下忍が異世界で初めて告白した事
(俺を真人間にね。…ご苦労なこった)
権蔵は目の下を走る馬車を見て溜め息が出る思いだった。
その当人、ミナは引っ越し荷物があるので今回は馬車を利用している。
そして権蔵も背中に大量の荷物を背負っていた、依頼主の殆どがアーテナイからアスブロに移った為に権蔵も折角手に入れた新居を断腸の思いで手放したのだ。
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権蔵はアスブロに引っ越した事をメイに伝え、自由に改築して良い家を紹介してもらったのだが
「ゴンちゃん、お姉ちゃんお友達は必要だと思うよ。でもあの娘は微妙だと思うな」
「それよりなんで貴女が俺の家にいるのかを教えて欲しいんですが?」
メイから紹介された家に荷物を運び終えて、一息ついているとプリムラがごく僅かな荷物持ってやって来たのだ。
「お姉ちゃん、貴女なんて他人行儀な言葉は嫌いだな。だってあの娘は神官さんなんだよ。結婚はおろか恋愛も期待出来ない。それに友達としてもゴンちゃんを真人間にするなんて事を言う様じゃ駄目だし」
「話を戻しますが、お城には何時お戻りになるのですかプリムラさん」
「ゴンちゃん、ちゃんとお姉ちゃんと呼んでくれなきゃお返事はしてあげません」
「この間はプリムラさんで大丈夫だって言ってたじゃないですか?それに何でお城じゃなく俺の家に来たんです?」
「お・ね・え・ち・ゃ・ん」
「くっ…それなら姉さん答えて下さい。なんで家にいるんですか?」
普段なら他人を騙す事に毛ほどの罪悪感を感じない権蔵であったが、何故かプリムラをお姉ちゃんと呼ぶ事に妙な抵抗感を感じていた。
「姉さんか、今の所はそれで良しとしておきますか。それではお姉ちゃんからゴンちゃんにクイズです。なぜお姉ちゃんはゴンちゃんの家に来たんでしょうか?ヒントは2つ、お姉ちゃんはエルフで族長の娘さんです。正解したらお姉ちゃんが添い寝をしてあげる」
「城の連中がちょっかいを出して来ましたか。城にいる奴らが見た目の良い権力者の娘を放っておく訳がない、姉さんを女にしてエルフの族長と繋がりを持てば王の座に一歩近づけますからね。正解でも添い寝は遠慮しておきます」
「ピーンポーン!!大正解。ほら父親に手紙を出した所為で私の事がお城中に広まったみたいで、ゴンちゃんがいない間に何回も面会を申し込まれて大変だったんだよ。添い寝を断った良い子のゴンちゃんにはお姉ちゃんが一緒に住んであげます」
今のプリムラはメイにとって貴重な力である。
それに権蔵は女性に可愛がられるなんて経験は生まれて初めての経験であった。
「住むのは構いませんが、俺は自宅を留守にする事が多いですよ」
「それなら大丈夫。お姉ちゃんもゴンちゃんとパーティーを組んであげる。こう見えてもお姉ちゃん弓が得意だし魔術や魔物の知識が豊富なんだよ」
「そうなるとパーティーは忍びに神官に弓矢使いですか。簡単な依頼を中心に受けていけば問題ないですね」
「出来たら前衛職が欲しいね。ところでゴンちゃんシノビってなに?」
(なんでだ?なんで俺はあっさり忍びだってばらしてんだ?それに何でこの人が相手だと警戒心が緩むんだ?)
「忍びは影働きをする物ですよ。暗殺、毒殺、流言、盗み、騙し。汚れ役ならなんでもやる物ですよ。決して人間扱いはされない道具、下忍は殺せと言えば殺すし死ねと言えば死ぬ。血と欲で汚れた道具です」
実際に囮役の為に死んだ仲間もいたし、殺した人間は数しれない。
「ゴンちゃんは何で忍びをしてるの?ゴンちゃんなら他にも出来る仕事があるでしょ?」
「物心がついた時から忍びでしたから。それに忍びは辞める事が出来ないんですよ。抜け忍は殺されるだけですから」
「ゴンちゃんの親御さんは何も言わないの?」
「俺は親の顔を知りません。口減らしの為に売られたのか、どこかの村から連れ去られたのかも分からないんですから。それに俺が生まれた国は、こことは違う世界にありますから今は完璧に天涯孤独の身ですよ」
権蔵の記憶は鍛錬の日々から始まる、権蔵の幼い頃の記憶は鍛錬と飢えと叱責のみであった。
「決めたっ!!私はゴンちゃんの本当のお姉ちゃんになる。ゴンちゃんが反対しても認めないからね」
プリムラは涙を流しながら宣言する、権蔵が彼女から感じていたのは生まれてから一度も味わった事がない母性愛であった。
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ゴンちゃんの話は衝撃的だった。
でもこれで前からゴンちゃんに感じてたいた違和感が分かった気がする。
私の使える魔法にソウルサーチがある。
ソウルサーチは相手の魂の本質を調べる魔法、ゴンちゃんからは冷たく醒めた心と愛情に飢えて泣いてる子供のイメージが浮かんできた。私はこの命を救ってくれた人間の若者を弟分として可愛がろうと思う。
人間族と違って私達エルフは見た目ではなく魂を重要視する。
「ゴーンちゃん。お風呂でお姉ちゃんの背中を流してくれないかな?」
「ふ、風呂くらい1人で入れっ」
何よりもこれ位で顔を真っ赤にして照れているこの子が可愛くてしかたないのだ。




