かりたくもないね。少なくともお前みたいに欲に溺れた顔にはなりたかないんでね」
ゴンちゃんはそう言い終えるとタナトスに素早く斬りつけた。
「破断を舐めるなー」
タナトスの剣がタケミツごとゴンちゃんを両断しようと襲いかかる。
ゴンちゃんはわざとタケミツを斬らせてる事でタナトスの剣は避けた、同時にタケミツを地面に捨てる。
そして手首に巻き付けてある縄を指で引っ張り出すと、その縄に結びつけてあったクナイでタナトスの首を斬りつけた。
「あんたは破断に溺れ過ぎなんだよ。だから防御がまるでなっちゃいない。まっ、今更言われても遅いだろうな」
ゴンちゃんは首から大量の血を流しているタナトスを一瞥すると部下達と向き合った。
ゴンちゃんなら残りの男達を倒すのは苦にならないだろう。
でもこれ以上ゴンちゃんの暗い顔は見ていたくない。
私は弓をつがえるとタナトスの部下に向かって弓を放った。
―――――――――
無傷のパノプリアザリガリの殻は素材として高く売る事が出来た。
お陰で権蔵達の生活はかなり充実している。
そんな権蔵の元に久しぶりにあの男が訪ねてきた。
「ゴンゾーさん、お久しぶりです。約束通り依頼を持って来ましたよ」
「これはエレオス殿お久しぶりです。それで依頼はなんでしょうか?」
「イスヒス・アスブロの邸宅から取り戻して欲しい物があるんですよ」
イスヒス・アスブロ、はアスブロ王家の次男でメトレイオフロン姫の兄である。
それを告げるとエレオスはニヤリと笑う、その口には鋭い牙が光って見えた。




