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下忍が異世界で初めて会ったエルフ

 ティグリ子爵の屋敷は文字通り蜂の巣を突ついた様な騒ぎになっていた。

その騒ぎで1人の男が倉庫の棚の上で目を覚ます。

騒ぎを作り出した張本人の権蔵である。


(さて、蜂が騒いでる隙に屋敷の中を探るとするか)

倉庫から出ると廊下には人の姿は見当たらない。


(屋敷の人間はどこかに集めて尋問でもされてるんだろうな)

屋敷に泊まっていた奴隷商と護衛達が一夜の内に殺されてしまったのだから犯人は屋敷にいた人間の可能性が高いと踏んだんだろう。


アスブロでは貴族の屋敷は治外法権扱いにされておりある程度の自治が認めれていた。

逆に言えば屋敷内で起きた犯罪は貴族が訴えない限りは国も手をだせないのである。


権蔵は昨日の内に目をつけておいた場所に移動して行く。

(おっ、昨日は兵士が張り付いていたが今は誰もいないな)

そこは地下に続く階段がある場所、権蔵は見張りの兵士の会話からここに地下牢がある事を確信している。

薄暗い階段を降りて行くと、そこにさ予想通り鉄格子がはめられた部屋が幾つかあった。

部屋は薄暗く、普通なら中の様子が分からないが夜目の効く権蔵にしてみれば昼間と変わりがない。


(牢屋にいるのは男と女。中年の男に少女だな。中年の男は顔に卑しさが張り付いてる、ありゃ盗みに入って捕まったとかが関の山だな。女は泣き疲れて焦燥しきっている。それなら…)


まず権蔵は中年の男がいる牢屋に近付いていった。


「よお、兄弟ここから出たくはないか?今なら格安で鍵を開けてやるよ。心配するな、今は屋敷で騒ぎがあって見張りはいねえから逃げやすいぜ」

権蔵はわざと男に合わせた卑しい表情を作り話し掛ける。


「本当か?ありがてえ、俺を助けてくれるんなら良い情報を教えてやる」


「俺も火事場泥棒に入ったのは良いが何も探せなかった口でな。情報ってのはなんだ?」


「この牢屋にエルフの娘がいる。エルフの貴族の娘なんだが1人でティグリの領地に迷い込んだ時に捕まったんだよ。ティグリは貴族から身の代金をせしめるつもりらしい」


(つまりその娘がいればティグリの尻尾を掴めると)

「随分と詳しいな」


「そりゃ俺が捕まえたんだからな。ティグリの奴、バレるのを恐れて俺を拘束しやがった」

牢屋の鍵は単純な鍵で権蔵にしてみれば掛かっても無いも同然、男は権蔵が鍵を開けると一目散に逃げ出して行った。


(馬鹿が、そんなドタバタしてたんじゃバレちまうだろうが。それじゃ次に行くか)


「さて俺がここから出して助けてやる。条件は何があっても騒がない事だ、良いな。安心しろ、あんたには手は出せなねえ」

エルフの少女はよほど怖い目にあったのか黙って頷いた。


「それじゃ俺におぶされ。一気にここから逃げるぞ」


権蔵はそう言い終えると一気に駆け出して行く。



―――――――――


 あの日、僕は従姉妹に知らない森に連れてこられんだ。

その従姉妹がいなくなったと思ったら、人族の男に捕まって薄暗い地下牢に閉じ込められた。

まともなご飯もくれないし、水浴びもさせてくれない、お願いをしたら叩かれる。

絶望の淵にいる僕に声を掛けてくれたのは怖い顔をした人族のおじさん。

怖くて反射的に頷くとおじさんは僕をおぶってもの凄い速さで走り出したんだよ。

途中、何故か目隠しをさせられたんだ。

おじさんが言うには暗い場所に長くいた人が、いきなり明るい場所に行くと目に悪いんだって。

「おじさん、もう目隠しを取っても良い?」

おじさんは見た目は怖いけど優しい人なんだと思う。


「おじさんさんかよ。これでも俺はまだ27才なんだぜ。目隠しを取っても良いが騒ぐなよ」


「騒がないよ。…なんでこんな高い木の上にいるの?ねっ、おじさん」


「俺はおじさんじゃなく権蔵だ。ったくそんなお前は何歳なんだよ」


「僕はお前じゃなくプリムラって名前があるんだよ。年はまだ90才だし」



――――――――――


 「90?!ババアじゃねえか。ったく90のババアが27の若者をオジサン呼ばわりかよ」


「エルフは長命だから90才でも子供扱いなの!!ゴンちゃんは見た目がオジサンなんだもん」

おじさんの次はゴンちゃんかよ。

確かにプリムラの方が年上だから問題はないが。


「プリムラ少し口を閉じろ。あの迫力、あいつが破剣のタナトスだな」


タナトスは1人の男を追っていた、追っているのは権蔵が逃がした男。


「へーえ、あれが破剣の由来か。やるねー」


「ゴンちゃん、ゴンちゃん!あの人、剣ごと斬り捨てたよ」

プリムラの言う通り、タナトスは構えた剣もろとも男を両断したのだ。


「正に一刀両断だな。それじゃプリムラ行くぞ」

この小うるさいエルフを黙らせるにはビビらせる必要があると権蔵は思ったのだが


「凄い、すごーい!!ほらっゴンちゃんもっと早く!高く!」

妙な奴を助けちまったな、つくづくそう思う権蔵であった。


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